「年齢なんてただの数字!」45歳、気持ちはアラサー。変わり続ける渋谷で“迷走する女”が見た現実

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-12-13 11:45
投稿日:2025-12-13 11:45

45歳、あと5年で50歳という現実

 もう、45歳。

 だけど、精神年齢はまだアラサー。32歳の部下を同世代扱いして、苦笑されたことがあるくらい、感覚はまだ若い。

 結婚していないし、子どももいないということもあるだろう。類友なのか、今付き合っている友達も自分と同じような未婚キャリア女性がほとんど。だから、というのは言い訳なのか…。

 立ち止まってあたりを見回せば、同年代の仲間はみな会社を去っていた。

 独立して会社を立ち上げたり、フリーランスになった友達も多い。セカンドキャリアだと、介護の学校に通い始めた元同僚もいる。私はまだ、セカンドどころか、ファーストの道すがらの気分なのに。

 ――あと、5年で50歳なんだよな…。

 具体的な数字を考えるとゾッとする。平均寿命であれば、すでに折り返し地点を超えている。知人の訃報を聞くことも増えてきた。

 ――いや、45歳なんじゃない。あたしはレベル45っ!

 年齢は単なる数字であることを、心の中で念を押す。気休めだけど、前を向く。無理やりでも私には必要な作業だ。

 これから、20年ぶりにある場所を訪れる。そこは、渋谷駅から徒歩5分、明治通り沿いの古びた雑居ビル。

 再開発で来年には取り壊されるらしいその場所にあるのは、“Bar iris” バー アイリス。アイリスは、英語でアヤメの花をさす。5月生まれの私と同じ名前のバーである。

懐かしいメアドからの連絡

『年内閉店のお知らせ』が届いたのは昨日の夜だった。

 懐かしいメールアドレスからの連絡に、私はその差出人を二度見した。

 文面は、一斉送信のそれだったけど、リストの中に自分の宛先がいまだ含まれていた事実は、ショックに打ちひしがられていた私の心を優しく包んだ。

 別に、何も期待していない。ただ、三軒茶屋の自宅までそのまま帰る気になれず、久々に途中下車した。

 “彼”に、忘れられていないだろうかという不安は一抹ある。動悸を抑えながら、朽ちたビルの階段を上った。

 フライヤーやステッカーが隙間なく貼られた扉はあの頃のままで安心した。ノスタルジーに背中を押されて、重いノブを回すと、薄暗い光がさした。

「おお、ひさしぶり」

 マスターである“彼”は、まるで1週間前に顔を合わせたばかりかのように、私を笑顔で出迎えてくれた。

「メールが来たから。いい?」

「もちろんだよ」

 中上崇。私が昔、愛した男。彼は、構えることなく私に問いかけた。

「ご注文は?」

「…じゃあ、ビールで」

 私も普通を装って答えると、彼はうっすら苦い顔を見せる。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


未来のような街の先に…
 未来のような街は、まるで先の見えないトンネルのよう。  その先にあるものは明るいものであってほしい。
透明ボードの下から失礼しますよ♡ 不思議&かわいい空飛ぶ“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【難解女ことば】蒲魚、何て読む? 予測変換出てこない…
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ほっこり癒し漫画/第77回「もふもふサマー」
【連載第77回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
妊娠妻の電話に出ない…いまだ夢見る漫画家志望の夫とワンオペ妻の軋轢
 初夏の印象が霞むほどの汗ばむ陽気の午前中。  林絵里奈は井の頭公園の池のほとりのベンチに腰を掛け、在りし日のデー...
浮気より酷い夫の裏切り SNSには私の知らない「もう1人の彼」がいた
 かつて漫画家を目指していた夫婦の絵里奈と拓郎。双子の子供ができたことを機に、夢を諦め堅気の生活を暮らしている。 ...
母親は夢を諦めなきゃダメですか?夫を「支えてあげて」の言葉が悔しい
 かつて漫画家を目指していた夫婦の絵里奈と拓郎。双子の子供ができたことを機に、夢を諦め堅気の生活をしている。  夜...
8年前に“ゆるFIRE”した男 新NISAより確実なリターンは自分への投資
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
「晩ごはん何?」焼肉、すき焼き却下でもやし炒め! 家族間攻防LINE3戦
 仕事で疲れて帰宅した時、一番楽しみなのは晩ごはんですよね! とはいえ、主婦としては毎日の晩ごはんのメニューを考えるのも...
【独自】すいかばか初の“夕方専用すいか”、気になる出来栄えは?
 すいか生産量全国47位、ごくごくレアな山梨県ですいか作りに情熱を注ぐ「寿風土(こどぶきふうど)ファーム」代表の小林栄一...
【ファミマ】コンビニ衣類正直レビュー、ショーパンゆる履きはOKだけど
 ファミリーマートとファセッタズム(FACETASM)のデザイナー落合宏理氏が共同開発した衣類「コンビニエンスウェア」。...
背徳感がたまらにゃい♡ ガラステーブルの下から見る涼し気“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
職場やママ友“ケチな人”との付き合い方5選 1円単位で文句ブーブーは勘弁
「この飲み会、私はあまり飲んでないから、あなたたちが多めに払ってくれるよね?」「ここの料理、5,000円もするの? え〜...
インフルエンサー退職願望のアラフォー、“発信=スキル”なる大きな勘違い
 普通の会社員を続けることに不安を感じる女性が増えています。周囲に自分の才能を活かして稼いでいるがいると、「自分も何か発...
夏場の観葉植物、様子が変!間違った育て方、救済法、最新便利グッズまで
 危険な暑さが続く夏。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は古い平屋の建屋のため、エアコンをフル活用しても、毎日が熱中...
きっと、夫も気付いていた…40女が長年の“腐れ縁”にケリをつける日
 実は筆者には、結婚前から長く続いている“腐れ縁”があります。その相手を仮にP氏とします。