山梨県のすいかの生産量は全国で最下位の47位。その山梨県北杜市で、ひとりこだわりのすいかを作る男がいる。寿風土(ことぶきふうど)ファームの小林栄一さん(56)である。
結果がわかるのは一年に一度のみ
人と同じものを作っていても勝負にならない、ならばと品種改良を重ねオリジナルのすいか作りを始めた。
幾度もの失敗を乗り超え20年。自分だけしか作れない独自のすいかを作るため、日々手間を惜しまず試行錯誤、紆余曲折を繰り返し、土にまみれてきた。
そんな小林さんは破顔しながらこう話す。
「成功なのか失敗なのか、わかるのは年に一度なんですよ。ダメなら翌年の春まで待たなければ、次はできませんからね」
気が遠くなるような話だが、現在は「戦水甘(せんすいかん)」、「名水セレブ」、「夜明けのセレブ」といった珍妙な名前のすいかを12種類作っている。もちろん、名付け親は小林さんだ。
南アルプスの天然水の郷
その農法も土づくりから始め、手間のかかる昔ながらの方法で、「今時よくそんな面倒なことやってるねって人から呆れられますよ」と苦笑いする。
「そよ風が吹いて寒暖差のあるこの場所は、すいか作りにはとても適しています。それに南アルプスの天然水の郷ですよ。98%が水分のすいかを育てるには最高なんです」
せっかくの好条件を活かすため、どんなに呆れられても丁寧に手間をかけて育てるのがポリシー。そして、いつの頃からか付いた小林さんのあだ名は、「すいかばか」。キャッチフレーズに掲げるのは「すいか割りする奴は許さねえ」だ。“このすいかにしてこの親あり”ーー。
「以前、家の前を通りかかった人が、キャンプに来てすいか割りするから売ってくれと言ってきたから、『すいか割りするすいかなんかここにはねぇから、そんなもん欲しけりゃスーパーに行きな』って言ってやったんだよ。すいか割りが楽しいのはわかるけど、俺の育てた大事なすいかはそんなことするためのものじゃないんですよ」
ガムを噛んでいる客には“出直し要請”
店に来たお客には必ず試食をしてもらい、納得した人にだけ売るシステムを採っている。若い客がガムをくちゃくちゃ噛みながら来た際には、“そんなんじゃ味なんかわからないから出直してこい!”と、お引き取り願ったこともあるという。
「子供の頃、家族で食べたすいかは誰にとっても良い思い出だったはずですが、近年はカットすいかのせいでそんな記憶を持たない人がほとんど。そんな人に夏の良い思い出を作ってもらいたいですね」
春が来た。そよ風が吹く畑に土を耕し、ビニールを張る。苗を祈るように植え付ける。今年も、すいかばかの新たな戦いが始まった。4年ほど前、ひょんなことから知った「すいかばか」というすいか好きには知られた存在。夏の収穫まで、すいかとすいかばかに時々会いに行くとするか。
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