今度は300万円! 好きでもないアイツにコツコツ貢いできた私

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2022-06-15 06:00
投稿日:2022-06-15 06:00
 書店員として本を売りながら、踊り子として舞台に立つ。エッセイも書く。“三足の草鞋をガチで履く”新井見枝香さんのこじらせ(?)月イチ連載です。
 いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないけれど、3歩進んで4歩下がる日常にだって、小さな幸せが詰まっている、はず……。

300万円捻出問題がぼっ発!

 歯医者に行ったら、300万円が必要であることがわかった。さてどうやって稼ごうか。

 勤めていた日比谷の書店が閉店し、渋谷の店舗に異動したのだが、つい休みがちである。水族館のペンギンみたいに、定刻きっかりに退勤するから、残業代も付きゃしない。

 説明すると長くなるので割愛するが、私は数年前からストリップ劇場で踊る仕事もしている。そちらもやる気だけはあるのだが、大人気にはほど遠い状態で、思ったように働けない状況だ。

 しかしいくら味噌っかすとはいえ、人前に立つのだから、髪の毛だ、睫(まつげ)だ、と手入れが必要で、新しい演目のための衣装や練習スタジオ代など、オフでも出費は止まらない。ストリップ劇場の公式サイトには、踊り子募集の要項があり、確か月給80万円以上などと大嘘が書いてあったように思うが、欺されないように気を付けてほしい。

 気になってあらためてサイトを確認したら、日給3万円というびっくり情報を見つけた。たった100日で300万円達成ではないか。しかし人間だからたまには休みが欲しく、そうなるとその日は3万円がもらえないどころか、かき氷屋で3000円、立ち飲みで2000円、回転寿司で2000円、通りがかりのガチャガチャに吸い寄せられて1000円、スーパーで晩酌の食材用に2000円を使うから、1万円が飛ぶ。マイナス4万円だ。

 3歩進んで4歩下がっている。これではいっこうに歯が治らない。書店に出勤しても給料以上の本を買ってしまい、帰りに友達と落ち合ってポルトガル料理でも食べて帰ろうものなら、もはや働きに出ないほうがマシだったという結果。家にいる時は、連載エッセイや書評など、細々としたライター業もこなすが、そういったギャラでなんとか日々のマイナスを補填しているのであり、歯医者に払える金などビタ一文ないのである。

私の口内は常にいつも工事中

 いや、この人生、私は常に好きでもない歯医者にコツコツと貢いできた。つい最近まではお相手は、自宅近くの「Mデンタルクリニック」である。私の口内は常に新宿駅構内みたいに、いつもどこかが工事中で、不格好だった。

 セラミックの差し歯を入れるたびに16万円かかるのだが、取れて飲み込んだり、取れて洗面台の排水溝に吸い込まれたり、取れたと思ったら土台の歯が砕けていたりで、私は一生この歯医者に定期的に16万円ずつ支払い続けるのかと、うんざりしていたのである。

前歯が気になって笑えない…

 そして極めつきが、黄ばみだ。数少ない自前の歯が、変色しない差し歯のせいで悪目立ちし、踊り子の仕事に支障を来し始めていた。ステージに立って白いピンスポを浴びた時、ステージの後の写真タイムでカメラを向けられた時、前歯が気になって笑えないのである。

 アマゾンでホワイトニングペンシルを取り寄せてはみたが、昔の修正液を刷毛で塗ったような不自然さで、お話にならない。近所でホワイトニングが評判の「M歯科」を見つけたので、乗り換えたのだ。

 しかしそこで検査したところ、前歯を白くしたいだけだったのに、下の奥歯から治療することになった。話すと長いので省略するが、確かに先生の説明を聞くと、そうするしかない。歯茎に埋まっている親知らずを抜き、治癒を待つ間に、上の差し歯をインプラント化するための工事をするのだ。

鼻の穴が異様に大きい

 レントゲンを撮ったところ、私の鼻の穴は異様に大きかった。外見は小豆大だが、なんと口蓋のすぐ上まで、ぼた餅大の無駄な穴が開いているのである。口蓋から骨のような素材を流し込み、人工の骨を作ってからインプラントの土台を埋める必要がある。

 そういうことを1年かけて行うと300万かかるということなのだった。もはやそれほど壮大な計画を聞かされると、安いような気がしてくる。この連載は、私が300万円を荒稼ぎして歯を白くするまで続く……のか?

