「着飾るのは何もないから」偽セレブがマウントを取る理由。“本物の令嬢”の前で見つけた本当の自分

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-09-13 11:45
投稿日:2025-09-13 11:45

人を見下ろして何者かになったような気がした

 着飾るのは、自分に何もないからだ。

 仕事を辞め、さらにその気持ちに拍車がかかった。見下ろす相手がいることで、心が支えられていた。何者かになったような気がした。だからこそ、見栄えよくすることで自らを保っていた。

 だけど、それ以外の部分を褒められると、途端怖気づくのはなぜ?

「…私、キラキラしてるの?」

「はい! ユリと同じくらい、センスもいいし」

「私と藤堂さんとは月とスッポンよ」

「いやいや、そのワードチョイスもカナりイケてます。薬剤師さんなんですよね? 綾乃さんはお薬や子育てや地域のいろいろなことを教えてくれるし相談できて助かるって、この前綾乃さんが先帰った後にみんな言っていましたよ」

 ママ友に色々なことを教えているのは、先輩ママとしてマウントをとりたいからだ。

 でも、彼女のように素直に受け取って感謝してくれる人もいる。その言葉に、心の中が軽くなっていることに気づく。

「もしよかったら、うちでお茶しない?」

彼女は大きく頷いた。綾乃は、同じ目線で真琴を見つめていた。

高層階か低層階か、もうどうでもいい。

 資産や収入、学歴が上か、下か。高層階か低層階かなど、もうどうでもいい。彼女の部屋と比べれば、小さめのリビングに友達を誘う。

 4人家族にはちょうどいいはずのそのリビング――光あふれるその部屋の真ん中で、真琴さんからもらった大師巻を一緒に食べる。見た目は地味だが、その美味しさに綾乃はうなった。

「本当に美味しいね。こんなお菓子、地元にあるなんてしらなかった」

「もしよければ、今度お教室に持ってきますよ。明日の朝、川崎のアトレで買ってきます!」

「本当に? 私も今度行ったら買おうかしら」

 綾乃は都会から少し離れたこのマンションの森の中で、自分のいるべき場所を見つけだしたような気がした。

 真琴と、同じ目線でほほ笑みあいながら。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


9月1日は「防災の日」。経験者が教える“我が家の地震対策”7選。マウスウォッシュやヘアゴムが役に立つわけ
 9月1日は、関東大震災に由来して制定された「防災の日」。災害は一人暮らしの女性にとって大きな不安ですが、いざという時に...
【漢字探し】「坊(ボウ)」の中に隠れた一文字は?(難易度★★☆☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
「生きることが難しい」不注意すぎる私の日常。PR案件の真偽や如何に。
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きな...
ヤバ…トイレ行きたい、おならしたい! “緊急事態”をどう乗り越える? 生理現象のごまかしテクニック
 電車や会議中の急な尿意や、うっかり人前でおならをしてしまう瞬間――。大人になっても誰にでも訪れる“生理現象のピンチ”。...
ちょ、想像以上に高価な付録だ!「VOCE10月号」3500円→980円も驚異だが、660円得する方法を発見
 本体以上の値段がする付録がついて、毎号コスパ抜群な雑誌の付録。今回はさらにお得さが増す、書店限定付録についてレポートし...
「なんで私が異動なの?」業務違反を報告→なぜか地方赴任に…恐怖の人事エピソード6選
「この状況でなんで私が異動させられるの?」「人事評価が腑に落ちない!」会社員として働いていると、こんなこともしばしば。 ...
忙しいのはお前だけじゃねえ! 家事をしない夫、自己中な友達…“多忙アピ”にイラついた話5選
 自分だけ忙しいと思ってる人に対してイラッとした経験はありませんか? 「こっちだって忙しいんだよ!」「そっちに合わせなき...
空に映える“にゃんたま”の尻尾、誇り高き騎士のよう…! 視線もハートも奪われちゃう♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
猛暑でも“元気すぎる”青い花。「アムロ、行きまーす!」ばりのタフな優秀選手、玄関に飾るのがオススメな理由
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋には、お庭や玄関まわりに植物を植え込む「植栽」なんてお仕事もございます。  店長が...
大好きなテレビ鑑賞中、ふと襲われた「不安感」はなんだ? 更年期、不調の新フェーズに突入か
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
土屋太鳳の“裏アカ”疑惑は他人事じゃない? いまや約3割が所有…恐怖の「誤爆ケース」4連発
 女優の土屋太鳳(30)の“裏アカ”流出疑惑が波紋を呼んでいます。いまや芸能人だけではなく、一般人も“裏アカ”を持つのが...
言いすぎー! 思春期な“我が子”のトンデモ暴言集。「うるせえ、スメアゴル」に笑っちゃったよ
 子どもから大人へと移行する時期と言われる思春期は、子育ての修羅場。私たち親も「反発したい年頃よね」と分かっているけれど...
元タレントが見た過酷な現実。芸能界で“誰かのお気に入り”になった女と拒んだ女の分かれ道
 世間を揺るがす芸能界の黒い噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われている芸...
ありえない“パワハラ職場”経験談6選。「先輩の指示で話せないの」って小学生かよ!?
 パワハラが問題視される時代ですが、今もなおパワハラが原因で退職に追い込まれている人が少なくないようです。今回はパワハラ...
43歳、推し活でお金は減った。でも後悔はない。“推し”と過ごしたあの頃の私を誇りに思う
 アラフィフに差しかかる少し前、私はK-POPの“推し”と出会いました。これまでも長くオタ活を続けてきましたが、その出会...
芸能人も公表…パニックに陥ったら「ダメな人間だ」と責めないで“怖い”と思っていい。今の自分を受け入れる大切さ【専門家監修】
 2012年に59歳で亡くなったロック歌手・桑名正博さんとアン・ルイス(68)の長男でミュージシャンの美勇士さんや、タレ...