ある暑い夏の日の夕方のお話でございます。猫店長「さぶ」率いる我がお花屋さん。さぶ店長だけが涼しい場所で悠々と寝ていらっしゃる横で、忙しいワタクシたち平社員は汗をかきながらクルクル働いておりました。
そんな中「あの……お花屋さんですか?」と、不安そうに話す女の子からのお電話がございました。
「何時までやってますか?」と聞くその女の子のご要望は、ちょっと切ない神話の中に登場するお花でございました。ですが、春が旬のその花は、暑い夏には残念ながらご用意することができません。
女の子 「実は、猫のお墓にお供えしたいのです。数カ月しか一緒にいられなかった子猫が死んで、今日でちょうど一年になります。『さよなら』から一年経ったけれど、私の気持ちを死んだあの子に伝えたいのです。一緒にいた時間が少なくても、私はあなたを忘れないよって」
お電話いただいた時には、ご用意できなかったあのお花。春を迎える今、花市場で見かけるたびに、あの電話口の女の子を思い出すワタクシ。その花は、奥ゆかしい姿で話しかけてくるようでございます。
「私を忘れないで」——。
ということで、今回の「笑う花には福来たる」は「愛の花 ワスレナグサ」の解説でございます。
「ワスレナグサ」ってどんな花?
お花屋さんの店先には、春先の2月あたりからガーデニング商材として青く小さな「ワスレナグサ」が流通しはじめます。
本来ならば多年草ですが、暑さに弱く花の後に枯れるので、日本では一年草のカテゴリーでございます。「ワスレナグサ」と一口にいっても実は他種あって、色も青や紫、ピンクや白と一種ではないのでございます。
ポット苗のほかに切り花も流通しております。小さく奥ゆかしい花姿の割には、ピンポイントで指定なさる方も多い人気者。
「Forget-me-not」「忘れな草」「勿忘草」と、曲名にこの花の名前をつける方のなんと多いことか… …。亡き尾崎豊さんの歌う「街に埋もれそうな小さな忘れな草〜♪」を聴きながら、「オザキ〜!」と号泣していたワタクシの青春はご説明するまでもございません。
3月から暑くなる前の6月あたりまで咲き、園芸品種として流通している「ワスレナグサ」は、おもにエゾムラサキの雑間交配種が多く、涼しい高原の湿地帯で野生化しているもの。そのため、園芸種もやはり湿地を好み、水切れを大変嫌うのでございます。
一度でも水切れを起こすと葉の一部が茶色く変色してしまうので、もしアナタがお花屋さんでワスレナグサのポット苗を選ぶなら、
1. 青々とした葉の株を選ぶこと
2. あまり成長していない花の咲いていないものを選ぶこと
が、ポイントでございます。
実はワスレナグサは、“一番花”とよばれる最初の花が咲く前の「青いだけ」の苗を選ぶことがオススメ。花が咲く前、ポットの中で根が張る前のものを植えつけた方が、根がキッチリ張ってたくさんの花が楽しめるのでございます。
根っ子は浅いけど、土の上で株が横に旺盛に育つワスレナグサは、肥料もそんなに好まず、こぼれ種で増えてくれるお利口さんなお花でございますのよ〜。
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