 それにしても歯の治療がテーマの連載なんて萎えすぎるので、次回は顔面コルギの話でも書こうかな。どっちにしても痛い!

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

ライフスタイル 新着一覧


若手のやる気を奪う「新型パワハラ」とは? 気づかないうちにやりがちな注意点5つ
 上司から部下に強い態度をとる「パワハラ」は有名ですが、実は今「新型パワハラ」と呼ばれる新しいワードが話題になっています...
ねこの学校の給食タイムに潜入♡ ごきげんシッポで“たまたま”チャンス
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
少し風が吹いて欲しいと思う夕暮れ時
今年も残すところ2カ月。 新しい風、起こせたかな。
【女偏の漢字シリーズ】「女偏+眉」と「態」を合わせた二字熟語、意味と読み方は?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
「昔はモデルやってたんだ」へぇそうですか。嘘ばかりつく女をやり込めた胸スカLINE3選
 世間には、どうしてもマウントを取りたくなって嘘ばかりつく女性がいるもの。とくに、日常的にLINEなどで嘘をつかれるとと...
上垣皓太朗アナのフジ先輩らによる容姿いじりが大炎上。職場や友人間のいじめといじり、境界線は?
 今年4月にフジテレビに入社した上垣皓太朗アナ(23)に対する先輩たちのいじりを収めた動画が炎上した件。7月にアップされ...
いるよねー、グループLINEで会話を止めてしまう人。あるあるでモヤモヤを共感して欲しい!
 大人数での会話では、みんなが楽しく話せるように空気を読んだり、流れを止めない気遣いが大切ですよね。  でもよくい...
40女“ダラダラ家飲み”卒業の3つのコツ。風呂上がりのビールよ、さらば!
 思うところありまして、家飲みを控えております。夏の暑さを言い訳に、家でもビールをダラダラ飲みまくった結果、下腹が過去最...
深まる秋にピッタリ! “たまたま”の後ろ姿にただよう漢の哀愁
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
年上? 給料高い? それでも尊敬できない先輩のタイプ6選。雑談は恋バナオンリーってJKかよ!
 職場で頼りにする相手といえば、やはり先輩。上司よりも身近な存在で自分よりも人生経験と社会人経験が長い先輩は、憧れの対象...
「旦那死ぬよ!」住職から叱られて以来、大事な“トイレのあれ”。運気アゲアゲ狙うなら「水回り」が狙い目
「どうやったら幸せになれるのか」その方法を探してしまうのが悲しいかな、人間の性でございます。
妻のわざと誤爆LINE6連発。モチロン確信犯です、浮気夫もウザい義母もお黙りっ!
 LINEを巧みに使って夫や姑ににわざと誤爆LINEを送り、関係を上手にコントロールする妻が増えているようです…! ...
政治家とは無縁の人生を送ってきたが、「ポンコツ」って⼈気者なのか?
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
“小1宿題あるある”6選。お願いだから、タブレットは丁寧に扱ってー!
 小学校に入学したての頃、はじめての宿題でとんでもないミスをする我が子(笑)。この時期にしか見られないあるあるに思わずほ...
「低気圧と月と更年期」が連動? 天気頭痛とは無縁で、おばさんに仕上がったけれど…
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
最近の台風は凶暴さがレベチ! 最低限備えておきたい7つの備えと対策
 異常気象が相次ぐ昨今、大型台風で大きな被害に遭う地域は少なくありませんよね。大切なのは、事前に台風への備えに関する知識...