「私、まだ終わってない」出世は現場からのリストラだ…50前、あがく女が縋った“男との復縁”という選択

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-12-13 11:45
投稿日:2025-12-13 11:45

自分のことしか考えない、似た者同士だ

「どうしたの?」

 大きな私のため息が、彼の顔にかかったようだ。なにも答えず、なにもかも忘れようと、腕の中に顔をうずめる。だけど、やっぱり不安になる。

「…これから、どうするの?」

「まだ日はあるけど、居抜きのいい場所を常連さんに紹介されたんだ。そこでまたなんかやろうかなって思ってる」

 ホテルを出たすぐの後のことを聞いたつもりだったが、崇はなぜか近い未来の自分語りをつらつらとはじめた。

 あいかわらず「らしい」な、と思った。自分目線でしか想像が及ばない性格なのは変わってない。元奥さんが離れていったのもそんなところだろう。

 私もそうだったから。

 だけど、そういう所が大好きだった。自分のことしか考えない人間、似た者同士なのだ。

 わたしたちの別れの理由は、私の仕事が一番楽しい時に結婚を申し込まれたこと。彼は、念願の店を出して、軌道に乗った後に結婚するライフプランを組んでいたという。

 彼のことは大好きだったけど、私は自分がもっと好きだった。一旦、別れという体裁をとって関係を見つめなおそうということだったが、なぜか3カ月後、結婚の知らせが届いた。

 結局、彼は自分のしいたレールの上で共に走ってくれる人ならだれでもよかったのだ。

 それ以来、崇のことは脳内から消した。だけど、こんなにフィーリングが合って、大好きだった人は、今の人生思い返してみてもいない。

 だからこそ、今こうやって、再び重なっている。

「――今夜、また会える?」

「今夜って、今夜?」

「もちろん。ちょうどSweetSetのトーク&ライブがロフト9であるんだ」

 SweetSet、とは、25年前にデビューした男女2人組の音楽ユニットだ。あのころ、よくふたりでライブに行っていた。ジャンルとしてはいわゆるネオ渋谷系。

「懐かしい…。今でも活動してるんだ」

「解散した時期あったみたいだけどね。最近活動再開したみたい」

 その偶然に、何かの糸がつながったような気がしてならない。

「行く! ライブなんて久しぶり」

「よかった。俺も行きたかったんだよ」

 昨日も会って、今日も会う。スケジュールを見ずに即答する。

私、まだまだ終わってない

 年を重ねるたびに、フットワークは重くなり、プライベートの予定も体力の余裕や損得勘定がないと動けなくなっている。

 だけど、今の私の頭にそれはない。学生の頃のように、まっすぐ感覚でうごいている自分に気づく。

 ――私、まだまだあのころのまま、終わってない。

 いまだに、坂の途中にいる。

 想いを噛みしめ、崇を上目遣いで見つめた。

#3へつづく:「この初老の女が私?」映像に映った“残酷な姿”に凍り付く。もう若くない…悟った女が辿りついた答え】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


離婚で「実母と義母」のバトル勃発! 嫁を“敵認定”した義母が放つ衝撃的な一言【身内のありえない発言】
 嫁と姑の付き合い方が見直され、昔ほどフィーチャーされにくくなった「嫁姑問題」。ですが、実際はトラブルが発生しているもの...
「ミスっても死なない!」優柔不断とおさらばする“前向きマインド”5つ
「優柔不断な性格を直したい…」「いつもクヨクヨ悩んでしまう」こんな悩みを抱えている優柔不断な方、集合! 優柔不断を改善す...
“神たま”のそば、羨ましいでしょ? 進むたび揺れる「にゃんたま」をソッと撮るお仕事です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
わかるけど…LINEの「疲れた」アピールにウンザリ。愚痴って対応に困るんです!
 何気なくする“疲れたアピール”は、ときに人を困らせてしまうもの。相手に遠慮や我慢をさせてしまったり、無理させたりする場...
仕事一筋の私が『対岸の家事』詩穂に共感した理由。くだらない「専業主婦vsワーママ」対立してる場合じゃない
 多部未華子さん主演のドラマ『対岸の家事』が6月3日に最終回を迎えた。毎回放送されるたびに話題になり、SNSを中心に視聴...
ストゼロでも消えない死への恐怖。介護に離婚…友人それぞれが歩む人生に救われた夜。人が最後に行きつく先は
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
48歳、乳がん検診の「要精密検査」に衝撃。独居暮らし男の孤独死に重なる…誰にも看取られない恐怖
 学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らし...
40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?
 板チョコのような重い扉を百恵が開けると、真っ赤な口紅を施したママさんがいつものように明るく出迎えてくれた。 「い...
「20年モノのフライパン」がかっこいい? 貧乏戦線に異状あり!
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
お酒の席の“あのルール”に物申したい! グラスに注ぐベストタイミングは…
 働く側としても、お客さんとしても大好きなスナック。今後も良いところをどんどん書いていければと思っているのですが、今回は...
若者が『めおと日和』の“昭和な恋愛”に胸キュンするのは何故? タイパ重視じゃないもどかしさ
 アラフィフ独女ライターのmirae.です。前回のコラムでは、「50代の恋愛にときめきは必要なのか?」というテーマについ...
婚活に介護…もう頑張れない。アラフォー女性が抱えがちな問題、6つのケースを聞いた
 今回ご紹介するのは、アラフォー女性の悲鳴。「もう頑張れない」と思っていることを教えてもらいました。同じ悩みを抱えている...
怒った中年の顔は「ブス」だと知った。更年期世代がイラついた時にするべき大事なアレ
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
ゴロンする一瞬♡ 奇跡のモフモフ“にゃんたま”とプニプニ頬っぺが尊すぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「現金がよかった」ってそりゃないよ~!『母の日』のガッカリエピソード
 日頃の感謝を伝えるために贈った母の日のプレゼント。なのに微妙〜な反応をされたら悲しいですよね。今回はそんな“母の日のガ...
女性の「理想の顔」ランキングが発表。石原さとみや新垣結衣を抜いた第1位は、上品なイメージのあの女優!
 もしも憧れの芸能人の顔に近づけるとしたら……あなたは誰を「理想」だと感じますか?