すいかばかのレシピ~'23年<3>山梨で唯一、すいかを作る星に生まれた男

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2023-07-08 06:00
投稿日:2023-07-08 06:00

山梨県がすいか生産量全国ワーストの理由

さあ! 今日も働きますか!!(写真:Koji Takano、無断転載禁止・以下同)
さあ! 今日も働きますか!! (写真:Koji Takano、無断転載禁止・以下同)

 山梨県のすいか生産量が全国47位、つまり最下位である理由。それは山梨県ですいかを作っているのは、「寿風土(こどぶきふうど)ファーム」代表の小林栄一さん(58)さん、ただ1人だからだ。

 すいかの産地・信州松本(長野県)の下平で産まれた女性と結婚し、妻の故郷のすいかを白州で作り始めた男。そんな両親に育てられ、すいかの味に魅せられた息子は、たった1人でも理想の一玉を作る運命だったのかもしれない。

 しかし、「すいかばか」と言われるまでの生き方は求められていなかったのではないかと、仕事ぶりを見てると思う。

すいかばかのある一日

どんどん伸びる蔓と大きな葉っぱがぎっしりの畑
どんどん伸びる蔓と大きな葉っぱがぎっしりの畑

 梅雨に入り、畑は蔓(かずら)が伸び、葉は生い茂っている。実がどこに生(な)っているかもわからない中、ツイスターでもしてるように無理な姿勢で、そろそろと足の置き場を探りながら移動する。

一玉の綺麗なすいかのためにほかの実は摘果(摘み取る)
一玉の綺麗なすいかのためにほかの実は摘果(摘み取る)

日が傾いてくる頃、一日中酷使している腰を伸ばし痛みに顔をしかめる
日が傾いてくる頃、一日中酷使している腰を伸ばし痛みに顔をしかめる

 一日中、中腰のまま畑に鼻先まで埋め、すいかの下に皿を置いたり余計な蔦や実は摘果(てきか)してゆく。

「あ~腰が痛え!」
「つらい~~!」

 長い年月、身体にはずいぶん負担をかけてきただろうが、今年は新しく考えた農法ですいかを作ると言う。うまくいっても生産量は3割ほど減るにも関わらず、理想を求めて勝負に出る。すいかばかの面目躍如だ。

「交配させ、実のなる場所を全て把握し、育成を管理したものでなければ、綺麗なすいかにならないと思うんですよ」

妥協しないすいか作りのために

選んだすいかは一玉ずつ皿の上に乗せて育てる
選んだすいかは一玉ずつ皿の上に乗せて育てる

 トンネルからビニールを取り、残ったアーチは80cm間隔。その間に蔓は8本、収穫するすいかは4個と決めた。生い茂る葉っぱは天狗の団扇みたいに大きく、多い方が良いと信じるゆえの密度の濃いうっそうとした畑。

 1日で数十cmも伸びる蔓の、横芽や分かれた蔓を取り除き、管理外に生った実は摘果する。

「こっちが管理してる以外に実がついても、栄養を決めた実に集中させるため摘果するしかないんですよ」

厳しい眼で選んだ花に交配をさせる
厳しい眼で選んだ花に交配をさせる

「よく見ると蜂って可愛いでしょう?」と小林さんの眼は優しい
「よく見ると蜂って可愛いでしょう?」と小林さんの眼は優しい

最後の一玉が収穫されるまで

「こいつを育てるぞ!」という声が聴こえてくる
「こいつを育てるぞ!」という声が聴こえてくる

 あと1週間もすれば、店を開け、売り出す日がやってくる。今が最も忙しく、気を遣うことが多い。イノシシが出没し、電線を周囲に配置した。虫が媒介してうどん粉病等が発生したり、湿度の加減で発病し、全滅する可能性だってある。最後の収穫が終わるまで心配事は尽きない。

 明るく冗談が好きなすいかばかが、店を開き得意満面にウンチクを語り、試食のすいかを「さあ食えさあ食え」と声を張る日は近い。

 期待と自信、そして不安と悩みが入り混じる表情はすいかを買いに来た人には想像がつかないかもしれない。夕刻、日に焼けた顔には今日も大粒の汗が流れていた。

「すいかばか」の生き方は時代遅れか、はたまた今の時代を生きるために求められるか。人によって違って見えるだろう。

 しかしその姿は、いつ見てもとても眩しい。

「さあ食えさあ食え」
「さあ食えさあ食え」

「寿風土ファーム」
address:山梨県北杜市白州町台ヶ原615
営10時~17時

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


男と女の物語、だからこそ「娚」の当て字が使われた
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「場所代は200円いただくわ」堅実というかケチ!名目別に徴収するママ友
 ママ友と仲が良いといっても、子どもありきの関係。価値観や金銭感覚など、すべてが合うとは限りませんよね。  中には、マ...
家庭の派閥争い…夫の“ポカリ甘すぎ、アクエリアス!”に猛反対する妻
 混沌とした世の中。世界で起こっている戦争や紛争だけでなく、会社やネット上のコミュニティーでもあらゆる「派閥争い」が繰り...
40代が自分の老いを実感した切ない瞬間4つ 運動は得意だったのに(涙)
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。特に若い頃に運動が得意だった人は、頭では動けると思っているの...
ストリッパー、Airpodsおじさんに学ぶ。
 AirPodsをしたサラリーマンのおじさんを通勤電車で見た瞬間、私はその後ろ姿にぎゅんと心惹かれた。  なにそれ...
百均は飽きた…目的地はスタンダードプロダクツ!プチ模様替え厳選4商品
「普段の生活で使う、日用品をちょっと楽しく。」そんな思いを込めて生まれたStandard Products(スタンダード...
別れる時くらい言いたいことを言う? それとも…
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
恋愛運は大吉にゃ♡ ご利益抜群な激レア三毛“たまたま”を激写!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
恋愛も金運も良縁GETするならこれ!強靭的に長生きするサマースイトピー
「物価上昇が止まりません。どうしていいか分からん」と嘆いている方、多いと思います。  ワタクシもご多分に漏れず、仕入れ...
上司「あそこのチゲ鍋はおいしいにちげーねー」喜ばせるダジャレ返しは?
 昭和生まれの人はおおむねダジャレ好き。  特に職場のおじさん世代は、LINEでもダジャレを送ってくる人がいます。...
わ、気まず!ママ友の集まりに旦那連れで来る人なぁぜなぁぜ
 ママ友同士で約束するランチ会。子育ての話や夫の話で盛り上がりますよね! ところが「旦那連れ」でママたちとのランチ会に参...
【難易度高め】にゃんにゃん間違い探し、全5カ所、わかるかにゃ?
 【A】と【B】のふたつの絵には、違いが5カ所あります。さてどこが違うでしょうか?  難易度はかなり高めなので、目...
【1分でOK フェロモンジャッジ】春は引き算が鍵!貴女が幸せになる香り
 異動や引っ越しなどで環境が変わる人も多いこの時期は、生活を変えるいいチャンスです。普段、なんとなく続けてしまっている悪...
【漫画】しっぽのお医者さん~ねこ医院長のぽかぽか日記(番外・出張編)
【番外・出張編】  ここはある町の小さな動物病院──。  この「春山動物病院」では、「院長」と呼ばれて振り向...
料理下手なワーママの救世主 予約待ちで契約したつくりおき.jpなのに!
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
“たまたま”はいくつあるにゃ? 茶トラ軍団のおやつタイム
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...