【武蔵小杉の女・鈴木綾乃 35歳】
綾乃は千代田区の高級マンションから武蔵小杉に2年前に引っ越して来た。セレブ気取りの綾乃は同じマンション住人でさえない “たっくんママ”を避けていたが、実は彼女は……。【前回はこちら】【初回はこちら】
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◇ ◇ ◇
「本当に久しぶり! 20歳以来?」
綾乃が予約し、セッティングしたマンションのゲストルームで、藤堂さんとたっくんママは、ふたりだけの世界に入り込み、思い出話にふけっていた。
綾乃の住む部屋よりも広々としたリビング、解放的な見晴らし、高級家具で揃えられたインテリア――本当は、自分の部屋だと偽るはずだった。
ふたりが学生時代の友人同士だったとは。
「そのくらいかな。ユリ、結婚式も来れなかったし」
「あの時はゴメンね。妊娠中で…」
彼女たちが青春を過ごしていたのは、アメリカのニューヨークの郊外にある全寮制スクール。ふたりは高校時代そこに留学をしていたそうで、藤堂さんはユリ、たっくんママは本名の真琴からマコ、そう呼び合う仲だったようだ。
セレブママと地味ママの関係に動揺
綾乃は、話弾むふたりの狭間で呆然と居場所を見失っていた。
「ごめんなさい、置いてけぼりにして。せっかく綾乃さんとも久々に会えたのに」
藤堂さんが気遣い、話を振る。綾乃は、ハッと目を覚ました。
「いいんですよ。だって久々の再会なんでしょう」
余裕のあるふりをして、逃げた。たっくんママこと真琴さんと目を合わすことがはばかられたから。
どうやら真琴さんは、この地域の地主の娘で、このマンションが建てられた土地の一部を所有していたそう。公立出身であるというが、留学ができるのも、高層階に住んでいるのも当然だ。
さらに旦那さんも地域で何代も続く開業医で、小学校からの幼馴染なのだという。さえない見た目ながらも、地に足着いた準富裕層であった。
「私と綾乃さんは、マンションのキッズルームで最近知り合ったばかりなの。うちのコ、“日本で”お受験を考えているから、娘さんを私立小学校に通わせているという彼女に思わず声をかけてねぇ」
屈託のない笑顔で真琴さんは綾乃との関係を紹介した。すると、藤堂さんは目を丸くした。
些細なウソがバレた恥ずかしさ
「あら綾乃さん、あの時は、私立は行けないって話していたはずじゃ…」
「た、ただの、謙遜ですよ。落ちたら恥ずかしかったので、隠していたんです。御茶ノ水から引っ越したのも、通学の関係で……神奈川方面の方が自然もあるし、私立の選択肢も幅広いし…」
まどろっこしい、飾り気の多い、言い訳だらけの現状。その不自然さに話している自分がいたたまれなかった。
しどろもどろな姿を心配そうに見つめる4つの瞳に、綾乃は全てが露わになっていることを悟り、どこか穴があったら中に入りたい思いに駆られた。
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