Googleで☆1つ…運営の難しさを実感
あれから、松波さんは日替わりで色々なお客さんを連れてきてくれた。町内の方々、俳句サークルの面々、商工会の連中など。
嬉しかったが…、残念なことに来てくれるお客さんはあまりお金を落としてくれないのが厄介だった。店で一番安いオレンジジュースを注文し、昼から夕方までお仲間たちに席を占領されたこともある。
「相変わらず、俺が連れて来た客以外は来てないねー」
得意げな彼に、朱里はおかわりのライスを出しながら、皮肉まじりの笑顔で返答した。松波さんのせいで、朱里が求めている若い人が店の中を覗くだけで帰っていったこともあるのだ。
「まぁ、食うもんがねぇんだよな。ガッツリ系メニュー増やしたらどう? 市のキャラとコラボすんのもいいかもな。観光課に知り合いいるから話付けてやろうか??」
いらぬアドバイスだ。応援する気持ちがあるのなら、その分注文が欲しかった。
「あーちゃんの門出を応援してあげたいんだよ~」
ただ、この反発が自分のワガママなのもわかっている。彼が自身の求めているお客さんでないから、どんな意見も聞く気がないことも。
今日は、Googleで☆1つをつけられてしまった。「港町なのに海鮮丼がなかった」「常連さんがうるさかった」などと。
おそらく、インスタを見てきてくれた観光客だろう。地元特化系インフルエンサーに頼んで紹介してもらったのだが、それも逆効果だったようだ。
朱里はカフェを運営することの難しさを身に染みていた。
俳優をしている同級生の男を思い出す
「はぁ…」
地元のカルチャーを盛り上げて、この無機質な街を目覚めさせたい。純粋な想いは現実の刃で日に日に削がれてゆく。
『こんなはずじゃなかった』――だけど、そんなありがちな失望は絶対にしたくなかった。まだまだこれから、辛抱の時だと歯を食いしばる。
閉店後。店内のモニターに流していたフランス映画を消して、CSの映画専門放送にチャンネルを合わせた。沈んでいる時は、心の養分を摂取し、現実逃避をするのが一番だ。
なかでも、映画は一番の気分転換。このカフェの名前も、映画用語からとった。
「あ、大輝が出てる…」
映し出されていたのは、10年ほど前のインディーズ映画だ。偶然にも、東京で俳優をしている小、中学校の同級生だった男が主役だった。
朱里は先の展開に後ろ髪をひかれながらも、そっと電源を切ったのだった。
【#2へつづく:「Google☆1つ」の屈辱。感度の高いカフェは“地元民”に理解されないの? Uターン女が頼った最終手段】
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