花屋にやってくるペットを亡くした人たち
元気だったのにある日突然別れが来た方も、長い闘病で別れの時がやがて来るということがわかっていた方も、共に暮らしてきた大切なペットが亡くなってすぐには、みなさん一様に「永遠の別れ」という現実を受け入れられていないように思われます。
そして、花屋にお花を買いにいらっしゃるのが、だいたいこの「亡くなってすぐ」の状態の時期。
「死んでしまった」事実を心に落とし込んでいないから、「死んじゃったから花を買わなきゃ」という別の意識が働いて、お花を買いに行く気力が残っている状態でございます。
時間の経過とともに「ペットにとって自分は無力」という自責の念にかられ、悲しみや怒り、後悔がまるで大波のように次々とやってきて、猛烈に悲しく溢れ出る涙を止められなくなります。
無気力、食欲減退、不眠など精神的・肉体的に参ってしまっても、やがてペットの死を受け入れ、喪失感や悲しみとうまく折り合いをつけて無事に心の健康を取り戻せる方がいらっしゃる反面、この状態から抜け出せず、そのままペットロスト症候群(ペットロス)になってしまう方もいらっしゃいます。
悲しいことですが、ワタクシの店のお客様にもペットロスになってしまった方が多いのでございます。中にはペットとの楽しかった日々を思い出すと一緒に過ごした家にいることが耐え難く、お金が尽きるまで長期間ホテル暮らしをなさっていた方もいらっしゃいました。
もはやペットの死は、たかが動物の死ではございません。「大事な家族の死」なのでございます。
知人のペットが亡くなった場合
友人として何をしてあげられるのか。できることは全部してあげたい。
「ペットを亡くして悲しんでいる知人を慰めてあげたいけれど、具体的にどうすればいいの?」
そんなご相談で花屋にやってくるお客様も、実は珍しくないのです。
「慰めの言葉ってなんて言ってあげるのがいいの?」
「何をしてあげるのがいいの?」
「やっぱりお花をあげるのがいいの?」など、質問はさまざま……。
そこで以下の5つを心がけてご質問にお答えさせて頂いております。
1. お悔やみの言葉をかけてあげる
アナタの大切な家族がある日亡くなってしまったことを想像なされば、言葉選びはしやすいのでございます。電話やメールなど、いち早くお悔やみの言葉をかけることも大事。
ここでのNGワードは「元気出して」や「そんなに泣くと◯◯ちゃん成仏できないよ」「もっと早くに対処していれば死ななかったかも」など、飼い主が悲しむことをやめる方向へ促す言葉や、相手の気にかけているポイントを突く言葉でございます。
家族が亡くなれば、すぐに元気が出るわけがありませんし、“死んでしまったのは自分のせいかも”と自分の無力を責めているかもしれない人に「成仏することすら邪魔をしている」などと言うのは、罪を責めることと同じことでございます。
2. 相手の望むことをしてあげる
亡くしたペットのためにお花を買いにやってくる飼い主さんの中には、ペットの話をひたすらお話になる方も多いのですが、そんな時ワタクシはお客様の気が済むまでお話を伺うようにしております。
もちろんそんな方ばかりというわけでもないので、お花だけサクっと買って帰られる方もいらっしゃいます。
話をしたい方、黙ってそばにいて欲しい方、要は喪失感に苛まれているアナタの知人が何を望むのかを想像なさることが大事だということでございます。
3. お花をあげる
相手に気を遣わせない最適ご予算は、だいたい¥2,000~¥3,000くらい。花束でも良いですが、フラワーアレンジメントや長く残るプリザーブドフラワーもオススメ。
まだご遺体が火葬前の場合、荼毘にする前のお別れ花としてペットのお棺の中に入れるお花という選択肢もございます。
アナタが直接お持ちになる場合は、そのタイミングで慰めのお声かけを。配達や宅配などを手配なさった場合は、メッセージカードでアナタからの慰めの言葉を付けることをオススメいたします。
4. 差し入れをしてあげる
元気のないときには、食べることが元気を取り戻すきっかけにもなるかもしれません。
甘いものや飼い主さんの好きなものを差し入れにするのも良い方法でしょう。
5. 悲しみに寄り添ってあげる
これが一番大事でございます。
「寄り添ってあげたい」というアナタの気持ちが起こす行動や言葉は、自然と相手の心に染みて、悲しみに暮れる飼い主さんにとって立ち直るきっかけになるかもしれません。
相手を思う気持ちが肝要なのでございます。
自分が立ち直るための花
ペットが亡くなった後、ありし日のペットの写真にお花を手向け続ける飼い主さんは割と多いのでございます。
最初は亡くなったペットへの”祈りの花”だったものが、やがて”自分の心のリハビリ”のためへと昇華なさったのだと、会話の中で気付かされる場面にたびたび遭遇いたします。花の選定は、亡くしてしまったペットのイメージで決められていきます。
「花の水を換える気力も無かったけれど、◯◯ちゃんの写真に花を飾るようになったら、◯◯ちゃんがすごく可愛く見えて、次の花を考えることが待ち遠しくなった」「◯◯ちゃんの花の世話をすることが◯◯ちゃんを介護している気分になって、花を触ると嬉しくなる」とおっしゃる方までいらっしゃいます。
亡くしてしまった大切な家族を柔らかく可愛らしい花の中に見ることは、亡くしたペットといつか再会できる希望をうたったアメリカの散文詩『虹の橋』と同じく、ペットロスからの解放のきっかけになっているのかもしれません。
虹の橋のたもとでまた会う日まで。
飼い主さんがそう思えるまで、お花には頑張って働いてもらいましょう!
きっと今日も、泣きながら花屋にやってくる方がいらっしゃいます。
泣くだけ泣いて、いつか笑ってご自身のための花を求めにご来店なさる日がやって来ることを……遠いお空の向こうからお祈りしておりますよ~。
ライフスタイル 新着一覧