「Google☆1つ」の屈辱。感度の高いカフェは“地元民”に理解されないの? Uターン女が頼った最終手段

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-18 11:45
投稿日:2025-10-18 11:45

すべてが、このなにもない街のためなのだ

 ――浜野大輝を招いて、映画を語る会、なんてどうだろうか。

 思いついたら、朱里の身体が動いていた。持ち前のフットワークを生かして、すぐに彼の事務所にオファーの連絡をする。

 検討しますという回答はすぐに来た。

 本当は、集客のために旧知の有名人の力を借りるなんて、ちょっと恥ずかしい。つい最近まで、その活躍を知りながらも、作品には目も向けようとしなかったくせに。

 クリエイター特有のものなのだろうか。朱里は、大輝をはじめとする同世代の活躍から目を背けがちだった。同じ故郷出身ならなおさらだ。自分のテリトリーの中では自分が一番でありたい、そんな気持ちが潜在的にある。

 地元じゃ負け知らず。だけど、意気揚々と出て行った東京では、居場所を見つけることができなかった。

 東京で存在感をみせつけた大輝なら、この焼け畑のような田舎を目覚めさせてくれるだろう――嫉妬だとか、悔しいとか、今はそんなこと、言っていられなかった。

 すべてが、このなにもない街のためなのだ。

 何日たっても、大輝の事務所から連絡がくることはなかった。

 暇をもてあそび、店の窓から見える雄大な海をスケッチしながら、朱里はその日10回目のため息を吐く。

 今日の売り上げは5000円にも満たなかった。そのわずかな金額も、妹・理子が子連れで来て飲み食いしてくれたそれだけの額だ。

「あーあ、カフェのお手伝いしたかったのに~」

 理子は廃棄処分寸前のキャロットケーキの塊を小さな娘とシェアしながらつぶやいた。

「ごめんね、出番を作れなくて…軌道に乗ってきたら必ずお願いするから」

「てか、なんでギャラリーカフェなんか開いたの? 普通でいいのに」

アートやカルチャーの素養が一切ない故郷

「ええと――」

 朱里は、納得させられる言葉が何も出てこなかった。理子はその沈黙を縫うように、朱里にぼやく。

「飾ってある絵もさ…有名な人のかもしれないけど、何を訴えているのかよくわかんないよ。カフェの名前も読みにくくて、モニターの映画も難しいし、この辺の人なら、TV垂れ流しで十分だよ」

 さらに、反論ができない。もっともなのだ。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


スナック的「キープボトル」のお作法。“チャンスボトル”のタイミングは本当に難しい…!
 みなさんスナックといえば、最初に何を想像しますか? まずはレトロな看板、それからカラオケ。そして欠かせないのがキープボ...
パンツ丸出しで大失態!「もう同窓会に行きたくない」と思った時の賢い断り方
 懐かしい同級生と再会できる同窓会ですが、大失態をやらかしてしまった人も。今回は、「同窓会失敗談」と、角が立たない同窓会...
あなたの「推し語り」ドン引きされてるかもよ? 注意したい“聞き手側”の不満7つ
 好きなアイドルや配信者などの“推し”は、あなたの日常や心を豊かにしてくれるはず。そのため「誰かにこの思いを話したい!」...
ありがたや! 奇跡の“ニャンたま”ωωω三兄弟が勢揃い♡ ご利益たっぷり
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
美人すぎる「芍薬」はオンナの味方! じつは女性の“血”にまつわる病に効果あり
 神奈川の片田舎にございます猫店長「さぶ」率いる我がお花屋、仕事の合間に見上げる山の色や頬を撫でる爽やかな薫風に、初夏の...
商店会の再出発からもうすぐ1年…現在の“脱ポンコツ度”をチェックしてみよう
 早いもので、ポンコツ商店会が再出発してもうすぐ1年。  色々な「びっくり!」や様々な「ありえない!」を数多く体験...
平成女が歩んだ「まつ毛」戦線。10代マスカラ→30代まつエクを経て、たどり着いた“スッピン隠し”の答え
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
か、かわいい~! GU×ちいかわコラボに歓喜♡ うさぎのサングラスには「どうなってんの?」とツッコミ多数
 5月23日より「GU(ジーユー)」と「ちいかわ」のコラボグッズが発売されます。5月9日には商品のラインナップなどがGU...
「子どもがいない人生」は不幸なのか? SNSの“子持ちvs子なし”論争にアラフィフ独女の心がザワつく理由
 51歳の独身・独居ライターである私は、いわゆる“子どもを持たない人生”を歩んできました。結婚もしないまま気づけばアラフ...
仕事と勉強の両立を“無理ゲー”にしない3つのコツ。絶対NGは睡眠を削ること、もう1つは?
「資格を取得したいけど、仕事と勉強の両立が難しい…」このような悩みを抱えている社会人の女性は多いのではないでしょうか。今...
嘘でしょ! トンデモ新入社員の珍行動8選。羽田と成田を間違えて大惨事に
 仕事に対する姿勢は、年代によって大きく違います。そのため新入社員の価値観に驚くことも少なくなく…。  今回は思わずア...
くらえ、へそ天“にゃんたま”肉球見せ! 萌え技にノックダウン♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
とくべつな瞬間
 この瞬間、温もりのある日差しは彼女だけのもの。  そして、その背中は、僕だけのもの。
【動物&飼い主ほっこり漫画】第96回「野菜くず求むメェ-」
【連載第96回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
【女偏の漢字探し】「敵」の中に隠れた一文字は?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
永野芽郁らは完全否定。もし浮気相手が不倫を認めなかったら? 弁護士が教える「一番必要な証拠」とは
 4月24日発売号の「週刊文春」で報じられた女優の永野芽郁(25)と俳優の田中圭(40)の不倫疑惑。2人が自宅で逢瀬を重...