40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-06-15 10:16
投稿日:2025-06-14 06:00

あれから20年。ヤスさんも来年還暦になる

 ここにたどり着いたのは、20年前。百恵がつかず離れずだった恋人のような男と、完全に離れること決意した夜だった。

 度重なる相手の浮気――恋人と認め合ってはいなかったから、厳密に言うと浮気ではないのかもしれない。だけど、時には愛し、時には殺したいと思うような、そんな疲弊した彼への感情に終止符を打つべく、クリスマスの夜、彼に繋がるすべての連絡手段を消した。

 感情の行き場を失い、途方に暮れていた夜。吉野家のカウンターでひとり泣いていると、ヤスさんにナンパされた。そしてここに連れてこられた。

 ヤスさんには当時入院中の奥さんがいて、自称『下心は特になく、とにかくかわいそうだったから』連れてきてくれたという。

「…そっか、あれから20年。俺ら全く変わんねえな」

 ヤスさんは来年還暦である。百恵もあと干支が一回りすると今のヤスさんと同じ年になる。

何度も死を願った男の「死亡通知状」

『毎々』でいつものように時間を潰し、百恵が自宅アパートにたどり着いたのは日付が変わった頃であった。

 ほろ酔いの多幸感に浸りながら、レターボックスを覗き、部屋に入るいつものルーティーン。入っていたのは、不用品回収、くもん教室、マンションのチラシ。いつもの如く丸めてゴミ箱に捨てようとすると、固い違和感に気づく。

 ハガキが一枚あった。

 死亡通知状だ。グレーの背景を背負って、昔、何度もその死を願った男の名前がそこに書いてあった。

『夫・大野壮一儀 かねてより肝臓がんで療養中のところ、養生相叶わず4月30日 50歳にて永眠いたしました』

 差出人は、彼と同じ苗字の知らない女の名前だった。20年も会っていないのだ、結婚も病気も死にもするだろう。

 ただ、50という数字、そして、自分もついに知り合いの訃報が来る人生のターンになったことを百恵は実感する。

 百恵は、上京してはじめて住んだこの街・赤羽に今も暮らしている。

 就職、結婚、出産。その時々のライフステージに百恵はずっとあぶれてきた。赤羽は、そんな百恵にも居場所を与えてくれる。最近は、若い人がテレビや漫画を見て物見遊山でやってきて、観光地のようになってしまったけれど。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


これって誘拐ですよね!? 遊んでいたら詰められた恐ろしいご近所トラブル
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
「俺のソーセージも試食して」じゃねえ! 40女の成人の日の思い出
 1月8日は成人の日。晴れ着やスーツに身を包んだ新成人たちの姿は、眩しいものです。  成年年齢が18歳に引き下げられま...
神秘的! 宝石のようなオッドアイの純白“たまたま”に幸福祈願
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「緑の黒髪」があるなら、白髪の“褒め言葉”は?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
まるで宝探し!話題の木更津コンセプトストアでほっこりした男女の会話
 昨年6月、三井アウトレットパーク木更津(千葉)の隣にオープンした「木更津コンセプトストア」。サステナブルな社会を目指し...
日本の美徳すごい!便器に汚物箱…海外で体験した考えられないトイレ事情
 日々の生活に絶対に欠かせないもの、「トイレ」。1日に何度も顔をあわせる存在ですが、実は国によってトイレの形状や使用方法...
2024-02-26 19:03 ライフスタイル
湧き水が心にも沁みてくる 福井県爪割の滝
 北陸地方に甚大な被害をもたらした能登半島地震。  被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。  つらいこ...
「量と質」どちらを優先するか迷ったら経験値を振り返ろう
 大人になると「量より質」を意識する機会が増えますよね。私の場合、食事に関してはまさにそうなってきた気がします。  そ...
【2023年人気記事】セックスは嗜好品?子宮頸がんサバイバーの性生活
 2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記事を再掲載します。こちらの記事初...
2024-01-04 06:00 ライフスタイル
近すぎなくていい 毎日は“ゆるい人間関係”に支えられている
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
貫禄の毛繕い中をパチリ!ありがたいご神体“たまたま”に感謝
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
駆け落ちにマッチングアプリ…いつの時代もロマンティックに憧れる
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
【2023年人気記事】ラブホテルに泊まりました。
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
【2023年人気記事】新宿立ちんぼ女性に異変…進む売春のフリーランス化
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
【2023年人気記事】吉田沙保里と大久保嘉人は公認? ウロつく女が嫌!
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...
【2023年人気記事】新幹線で帰省、ヤバい親子に遭遇!お互い様の解釈
 あけましておめでとうございます。2023年は「コクハク」をご覧いただき、誠にありがとうございました。反響の大きかった記...