「地元の誇りです!」大輝の言葉を思い出す
その時、このカフェに欠けていたものがわかったような気がした。
朱里は思い出す。大輝がここに来た時に言われた言葉を。
――代官山や鎌倉あたりにも普通にありそう――
所詮この場所は、東京や湘南のトレースだったのだ。おしゃれに見えるだけで、個性も信念も何もなかった。つまり、有名アニメを使った町おこしやチェーン店と、客観的にはなんら変わらなかった。
あがいても20代のうちに東京で成功できなかった自分。心が折れる中で、都落ちする理由が欲しかった。地元で、東京にいた感度の高い自分というアイデンティティを示したかった。
根本は、そんな下心で作った居場所だった。ここが、カルチャーやアートがなにもない場所だと見下すことで、都会かぶれの自己顕示欲を満たしたかった。
そもそも自分は地域おこしなんて、興味はなかったのかもしれない。
大輝はそこを見透かしていたからこそ、あの言葉で皮肉ったのだ。結局、地元で大きい顔をしたいだけの松波のおじさんと変わりなかったんだ。
「くそダサい」と言った自分を悔む
朱里は、東京に再び居を構え、2拠点生活を始めることにした。
カフェ運営を妹に任せ、オーナーとして携わりながら、もう一度イラストレーターとして、改めて勝負してみる。
地元で東京の真似事をするより、地元の人間が広い場所で活躍して、その存在を知らしめることが本当の地域おこしだと気づいたのだ。
――私は、この町のことを、何も知らなかったんだ。
大輝がいきなり釣りをはじめたのも同じこと。最近、彼は個人YouTubeで、釣りチャンネルをはじめ、地元の海の素晴らしさを語っているらしい。自分本位でない、地域への影響の起こし方をわきまえていると思った。
東京へと向かう、東海道線の駅のホームで、ちらりとアニメ絵の看板が朱里の目に入った。
「あの美少女アニメ、ちょっと見てみようかな」
さっそく鈍行列車で2時間。その世界に浸ってみる。意外とすぐにハマってしまった。
どおりでアニメを見た観光客がこぞってくるはずだ。自分の目には見えていなかった、地元のいいところがたくさん詰まった作品だった。
かつて、この町を「くそダサい」と評したことをたまらなく悔いた。
Fin
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