男性不妊、精索静脈瘤とは?
「男性不妊の中でも特に多いのが精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)です。しかし『男性不妊』そのものも、『精索静脈瘤』という症状も、まだまだ知られていないのが現状ですね」
こう話すのは、男性不妊治療の専門医、銀座リプロ外科の永尾光一先生です。
精索静脈瘤は、成人男性の約15%が持っている病気で、男性不妊原因の35~40%、2人目不妊の45~81%を占めるものの、男性特有の症状なので婦人科での検査では発見できず、気づかれにくいとされています。
そもそも、どんな病気なのでしょうか?
「簡単に言うと、精巣の血流が悪くなって、精子の質が低下する病気です。陰嚢(いんのう)がデコボコしている人は要注意ですが、精液検査だけでは分かりません。見た目の精子が元気そうでも、DNAにダメージがあることが多い。つまり精子の“中身”が傷ついている状態ですから、受精しにくかったり、受精しても流産しやすくなったりする可能性があります」(永尾先生)
しかも、精索静脈瘤は時間とともに悪化する特性があるといいます。
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「人工授精してもダメだった」もしかして…?
妊活で婦人科にて行った精液検査で「精子の状態がよくないですね」と言われ、人工授精や体外受精をすすめられることは少なくありませんが、まずは男性不妊を疑ってほしいと永田先生は訴えます。
実際、婦人科で「顕微授精(※)レベルの精子ですね」と診断され、その後、精索静脈瘤の治療手術を受けた夫を持つ、30代の女性はこのように話します。
「顕微授精をする前に夫に泌尿器科での受診をすすめ、精索静脈瘤だと診断を受け、手術をしました。夫は術後の検査で正常精子の数が1244倍に改善。そしてすぐに自然妊娠し、続いて2人目も自然に妊娠したんです」
(※)顕微授精…体外受精の一種で、顕微鏡下で卵子に精子を直接注入して受精卵を作る方法
泌尿器科での男性不妊治療はなぜ広まらない?
男性側の治療で“妊娠しやすくなる”可能性があり、「精索静脈瘤の手術は日帰りで1時間程度。傷も小さくて、すぐ回復する」(永尾先生)と言いますが、なぜ泌尿器科の男性不妊治療が広まらないのでしょうか。夫が病院に行きたがらないという声はよく聞きますが、実はそれだけでありません。
「婦人科では泌尿器科をすすめることが少ない。婦人科における不妊治療のガイドラインでは、2011年まで精索静脈瘤が“無視”されていたのです」(永尾先生)
永尾先生によると、当時の婦人科の方針では、
1. 精子が少ない→サプリメントや漢方を試す
2. うまくいかなければ人工授精へ
3. それでもダメなら体外受精・顕微授精
4. 無精子症やEDだけは泌尿器科へ
という流れが一般的で、精索静脈瘤が原因で精子の質が低下していても、その治療が選択肢にすら入っていなかったといいます。
その後、2014年にNPO法人「男性不妊ドクターズ」が立ち上がり、理事長である永尾先生が中心になって精索静脈瘤の重要性を訴え続けた結果、2017年、婦人科のガイドラインに「精索静脈瘤の検査を行うべき」との記載がなされ、2024年には泌尿器科学会が中心となって「男性不妊ガイドライン」が制定されました。
今、精索静脈瘤の啓発が必要な理由
依然として不妊治療といえば婦人科という固定観念が根強いなか、永尾先生はこう話します。
「実は、泌尿器科で精索静脈瘤の治療をすれば自然妊娠できる夫婦はかなり多いのですが、そのことを知らずに顕微授精を繰り返してしまうケースが少なくありません。
実際に顕微授精をすすめられた人の38%が精索静脈瘤手術後に自然妊娠可能になったというデータがあります。体外受精レベルの人の50%、人工授精が必要と言われた人の60%が自然妊娠できるようになりました」
男性不妊の治療について
男性不妊治療について整理してみましょう。
精索静脈瘤という病気は有病率が高く(成人男性の約15%が罹患)、手術する場合は1時間程度の日帰り手術で回復も早い。そして、手術後の治療効果は高いとされています。男性が不妊治療を受けるメリットは大きく、「自然妊娠は無理」と諦めてしまう前に、泌尿器科で精索静脈瘤の検査を行ってみる価値はありそうです。
精巣機能低下の予防法は?
精索静脈瘤は体質的な要因が大きく、予防するのは難しいとされていますが、そもそも精巣機能低下の予防法は?
「長時間の立ち仕事や座り仕事は、血流を悪くする原因になります。自転車に長時間乗るのはおすすめしません。きつい下着やズボンを控えて、陰嚢の血流を妨げないようにしたいですね。
それから精巣の温度を上げすぎないこともポイントです。サウナや長風呂を控えめにした方がいいでしょう。何より陰嚢がデコボコしている、違和感を抱いたら、早めに泌尿器科で診てもらうことが一番の予防になります」(永尾先生)
「婦人科で無視される病気」から「無視できない病気」へ
まだまだ男性不妊ついての認知は低いといえますが、2024年4月には「一般社団法人 精索静脈瘤協会」が設立されました。
「これまでは、医師が中心となって情報発信してきましたが、これからは一般の人の声をもっと届けたいと考えています。精索静脈瘤を、婦人科の医師から“無視される病気”ではなく、“無視できない病気”にする。それが私たちの目標です」(永尾先生)
男性不妊について正しく理解することで、不妊治療の選択肢も広がりそうです。
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