【平塚の女・足立亜理紗 29歳】
「明日の本社への出張さ、やっぱ早朝に出て新幹線で行くわ」
1カ月前から予定されていた夫・慶士の大阪出張。
夕方に着けばいいからと半休をとり、納車されたばかりのベンツで高速を使って向かうのだと、彼は張り切っていたはずだった。
「集合が早くなったの?」
「そんなところだね。よく考えたら5時間も運転するのって体力的に疲れるからさ」
背中を向けて耳の上を掻いた仕草に、胸騒ぎがした。
そもそも、1泊2日の大阪出張に自家用車で行くなんて不自然だった。交通費が落ちるかどうかも分からないのに……。
突然の予定変更は、きっと裏に何かがある。
――あの女と泊りで会う、とか?
出産の直前、夫は女と沖縄に行っていた
夫が浮気のようなことをしているのは、かねてから感づいていた。
発端は、私のインスタのフィードに見知らぬ女の投稿が現れるようになったこと。その女と自分がどういう繋がりなのか、興味本位で追ったところ、慶士のアカウントにたどり着いた。
私は、旧友への近況報告がてらたびたび投稿しているが、彼は登録しかしていない。なのに、ふたりは相互でフォローしあっていた。
見てみると、夫が「会社の同僚と行った」と話していた場所のいくつかが彼女の投稿と一致していた。ショーウィンドー越しに、見覚えのある影が映っていることもあった。
信じられなかったのが、沖縄へ出張に行っているはずの時期に、彼女も沖縄でバカンスをしていたこと。それは、3子の出産の直前だった。
彼は国際通りのお土産屋で買ったであろう“パパ大好き”と書かれたベビースタイを買ってきてくれたのだけれど…。
「大阪と称するどこか」へ行く彼を見送る
「じゃあ、いってくるね」
子供が寝ているうちに、彼はビジネスバッグを持って大阪と称するどこかへ行った。私はそれを静かに見送った。
午前10時半。
子供たちとの朝の戦争が一旦落ち着いたあと、恐る恐る女のアカウントを覗いてみる。
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