広瀬すずではなく橋本環奈だったら
広瀬自身、この荒唐無稽な主人公に翻弄されながらも、必死に演じているのは伝わってくる。ただ、九州弁で現実味のないぶっとびキャラであれば、これが橋本環奈だったらと思わずにはいられない。
福岡出身の橋本ならば、空豆の九州弁ももっと耳なじみ良く話せただろうし、東京に来て職場の空気感にそれとなく合わせていくこともできただろう。
そして現実にはありえないぶっとびヒロインも、二次元感たっぷりのコメディエンヌ・橋本なら嫌味なく演じられたのではないか。
広瀬はそもそも是枝裕和監督による「海街diary」の浅野すず役のように、ナチュラルで瑞々しい演技が真骨頂。そんな彼女が空豆のオリジナル九州弁とぶっとびキャラを無理して体現しているのがヒシヒシと伝わってしまうことで、ストーリーに感情移入できない。
そんな空豆の恋のお相手は、フリーターをしながらコンポーザー(作曲家)としての成功を夢見る海野音(永瀬)。
永瀬は21年の朝ドラ「おかえりモネ」で、ヒロインに想いを寄せる繊細な好青年・及川亮役で「りょーちん」ブームを巻き起こした。今作での音は、空豆がぶっとんでいることもちゃんと分かっている都会育ちの男の子だ。
“顔面最強”永瀬廉の演技力が逆効果?
ただ、スタート時点から日本の超有名レコード会社と契約しており、わずかな苦労を経たのち、どんどん才能が認められ大チャンスを掴んでいく。顔立ちの良さも手伝って、(YOASOBI的な)男女2人組ユニットでのデビューへと話は進んでいる。
顔面が最強なのは間違いない永瀬だが、オーラを消し朴訥な常識人を演じるのが上手すぎて、こんな普通の男の子が、こんなトントン拍子にスターへまっしぐらなんてあるのか? とどうにも頭が追い付かない。
最新話では、ハンテンのような格好で田舎者大爆発だった空豆が、実は世界的デザイナーの母と天才画家の父から産まれたサラブレッドだったことも判明。勤務先の高級ブランドでも次々と天才的ひらめきを発揮しデザイナーとして頭角を現していく。この超絶展開とのコンボで、音のサクセスストーリー共々、ややご都合主義すぎると感じる。
ルッキズム、女性蔑視、職業差別…
合わせて、家主が息子に“ハーフで青い目の子ども”を望む発言と、その息子の「(嫁を)東京で調達しようかと思ってます」「大根を買う気軽さで」という発言が、ルッキズムや女性蔑視であるとの指摘もされている。
また空豆が婚活パーティーに参加し職業を聞かれた際に、当時のバイト先である「蕎麦屋」と答えると爆笑されたり、育ての親である祖母がいる実家が「空豆畑」であることも冷ややかに捉えられるなど、職業差別的な表現も多い。
感情移入できないキャラと設定に、時代錯誤なセリフ多数となってしまった今作。広瀬と永瀬が宝の持ち腐れとなってしまっているようにも思う。
「silent」の成功は川口、目黒の演技力によるところも大きいが、広瀬と永瀬の初共演が「silent」のように繊細で、丁寧で、心の機微を美しく描くラブストーリーだったなら、どんなに素敵だっただろうか。
エンタメ 新着一覧