拒薬という問題…高齢者が薬を飲まない時に試したい方法3つ

東城ゆず ライター・エディター
更新日:2019-12-25 06:00
投稿日:2019-12-25 06:00

 一昔前まで、薬は“化学物質”という認識が強く「体に良くないもの」という概念があったような気がします。ところが近年では、「薬で病の進行をコントロールする」ことが可能になり、治すだけではなく予防にまで力を発揮できるようになりました。

 例を挙げると認知症もその一つ。初期の認知症であればあるほど、薬に助けられることになります。医師の診察のもとで処方された薬の用法用量をきちんと守ることができれば、脳の萎縮を緩やかにすることができますし、認知症にまつわる症状を緩和することができるのです。

 また、薬には「これを飲んでいれば大丈夫!」という認識で、介護にまつわる家族の精神的負担を軽減する役割もあると筆者は思います。実際に「薬があるから大丈夫ですよね?」というご家族の話も多く聞きました。ところが、意外な盲点があるんです。

 それは、「薬を飲まない」ということ――。そう、「拒薬」の始まりです。

「どうして薬を飲まないの?」と悩む家族は多くいる

「薬を飲まない」という問題を、周りの人ほど軽く捉えます。「食後に気が乗らないだけ」とか「1日くらい大丈夫だろう」と……。

 確かに、医師から「症状が治ったら、飲まなくていいですよ」と言われて風邪薬を処方されたりもしますし、ちょっとした頭痛に用いる鎮痛剤など、自分で内服するタイミングを決められる薬も多くありますよね。

 ところが、高齢者の場合は、その「内服しない」という選択が命取りになる可能性もあります。糖尿病の人は、食前薬の内服漏れで血糖コントロールできなくなることも少なくありません。薬を飲まない限り、食事が取れる状況にならないのです。本人が「飲まない」という選択を、家族は肯定するわけにはいかない理由が分かるでしょう。

 ほかには、血圧を下げる「降圧剤」、問題行動を減らしたり、本人の錯乱状態を落ち着かせる「精神薬」も、「薬を飲みたくない」という本人の意志を尊重するわけにはいかなくなります。家で介護をする“在宅介護”で、薬は大事な役割を担っているのです。

 いつも元気なあの高齢者も、実は薬のコントロールがあるおかげで在宅で暮らせているのかもしれません。高齢者の「薬を飲まない」という事実は、本人がしんどいのはもちろん、家族の負担も相当なものになるです。

薬を飲まない時に試すべきテクニック3つ

「薬を飲まない」という高齢者の意志はかたくなです。「そんなの説得でなんとかなるだろう」とか、「口をこじ開ければ大丈夫」というような問題ではありません。そこで、薬を飲まない時に試すべき3つのテクニックを紹介しましょう。

1. 複数の錠剤を一つの袋にまとめてもらう

 一般的に「風邪」と医師から診断されたら複数の薬を処方されますが、「朝食後に3錠」「昼食時は1錠」と、意外と分かりにくいものですよね。

 高齢者は、手先がうまく使えないことがあります。錠剤をシートから押し出すのも大変。薬を落としてしまったらかがんで拾うのも一苦労ですし、目が見えない人は薬を拾えないリスクもあります。こうした落薬(薬を落とすこと)や誤薬(誤った薬を飲んでしまうこと)のリスクを減らすために、薬局によっては「朝食」「昼食」「夕食」と、飲むべき薬をひとまとめにしてくれるサービスがあります。内服時に考えることが減りますし、複数の紙袋からいちいち取り出す手間も減ります。

 本人が薬を管理しやすくなるため、これだけで薬を飲めるようになる高齢者もいます。昔の人は、“手伝ってもらう”ことを嫌うところがあります。「錠剤をシートから出すのに、自分の都合で家族を呼ぶのが嫌だ」という優しい本音が隠れていることも。なるべくなら、ご自分で内服できるように支援してあげると喜ばれます。

2. 服薬ゼリーを利用する

 服薬ゼリーは喉越しが良く甘い味付けがしてあるため、飲みやすいのも特徴です。むせにくくなりますし、「甘いものは贅沢品」と思うことも多い高齢者は、内服ゼリーを用いるだけで、意外と内服してくれるようになります。

 ゼリーの上に薬を乗せて、さらに上からゼリーを重ねるサンドイッチ方法がオススメ。ドラッグストアなどで気軽に買えるのも嬉しいですね。

3. なぜ飲みたくないのか傾聴する

 飲みたくない理由を聞くことも大事ですが、聞き方にも気を付けましょう。どうして飲みたくないのかを聞いても「飲みたくないからだ!」と怒り出してしまう高齢者も少なくありませんから。

 この時、「では、どうしたら飲めますか?」と聞くと、思いも寄らない返事が返ってくることがあります。「飲むとだるくなるから嫌なんだ!」とか「トイレが近くなる!」など、副作用を嫌う返答は言うに及ばず、「今はお腹いっぱいだから、もう少し時間をおいてほしい」「たくさん薬があるから飲みづらい」など、人によって理由はさまざま。飲みたくない理由を掘り下げて尋ねてみると、薬を飲めるようになるかもしれません。

 医師によっては症状次第で薬の量を減らしてくれたり、薬の種類を変えてくれたり、粉砕してくれたりする場合があります。そのためには、本人の主張が大事になるので、「薬を飲まない」という理由を熱心に尋ね続けてあげてください。

薬を飲まない!そんな時は原則、医師に連絡を

「薬を飲みたくない!」という癇癪に毎度付き合っていると、介護をしている家族も疲れてしまいます。根負けしてしまい「じゃあ、いいか」となってしまうことも少なくありません。しかし、それは"極めて危ないことである”という認識を持っていてほしいのです。

