両乳房の切除に加え、卵巣も
――ショックでしたね…おつらいでしょうが、話せる範囲でお聞かせください。
「夫は『費用の面は心配しなくていい。俺が責任を持つから』と言ってくれたのが救いでした。ただ、がんの治療は私の人生を大きく変えるほど残酷なものとなりました。
ステージ2とはいえ、私の母が同じ乳がんで亡くなっているため『遺伝』と診断され、両乳房の切除になったんです。
この遺伝性というものがかなり厄介で、がんの転移や再発防止も考慮し、2つの卵巣の切除も決まりました。
女性ならご理解いただけると思いますが、両乳房を失う現実は、言葉にできないほど悲しくて…。真っ先に思ったのは『豊さんと今までのように愛し合えない』という無念です。
そして、卵巣も切除するわけですから、自動的に閉経を迎えます。女であっても女じゃない体。命を守るために『女』を捨てる選択をしなければならない現実に、その場で泣き崩れてしまいました。
そして、医師に聞いたのです。
――先生、私、生きられますか?
医師は『最善を尽くします。なので香織さんも頑張りましょう』と励ましてくださりました。その後、化粧室に行って豊さんに連絡すると、彼も相当ショックを受けたようです。
――僕が香織を思う気持ちは変わらない。可能な限り香織をサポートするから。
そう言ってくれて、彼の優しさにまた涙してしまって…」
がんと闘う日々
その日から、がんと闘う日々が続いた。
「乳房の切除は2022年の5月にやりました。手術前夜、自分の体を鏡に映し、しみじみと乳房を見たんです。『明日でお別れ…ありがとう』と呟くと、涙が止まらなくて――。
乳房を形成する手術の選択肢もありましたが、『異物を入れる嫌悪感』もあり、拒否したんです」
結果、香織さんは乳房の膨らみと乳首を失ってしまう。
「手術が終わってから病院には夫も来てくれましたが、あまり会話が続かなくて…。着替えやタオルを持って来てくれた実妹と一緒に、息子も駆けつけて、『お母さん、早くよくなってね』と。
そして家族のいない隙間を縫って、豊さんが来てくれて…。『香織、頑張ったね』と握りしめてくれた手が温かく、彼のために早く元気になろうと誓ったものです。LINEもマメにくれるようになりました。
しかし、闘病は予想をはるかに超えた苦痛が伴いました。
まずは7月から始まった抗がん剤の投与です。3週間に1度の点滴ですが、これが『赤い悪魔』と呼ばれる強めの抗がん剤で、投与すると、39度もの発熱、吐き気、倦怠感が起こるんです。
当初は8回の予定でしたが、あまりにも副作用が強く、2回目でダウン。結果、週に1度投与する軽い抗がん剤に変えてもらいました」
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