仕事や恋に謳歌する私と、髪を振り乱して子育てする彼女。本当に「幸せ」なのはどっち?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-07-12 11:45
投稿日:2025-07-12 11:45

交差するふたりのかみ合わない会話

 記憶だと、あの人の奥さんは専業主婦で、私よりたぶんかなり年上。小学生の子がひとり。目の前の女に比べるとそこまで大変じゃなさそうにもかかわらず、仕事から帰ると彼に愚痴と小言ばかり投げつけるという。

 奥さんも奥さんで孤独なのか。

 だとしても、家族のために、疲れて帰ってきた愛する夫に苦言を呈するなんて意味が分からない。彼は、家に帰っても居場所はなく、息苦しいという。だから私に癒しを求めるのは当然だ。

 きっと、私がいなければ彼はつぶれてしまう。弱音を吐けるのは私だけだと、腕の中でつぶやいていた。

 支えなければ。

 自分本位な性格の私が誰かに対し、こんな優しい気持ちを持てるのは、生まれて初めての経験だった。

「ママさん」に足を踏み入れる勇気はない

 ――あれ?

 なんだか私も息苦しい。水の外にいるのに、ふしぎだ。

 目の前の女性の、一方的なネガティブな話題を耳にし続けることによって、彼の気持ちを追体験している気持ちになったからだろうか。

 私は余計彼に会いたくなった。

「旦那はね、運動会の時も前日二日酔いで――」

「ええ、それはひどいですねー」

 話題を極力耳に入れずに共感し、無感情で目の前の女の表情だけ見ていた。

 子供を持てば、どんな女性も目の前のママさんや彼の奥さんのように、周りが見えなくなって愛する人に思いやりのない人間になってしまうのだろうか。

 可愛くて、綺麗で、スタイルもいいが、剥がれかけたネイルなど、ところどころの雑さが感じられるその女。どんなに着飾ろうと、ママさんとしか表現できない滲み出る生活感。私はまだまだその域に足を踏み入れる勇気がない。

 ――この人は私と同じ年くらいなのに……。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ほっこり読み切り漫画/第59回「ボクは君で、君はボク」
【連載第59回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「「しっ...
「たかが、ものもらい」じゃなかった 30代女、霰粒腫の手術をしました
 先日、眼科で右目のまつ毛の生え際にあった“しこり”の切除手術をしました。「たかが、ものもらい」と思っていたのですが、こ...
久々に会ったペルシャ料理店の友人は変わらず元気だった
 お互いにいい歳。出合った頃より額は広くなったし、シワも増えた。  そして、なぜだか年々服装がハデになっていくんだ...
木下優樹菜はイチャイチャ公開…子の将来に悪影響を及ぼす母親の恋愛は?
 元タレントの木下優樹菜(35)が“アクセル全開”、SNSの投稿や出演番組があれやこれやと話題になっている。  た...
子供の言葉遣いが悪い時はどうすれば? 考えられる4つの原因
 子供が保育園や小学校に通い出すと、悪い言葉遣いを覚えて帰ってきます。また、悪い言葉遣いはSNSや動画サイトなどからも大...
“たまたま”の日常♡ この写真にぴったりな名前を選んでニャ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
コクハク専属ライバー コクハクリーダーズ第1期生を大募集!
 日刊ゲンダイが運営する女性webメディア「コクハク」では、メディア制作に協力してくださる「コクハクリーダーズ第1期生」...
金木犀の香りが空前のブーム!甘く懐かしくアンチエイジングに運気UPも
 とある量販店に行った時のことです。入り口付近に黄金色の商品ばかりが並び、遠巻きに見ると店舗全体が黄金色に輝いてみえる。...
タイパ? なにそれ。映画館で初対面の作品と出会う胸のときめき
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
リュウジ氏と港区女子の相容れぬ価値観「男子全奢り論争」諸悪の根源は?
 諸悪の根源はリュウジさんでも港区女子でもなく、ズバリ“あの人物”でしょう。 「バズレシピ」でお馴染みの人気料理研...
街が茜色に染まり始めた頃…ほんの1カ月前がすでに懐かしい
 夕暮れ前、ぼんやりしていたら辺りは真っ暗。少し前はそんなことなかったのに。  湿度を含んだ空気や強すぎる日差しが...
まるでリヴァー・フェニックス!美少年“たまたま”にうっとり
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
会社の飲み会「欠席LINE」の正解は? 感謝と断る理由では詰めが甘い
 何かをお願いされたり、誘われたりした時、断るのってとても気を使いますよね。  人によっては、本意ではないのにOK...
今どきの「良妻+賢母」ってどんな人?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
“女LINE”は秋の空!嫌味、派閥、狂乱…げに恐ろしき女だらけの職場
 女だらけの職場に勤めた経験はありますか? 学生時代から多くの人が感じるように、さっぱりしている男性に比べて、女性の人間...
2023-10-07 06:00 ライフスタイル
村上春樹氏、今年もノーベル文学賞ならず…「村上レシピ」で一人残念会
 スウェーデン・アカデミーは5日、2023年のノーベル文学賞をノルウェーを代表する劇作家ヨン・フォッセ氏(64)に授与す...