彼の特別になりたい
「いつ見ても惚れぼれする男っぷりでした。和装や歴史の知識も深く、近づくとほんのりいい香りが漂ってくるんです。香水はNGでしょうから、シャンプーや整髪剤の香りと白檀などの匂い袋がミックスした感じでしょうか。
着物を着る時、私は下着の上に肌襦袢と裾よけをつけるのですが、航平さんが担当になってからは気恥ずかしいので、キャミソールとペチコートも加えました(笑)。もちろん、大勢の女性の着付けをしている彼ですから、見慣れた光景でしょうが、私ばかりがのぼせ上っている感じで…。で、ますます『彼の特別な存在になりたい』という気持ちが強まっていったんです」
静香さんには2歳上の夫がおり「家族愛」はあるものの、ときめきはなかった。そこに現れたのが航平さんというアイドル的な存在だった。
ある日、航平さんから思わぬお誘いがあったという。
熱海の展示会へ
「残念ながら、プライベートなお誘いではありません。VIPなお客様だけ招待される着物の展示会のお誘いです。ただ、会場は熱海の老舗旅館の大広間。思わず『航平さんと熱海で会えるなんて…』と、夢見心地になってしまいました」
熱海での着物の展示会には、静香さんの祖母や母も誘われたという。しかし、茶道教室の生徒が増えていたこともあり、静香さんが代表で行くこととなった。
「旅館の大広間に通されて驚きました。航平さんを始め、呉服店のスタッフはすべて男性なんです。しかも、皆長身でイケメンの部類に入るメンズが10名ほど。対してVIPの女性客は私を含めて6名。彼らが懇切丁寧に接客し、着物の着付けをしてくれるんです。周りのご婦人たちは始終ご機嫌で美男スタッフと着物を選んでいましたね。
大広間には目隠し用のパーテーションがあり、着付けの際は男性スタッフとプライベートな空間で2人きり。姿こそ見えませんが、衣擦れの音とともに、甘い会話が聞こえてくるんです。
――お似合いですよ。この色留袖は着る人を選びます。さすが奥さまですね。
――まあ、お上手ね。
――本当です。帯は華やかな金か銀がいいですね。どちらがお好きですか?
――両方試してみたいわ。
思いがけない誘い
女性たちの弾んだ声に、私の胸も高鳴りました。着物の好みはあらかじめ伝えていたのですが、航平さんがそっと耳うちしてきたんです。
――実は、静香さんにぜひ着てほしい訪問着があるんです。僕が見立てたんですが…。
――本当ですか? ぜひ、試着させてください。
――ありがとうございます。まだ誰にも紹介していない新作で、隣の個室にあるのですが、移動しませんか?
――えっ、個室…ですか? 構いませんが…。
(うそ、航平さんと2人きりになれるチャンス)
――では、参りましょう。
航平さんに促された私は、嬉しさと緊張に包まれたまま、別室へと歩を進めました」
続きは次回。
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