「世帯年収1500万じゃ恥ずかしい」御茶ノ水からの“都落ち”…武蔵小杉のタワマンを選んだ女のプライド

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-09-13 11:45
投稿日:2025-09-13 11:45

この「ファストファッション」の女は誰?

「あの…突然すみません」

 すると、部屋の隅でじっとしていた女性が会話に割って入ってきた。さっきから、目線をチラチラ向けている人がいるのを綾乃は感じていた。

「お受験はどちらのお教室でしたか?」

 赤ちゃんを抱いた、黒髪で一重の地味な顔立ちのママさん。にもかかわらず安っぽい原色系のファッションで、自分たちとは違う空気感を悟った。

「はい?」

「突然すみません。ゆるりとお受験するのもいいかなと思って、いろいろお伺いしたいんです」

「ゆるりとお受験」の言葉に苛立ち

 綾乃は戸惑った。「ゆるりとお受験」なんて、甘い考え方だと。うっすら苛立ちさえおぼえた。

 小受をしてもいいのは、それが当然だと思っている親だけだ。周りはみんなライバル。目覚めさせてはいけない。

 一言で意識や価値観の差が露呈することを、綾乃は千代田区居住時に当事者になったからこそわかっていた。

 彼女はお受験なんてどうでもよくて、単に自分たちの仲間に入りたいだけだ――綾乃はその申し出を曲解することにした。

「なるほど。それはともかく、クッキー食べませんか?」

「あ…、ありがとうございます」

 たっくんママと名乗った彼女に合わせて、綾乃は自らを奏太ママと名乗った。他のママ友もそれに続き、すんなりと彼女は輪の一員となった。

 たっくんママの笑顔を眺めながら、綾乃は自分の心の余裕が誇らしく思った。彼女がかつて、背伸びしていた自分のようだったから。

 全身ファストファッションの価値観に一線をひきながらも、受け入れている懐の深い自分に酔った。

#2へつづく:「あの人が…なんで?」地味ママの“富豪人脈”に呆然。勝ち組を演じていた女の勘違い】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


やば! ブラ紐が“チラ見え”した時どうしてる? スマホ使ったスマートな技も
「えっ、ブラ紐見えてたかも…?」ふとした瞬間に自分のブラ紐が見えていることに気づくと、恥ずかしさで焦ってしまいますよね。...
「帰省キャンセル界隈」は親不孝じゃない。実家に帰らないための冴えた言い訳
 色々な理由で帰省をしない人はたくさんいます。帰りたくない理由があるのなら、無理にしなくていいのかも。 (コクハク...
ポンポン尻尾にメロメロ♡  “にゃんたま”丸見えの姿に心をくすぐられちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【動物&飼い主ほっこり漫画】第101回「くまさんスイカ!シャクシャク」
【連載第101回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽの...
【“偏”探しクイズ】共通する偏をみつけて2文字の熟語を2つ作ろう(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
「頑張りが伝わってきたよ」ママ友の言葉にホロリ…思わず嬉し泣きしたLINE3選
「LINEに救われた」という経験、あなたにもあるのではないでしょうか? 連絡手段として用いられるLINEが、救世主のよう...
浴衣の下って何を着ればいいの? 下着をつけたくない場合の最適解とNG行動
 夏休み、家族や友人と旅行に出かける人もいるでしょう。でも、意外に知られていないNG行動のせいで、恥をかくことも…。 ...
「来月はハワイ♡」ってダルっ…。“幸せアピ”がウザい女友達のLINEエピソード
 自分が幸せの中にいるとき、周りに話したくなったりアピールしたくなったりする人もいるはず。でも、相手に「ウザい」と思われ...
「スナックのママ=不美人」説は本当か? 超納得のシンプルな理由を解説します
 「スナックのママって、そんなに美人いないよね」  これ、みなさんも思ったこと or 聞いたことないですか? 私は...
4割が「事故物件に住み続ける」と回答。それぞれの“ワケあり”事情とリアルな体験談
 夏といえば怪談。その中でも近年、特に目立って増えているのが「事故物件」をテーマにした話だ。  松原タニシの実話怪...
猫の「まなざし」に恋をした…“にゃんたま”には何が詰まっているの?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「お母さん、暇ー!」攻撃にヘトヘト…。夏休み、私は“宿題やる気スイッチ”をこれで押してます
 夏休みシーズン到来! お子さんの夏休みの過ごし方で悩む方も多いのでは。ことあるごとに「お母さん、暇ー」の訴えに、「暇な...
教師になってほしい有名人、第2位は天海祐希! 第1位は野球選手がランクイン。GTOやヤンクミは時代遅れ?
 ジブラルタ生命保険株式会社は、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校で働く教員2000名を対象に、アンケート「教員の意...
クッソ頑固な父親の「ひとりごと」が増えた謎。これは老化か、特性か?
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
「嫌だと言いたいの?」上司からの戦慄パワハラLINE6選。休日、早朝でもお構いなし…勘弁して~
 最近はプライベートだけでなく、仕事でもLINEを活用する会社が増えてきましたよね! しかし、今、ひそかに問題になってい...
アラフィフ独女、恋がしたくて何が悪い?「痛々しい」の声に振り回されないで
 アラフィフ独女ライターの私だって、恋をしたい。そんな思いがふと心に浮かんだのは、担当編集さんのおすすめで、Netfli...