「あんぱん」松嶋菜々子の“毒”さえチャーミングにする厄介な美しさ。ドキンちゃんにも見えてしまった

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2025-04-19 06:00
投稿日:2025-04-19 06:00

第3週「なんのために生まれて」#15

 8年間音沙汰のなかった登美子(松嶋菜々子)が突然帰ってくる。登美子に対してわだかまりが残ってはいるものの、自分の漫画を褒められてうれしくなる嵩(北村匠海)。

 その一方で、兄貴のようには喜べないとシーソーに座って本を読む千尋(中沢元紀)を、通りがかりののぶ(今田美桜)が見つける。商店街で談笑する嵩たち親子の前に思いつめた表情でやってきたのぶは、涙ながらに登美子にある思いを伝える。そんなのぶに嵩は……。

【こちらもどうぞ】「あんぱん」登美子(松嶋菜々子)の登場が不穏…色っぽいけど。貴島中尉(市川知宏)は“あのキャラ”を意識?

【本日のツボ】

登美子に振り回されっぱなしの嵩がドキンちゃんとばいきんまんに見えた!

 ※※以下、ネタバレあります※※

 8年ぶりに突然、舞い戻ってきた母・登美子。まったくどのツラ下げて、という感じですが、「しばらくこちらにおいていただけないでしょうか?」と堂々の住みます宣言。「男はつらいよ」の寅さんだって久しぶりに帰ってきた時は、店の前を行ったり来たりして入りづらそうにしているというのに……。

 この図々しさ、というかふてぶてしさが嵩や千尋に1ミリも受け継がれていなかったのがせめてもの救いです。ニノがよっぽどいいひとだったのでしょう。それは伯父の寛(竹野内豊)を見てもわかります。文句も言わずにそのまま住まわせてしまうのですから。そりゃあ千代子(戸田菜穂)もイライラしますって。

 しかも、居候の分際で、お茶まで点てて、しかも、「お作法どおりじゃなくても結構ですよ」と千代子を挑発。千代子も負けてはいません。「いつまでいらっしゃるがですか?」「主人は優しいき、なんちゃあ言いませんけんど、いちおう聞いちょかんと、と思いまして」と返します。

「お茶、お花、お琴、一通りのことは身につけてきました。それでも、女がひとりで生きていくのは大変なんですよ」と登美子。「それに……私は嵩のことが心配なんです」と。8年も放っておいたくせに、ぬけぬけてよくもまあ言えたものです。

「再婚先で、親心も学んでこられたようですね」と千代子も負けていませんが、そんな言葉に動揺することもなく、「おかげさまで」と微笑む登美子。この生みの親vs育ての親のバチバチは本日の見どころでした。

 どこからどう見ても、今でいう“毒親”なのですが、登美子の美しさで、その毒さえもチャーミングに見せてしまうからやっかいです。

 そんな母に複雑な思いを抱きながらも、入選した漫画を見て「嵩、賞獲ったの? すごいじゃない。おめでとう」と言われ、嬉しそうな嵩。漫画を読んでフフフと声を出して笑う登美子に、嵩が「面白いですか」とおそるおそる訊ねると、「うん、凄く面白い。……やっぱり嵩は潔さんの子ね~」と嵩に飛びつき、頭をワシャワシャします。「かあさん、やめてよ」と言いながらも、どこか嬉しそうな嵩でした。

 置き去りにされても、捨てられても、それでも母を嫌いになれない嵩が、身勝手なドキンちゃんにさんざん振り回されても、やっぱりわがままを聞いてしまうばいきんまんに見えました。