 冒頭に述べたように、「命を預かっている薬かもしれない」ということを頭に入れておいてほしいのです。内服漏れで血糖のコントロール不良で救急搬送になった例や、降圧剤を飲まないことにより死に至るケースも多くあります。血糖値を下げる薬を飲んでいるのにも関わらず、その後の食事量が満足量に満たずに低血糖になる高齢者もいます。このように、薬によるトラブルは医療関係者の判断が必要なことも多くあるのです。

 万が一、薬にまつわるトラブルがあった時には、すぐに医師の確認をとりましょう。病院に電話をすれば、医師が答えてくれる場合も多くあります。日頃から「どんな薬なのか」ということを、きちんと把握しておきましょう。薬を拒絶する傾向が高い人の介護にあたる時は、医師に「この薬を飲まなかったらどうなるか」を事前に確認しておくのも大切なのです。

薬を飲まないのには、なんらかの理由がある

 認知症であっても、寝たきりで意識が朦朧としている人でも、薬を拒否することは意外とあるものです。そして、その理由をしっかりと持っている場合がほとんど。筆者の経験として、普段はほとんど喋らない高齢者の男性が「これを飲むとだるくなる」と、手を振り払うほど薬を強く拒否したことがありました。

「薬を飲まない」という事実を変えるのは大変なことですが、薬を飲まない先に待っている未来はそれ以上にリスクが高いものになります。早めに薬を飲めるような対策を練ることが、肝心でしょう。

東城ゆず
記事一覧
ライター・エディター
1994年生まれ。11歳の頃からブログを運営。ライターやエディターとして、女性誌メディアや地元新聞のコラム枠まで幅広く活躍中。恋愛やママ友問題、介護士であった経験からリアルな介護問題まで幅広い知見がある。年子兄弟を連れ離婚の経験があり、現在は再婚に至る。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ミルクに難色、昭和育児の「母乳信仰」って何なん? 押しつけがましい上から目線LINEにイラッ
 初めての育児や、何人もの育児をしているお母さんは、とりわけ、毎日大変! そんなお母さんを追い詰める身内、どうにかならな...
セレブ妻が赤羽のサイゼリヤに落ちるまで 上流階級との「品格の差」に絶望
 悠々自適なセレブ生活を送っている医師の妻・大宮由香。ある日、お嬢様学校に通う娘のクラスメイト・愛舞(らぶ)とその母親・...
勝ち組ママ友が放った屈辱的な一言。私を「一般人」と一緒にしないで!
 四ツ谷・番町エリアに暮らす医師の妻である大宮由香は、娘・葵を名門お嬢様学校に通わせている。小学校に入った葵から友人がで...
嘘でしょ…娘の友達が「キラキラネーム」? 玉の輿セレブの大きな誤算
 都会の中心でありながらも、ハイグレードな住宅街として知られる四ツ谷・番町エリア。  大宮由香は、小学校に入ったば...
スメハラ? 90年代の出版社は“異臭”がプ~ン…男と香水と時代の変化
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
移住の思わぬ落とし穴。収入激減で大後悔!こんなはずじゃなかった…
 コロナ禍でリモートワークに対応する会社が多くなり、地方への移住を一つの選択肢として捉える人は増えました。でも、あまり調...
直木賞作家・荻原浩氏インタビュー 世にはびこる誹謗中傷「耳の痛い意見が人を成長させるとは言い切れない」
 パリ五輪でも選手や審判などに対する誹謗中傷は深刻な問題となっている。誹謗中傷は、他人への悪口(誹謗)と根拠のない出鱈目...
まるで最高級の餡子玉! 黒猫のプリプリ“たまたま”がキュートすぎる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
江角マキコ芸能界引退から7年、初めてデビュー作を語る(後編)父を亡くした喪失感を「ゆみ子」に重ね合わせた
 芸能界から引退している江角マキコさんが、7年ぶりとなるインタビュー取材に応じた。目的は、石川県輪島市を支援するために特...
2024-08-07 07:00 ライフスタイル
江角マキコ芸能界引退から7年、初めてデビュー作を語る(前編)伴走してくれた能登の人たちに「感謝と恩返し」を
 芸能界から引退している江角マキコさんが、7年ぶりとなるインタビュー取材に応じた。目的は、石川県輪島市を支援するために特...
2024-08-07 07:00 ライフスタイル
「夏の庭の花・植物の水やり問題」災害級の暑さで1週間留守に…対策は?
「災害級の暑さ」なるフレーズ、耳にする日が続いていますが、気付けば夏休みシーズン到来!  我が花屋は神奈川の片田舎の温...
深夜3時にメッセ連続投下!グループ脱退したい…常識知らず&KYなママ友のお騒がせLINE10連発
 保育園や幼稚園の保護者同士でやりとりするママ友LINE。同じクラスのママに誘われて断るわけにもいかず、半ば強制的にグル...
ふるさと納税について夫婦で考えたら、意見が食い違って爆笑の大喧嘩に…「特別vs日常」何が正解?
 選んだ自治体に寄付をしてお礼をもらうことができるだけでなく、一部の税金が還付または控除される、“ふるさと納税”。  ...
2024-08-07 06:00 ライフスタイル
「子どもの夏休み暇対策」どうしてる? 頑張るママのお助けアイデア7選
 子どもが小学生になると、夏休みの過ごし方で悩む大人がたくさんいます。近年では外遊びも猛暑による熱中症の心配があるので、...
【調香師解説】夏バテ解消アロマでフェロモンも復活!睡眠、胃腸、イライラを鎮める香りは?
 毎日暑いですね。フェロモンは最低限の生命力が維持されたうえで、余力から生まれてくるものです。うだるような暑さが続くと心...