『あんぱん』嵩(北村匠海)に“たっすいがー”の面影はない。のぶへの言葉が胸を打つ「正しい戦争なんか、あるわけがないんだ」

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2025-06-25 18:06
投稿日:2025-06-25 18:01

第12週「サラバ 涙」#63

 空襲の焼け野原でひとり佇むのぶ(今田美桜)の前に、嵩(北村匠海)が現れて再会を果たす。釜次(吉田鋼太郎)から事情を聞いたという嵩に、のぶは教師を辞めたことを話し、子どもたちに取り返しのつかないことをしてしまったと後悔を口にする。

 自分は生きていていいのだろうかと涙を流すのぶに、死んでいい命なんてひとつも無いと、静かに語りかける嵩。

【こちらもどうぞ】「あんぱん」のぶ、“落とし前”の付け方はそれでいいのか。次郎役の中島歩はあまりにも素晴らしかった

【本日のツボ】

嵩、「たっすいがー」返上!? 

 ※※以下、ネタバレあります※※

 のぶと嵩、4年ぶりの再会だというのに、なんだかテンション低めののぶ。遡ること4年。嵩、出征の際、“愛国の鑑”という立場も忘れて、「嵩、必ずもんてきい! お母さんのために、生きてもんてきい! 死んだら承知せんき!」と絶叫していたにも関わらず、命からがら帰ってきたというのに、気のない感じで「嵩、生きちょったが」ですから。

 なんなんでしょう。このぱるるもびっくりの塩対応。ここは駆け寄って、生きて帰ってきたことを喜んでほしいところです。嵩もわざわざのぶに会いに来たのは、ちょっぴりそんな期待があったのでは、というのは下衆の勘ぐりでしょうか。

 もっとも、のぶは、子どもたちを誤った道に導いたと、絶賛、反省中なので、嵩どころではない、という体なのでは、という気も……。

 なんといっても、未亡人になったばかりですから、早くも嵩と急接近なんてことになれば、視聴者の反感を買いかねませんから。朝ドラのヒロインは好感度が一番というのは、「おむすび」の橋本環奈で実証されましたから。ここは適度な距離を保つのが賢明と判断したのでしょう(おそらく)。

 それにしても、あの「たっすいがー」の嵩がずいぶん強くなったように見えました。戦争という過酷な体験を経て、たくましくなったというか……。

「正しい戦争なんか、あるわけがないんだ」

「うち、生きちょってえいがやろうか」と涙するのぶに、「死んでいい命なんてひとつもない」と語りかける嵩。

「正しい戦争なんか、あるわけがないんだ」

「正義なんか信じちゃいけないんだ。そんなもの簡単にひっくり返るんだから。でも、もし……逆転しない正義があるとしたら、すべての人を喜ばせる正義。僕はそれを見つけたい。千尋のために、そうすることしか僕にはできないと思って。

 何年かかっても、何十年かかっても、みんなを喜ばせたいんだ。そう思ったら、生きる希望が湧いた。絶望なんかしてられないって。だから生きるんだ。千尋の分も、みんなの分も。のぶちゃんも、生きてくれ。次郎さんの分も、のぶちゃんが大好きな子どもたちのためにも」。

 熱く語る嵩に、もはや「たっすいがー」の面影はありませんでした。

桧山珠美
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TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

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