 男は母親に似たひとを好きになるという話もありますし、ドキンちゃんはのぶと登美子のハイブリッドなのかもしれません。

桧山珠美
記事一覧
TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


「握手」の演出に伏線?寅子と花岡は友情の証、優三のそれとは真逆だった
 寅子(伊藤沙莉)の1年先を行く花岡(岩田剛典)は司法修習後の試験に合格。どうしても早く伝えたいと寅子に電話をしてきたの...
桧山珠美 2024-05-14 16:00 エンタメ
あぶ刑事ヒットならドラマ化も?柴田恭兵の“枯れた老人”は世を忍ぶ仮の姿
 先月までNHK-BSで放送していた「舟を編む~私、辞書つくります~」はなかなか素敵なドラマでした。  三浦しをん...
映画『広末涼子』(仮)の鳥羽氏は中盤キャラ?スキャンダル史まだ続く説
 昨年6月、人気シェフ・鳥羽周作氏とのダブル不倫が報じられ、無期限の謹慎処分を受けていた広末涼子。その後、夫だったキャン...
堺屋大地 2024-05-11 06:00 エンタメ
花岡(岩ちゃん)、寅子に匂わせプロポーズ!?でも黄色いバラの花言葉は…
 とうとう合格した寅子(伊藤沙莉)、先輩の久保田(小林涼子)、中山(安藤輪子)。そして寅子と合格者が3人も出たことで、廃...
桧山珠美 2024-05-10 15:30 エンタメ
生田斗真“無痛おねだり”大炎上の後始末 羊水発言は“謹慎4カ月”だったが…
 俳優の生田斗真(39)が大炎上している。生田はインスタグラムのストーリーズで、ファンから質問に回答する企画で「今日で妊...
優三のいい人キャラさく裂!予告でヒヤリとした梅子の断崖絶壁シーンも〇
 涼子(桜井ユキ)と香淑(ハ・ヨンス)の思いを背負って、寅子(伊藤沙莉)たちは再び高等試験に挑むが、今度は梅子(平岩紙)...
桧山珠美 2024-05-09 16:30 エンタメ
『虎に翼』脚本家、アニメ界でなぜ高評価?朝ドラ人気の要因は公平な目線
 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が好評だ。主人公は日本初の女性弁護士・三淵嘉子をモデルとした猪爪寅子。彼女が投げかける疑...
竹もとで勉強する寅子たちは今時のノマド?法律事務所の初仕事はお茶入れ
 昭和13年春、明律大学を卒業した寅子(伊藤沙莉)たち。寅子は雲野(塚地武雅)の法律事務所で働きながら高等試験合格を再び...
桧山珠美 2024-05-07 14:20 エンタメ
あさイチで光った令和の“料理男子”の新星、キスマイ横尾のライバル現る!?
 ゴールデンウィークといっても、どこかにお出掛けの予定になんの予定もなく、ただ漫然とテレビを見ていたら、神様から思わぬご...
直言ら16名全員無罪!憲法記念日に放送された寅子が語る「法」の解釈
 昭和11年12月。1年半に及んだ直言(岡部たかし)の「共亜事件」がいよいよ結審の日を迎えた。  寅子(伊藤沙莉)...
桧山珠美 2024-05-04 06:00 エンタメ
直言の判決いかに? 寅子の表情、優三腹くだり…テンポ絶妙な法廷シーン
 公判中に倒れた直言(岡部たかし)は、自分の無実を信じる寅子(伊藤沙莉)の気持ちに応え、取り調べで自白を強要されたことを...
桧山珠美 2024-05-02 17:13 エンタメ
『虎に翼』の週タイトルになぜ「?」はる記“主婦乃手帖”で一発逆転なるか
 直言(岡部たかし)は寝たきりでろくに食事も取ろうとしない。そんな様子をはる(石田ゆり子)は心配していた。  一方...
桧山珠美 2024-04-30 13:50 エンタメ
大谷結婚モロ被りの不穏も何のその!各世代イケメン網羅のキムタクドラマ
 木村拓哉(51)主演ドラマ「Believe-君にかける橋-」(木曜21時、テレビ朝日系)がスタートしました。待ちに待っ...
永瀬廉は大人の色気、髙橋海人はヘタレの真逆 確かに築くキンプリ2人体制
 昨年より、2人体制となったKing & Prince(以下、キンプリ)の永瀬廉(25)と髙橋海人(25)。4月期に始ま...
こじらぶ 2024-04-27 06:00 エンタメ
岩ちゃんか仲野太賀か…優三株の上昇、高等試験に落ち続ける原因判明!?
 突然、猪爪家に検察が押しかけ、はる(石田ゆり子)は直言(岡部たかし)が贈賄で逮捕されたと告げられる。  証拠品と...
桧山珠美 2024-04-26 16:45 エンタメ
まるでコント!寅子との恋フラグは立たず、崖から落ちる花岡(岩ちゃん)
 親睦を深めるためハイキングに行くことになったが、花岡(岩田剛典)たちの態度に溝を感じ、浮かない気持ちの寅子(伊藤沙莉)...
桧山珠美 2024-04-24 14:35 エンタメ