ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-06-15 10:27
投稿日:2025-06-14 06:00

【赤羽の女・佐藤百恵48歳 #3】

 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らしている。そんな時、昔関係のあった男が亡くなったと訃報が入る。当時の友人二人と会いに行くが……。【前回はこちら】【初回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 その夜、どんなにストロングゼロを煽っても、百恵は眠りにつけなかった。

 死の恐怖が心理的にも物理的にも迫っているのに、身体に悪いことをしているのは、それだけまだ大丈夫だと思いたかったから。

 ――このまま、気持ちよく死んでしまった方がラクかも。

 社保以外の保険に入っていないから、闘病するにも不安がある。心配もされたくない、ましてや実家にも帰りたくない。

 結婚も、就職も、ことごとくあぶれて来たのに病気や死のターンだけは簡単に波に乗ることができる現実にやるせなさを感じる。

 ふとその時。今は生きるよりも死ぬ方が最適解だと百恵は感じてしまった。思い付きで枕元の飲みかけのアルコールと買い置きの睡眠導入剤を交互に口に含む。しばらくすると、記憶が消えた。

48歳。相次ぐ友人の死。そして、百恵も…?

 朝。

 清々しいほど陽の光がまぶしさで百恵は目が覚めた。身体は超絶重いが、生きていることを実感した。

『百恵? どうしたの?』

 スマホから声が聞こえてきていた。聞き慣れない声だ。

 画面を見ると、通話時間は1時間を超えていた。声の主は詩織だった。どうやら、寝ている最中に寝返りで誤発信をしていたらしい。間違いだとはわかっていたようだが、壮絶な唸り声で心配してずっと呼び掛けていたようだ。

「ごめん、恥ずかしい所見せちゃって」

『よかった、大丈夫そうで』

 大丈夫。

 何の気ない言葉。だけど、今の百恵には重く響いた。

 そういえば、詩織は「乳がんでひっかかった」と言っていたことを思い出した。以前、突き放したにもかかわらず、自分勝手だとはわかっている。

 だけど、なんでもいい、百恵は人間の温度がほしかった。誰かに存在を確認してもらいたかった。

 もしかしたら、数カ月後には、この世にいない可能性もあるのだから。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


今夜は誰と出合おうか…人で溢れる街の隅っこに転がる心
 先に仮想世界(?)でお互いを見つけて、そこから顔を合わせるって最初は気まずくないのかな? と昭和の世代は思っちゃうけど...
菜の花の小道で一触即発! 道を譲るのはどっちの“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
この子を育てるのは無理かも…発達障害児がストレスで鏡に刻みかけた言葉
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
水商売の水は流水説 夜の街で働くホステスやホストだけが当てはまるの?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
朝日に向かって飛び立つハクチョウにも悩みがあるとしたら…
 朝日を浴びて飛び立つハクチョウたち。並んで飛んでいるけど、それぞれどんな立場で、どんな関係なんだろう。  きっと...
イラッ!遅刻を許せない私は心が狭い? 穏やかな心を保つ3つの考え方
 会社や約束の時間に、平気で遅刻を繰り返す人を見ると「許せない!」と感じる人は多いはず。とはいえ、自分がイライラすれば周...
シャトレーゼ専用のポイ活は知らなきゃ損! 激アツ宿泊特典&賢い裏ワザ
 シャトレーゼのお菓子はよく食べているのに、シャトレーゼのポイント「カシポ」を知らないなんてもったいない! 「カシ...
贈り物に「無理して喜ぶ」はNG行動 本当にイイ女は“感動コスパ”の猛者
 誰かに喜んでもらえるのって嬉しいですよね。そして小さな労力でたくさん喜んでもらえたら、もっと嬉しいですよね。それが“感...
2月相次ぐ地震で“南海トラフ”がトレンド入り 専門家の警戒する地震は?
 2月15日午前10時8分、京都府南部で震度3(マグニチュード=M3.7)の地震が発生。14日にも同じ場所で震度4(M4...
仕事をがんばるあなたへ こんな時代だからこそ「自己肯定感」を高めて
 自分を条件なしに肯定できる力を「自己肯定感」といいます。あなたは、自己肯定感が高いですか? 低いですか? 実は、自己肯...
祝「日刊ニャンダイ」発売! 俺の“たまたま”も載ってるよ♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
私が芸能活動できるのはギャラ飲みのおかげ! タレントの卵の実生活は…
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
自分がナンバーワンになれる場所 それを見つけるのも才能
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
春を告げる「ミモザ」、“命短し”可憐なフワフワを長持ちさせる鉄の掟3条
 先だって大雪に見舞われた、我が愛すべきお花屋の周辺にも春を告げる鳥がボチボチやってくるようになりました。  しかも店...
羽田と成田を間違えた! 職場の新人やらかしエピソード5つ
 新人の頃は、誰でも一つや二つの失敗体験があるもの。でも、中には「ありえない」と思うようなやらかしエピソードも…。  ...
通り過ぎた季節、むせかえるほど深い秋景色の中を歩いた
 何層にも重なった、むせかえるほど深い秋景色。  通り過ぎた季節を想うとやたらと切なくなるのはなぜだろう。 ...