更新日:2023-10-30 09:10
投稿日:2023-10-29 06:00

公演前夜、湿布を剝がしたら…

 池袋ミカド劇場での仕事まで、1週間もない。右肩を使わない振り付けを調整し、肩が隠れる衣装を作り、いつもよりよっぽどテキパキと準備を進めた。

 そしていよいよ明日という夜、なんとなく惰性で貼りつけていた湿布を剥がしたら、肩の皮がずるんと剥けた。折れた直後、冷却スプレーを吹き付けたことで、水ぶくれになっていたのだ。

 超痛い。骨折よりよっぽど痛いじゃないか、チクショー!

 はがき大のずる剥け地帯からじくじくと体液が流れ出し、患部の周囲が青紫に染まっているのと相まって、なかなかにグロい。写真掲載は自粛しよう。

そもそも明るい人間ではない

《ときには嵐のような逆境が人を強くする》とは、王貞治さんの言葉だ。野球のボールで頭部陥没骨折をした先人の言葉は本当だった。

 せっかくのオフが肉体的には散々だったのだが、振り返るとびっくり、なんと私は一度も落ち込んでいないのである。

 踊り子がメインの仕事になってからというもの、ステージで10日間踊りきると、オフに入った途端に鬱々としてしまいがちだった。俗に言う、躁鬱というやつだろうか。

 そもそも明るい人間ではないので、人前で目一杯明るく振る舞うと、反動でどうしても陰鬱としてしまうのだ。

 貴重な休日にやる気が起きないのは何よりつらい。

自己肯定感が高いオフになるとは!

 しかし肉体が大変なことになったおかげで、自分のことが嫌いだとかなんだとか、もちゃもちゃ考えている場合ではなくなった。

 リュックサックを背負えていたこと、うーんと両手で伸びをしていたことを、素直に感動する心持ち。

 四十年も生きているのに、どれもそこそこ機能していて、えらいじゃないか。

 スタジオ練習後に毎日遊び歩き、食べたいものを食べ、大いに飲んで、いつになく自己肯定感が高いオフを過ごせたのである。

もしも死にたくなったら…

 オフのたびに骨を折ることはできないが、もうどうにもこうにも死にたくなったら、死なない程度に骨を折ってみる、という手があることは覚えておこう。

 ただし、冷却スプレーはほどほどに。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ご祝儀は新札しかNG? 土日の入手方法やアイロンでの作り方
 友人の結婚式が近づいて、美容院の予約やドレス、靴の手配まで完璧なのに「ご祝儀の新札がない!!」と焦った経験はありません...
来年は猫年じゃない? 干支に入れず恨み節の“にゃんたま君”
 昔、神様は元旦に動物たちにあいさつに来るよう言いました。12番まで先着順に、年の動物になれるという大イベントでした。 ...
本当に自分のために? 素直に聞くべきアドバイスの見極め方
 昔から「素直さは大切」だと言われます。大人になっても素直さを忘れずに、周囲のアドバイスを聞き入れられる人のことは尊敬し...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #3
 投資していた友人の失脚により、K社長はブラックな債権者から追われる身となりました。  社長は行方をくらまします。...
縁を切るべき友達の5つの特徴&上手に縁を切る方法とは?
 どんなにコミュニケーション能力が高い人でも、「苦手だな」「付き合いにくいな」と感じる人は、誰にだっているもの。仕事の付...
後ろ足で器用にポリポリ…一緒に“にゃんたま”も揺れちゃうの
 きょうは、首元がカユ~イにゃんたま君です。  首を掻くのに、うしろ脚を使うなんて…ニャイす!  一本だけ爪...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #2
 自分の作品がヘアヌードブームに引っかかることも、世間はこんなにエロが好きで、女性のヌード=男性の下半身への奉仕物、と見...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #1
 女が脱ぐ仕事をするのには、いまも昔も危険や煩わしいことが付きまといます。  私自身、音楽をやっていた頃に自分の作...
お葬式に黒いタイツはダメ?寒い日の防寒対策&喪服のマナー
 真冬にお葬式に参列することになった時、黒のストッキングでは足元が寒いことってありますよね。でも、暖かい格好で行こうと思...
配信者にとっては厄介!「察してもらいたい欲」がすぎるひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...
この匂いはあの子かにゃ?チェックに余念のない“にゃんたま”
 猫の嗅覚は、人間の嗅覚の数万倍から数十万倍鋭い、といわれています。  猫の鼻先は常に湿っていて、空気中に流れてい...
今年の実付きは最高!「千両」と共に迎える幸せなお正月
「今年の千両、実付きがいいよ!」  花市場でいつもお世話になっているセリ人のお兄様が電話の向こうで叫んでおります。...
旅行できない今こそ…年末年始におすすめグルメサービス2選
 政府の観光支援策「Go To トラベル」の全国一斉停止が決まり、年末年始の予定を変更した人も少なくないはずです。こんな...
静かな時間の終わりなき毛繕いに感じる“にゃんたま”の美学
 男には自分の世界があるらしいと知ったのは、小学校低学年の頃。  テレビでルパン三世のアニメのテーマ曲が流れていて...
人と仲良くなる6つのコツ&友達作りが上手な人の共通点♪
 社会人になってから、「人付き合いに苦労している」という人は多いはず。学生の頃には、無難にこなしていたはずの人付き合いが...
アンガーマネジメントのススメ~怒りを伝えて我慢にさよなら
 男女問題研究家の山崎世美子(せみこ)です。人間関係のほとんどのトラブルは“怒り”から始まるといっても過言ではありません...