「夫の駐在時にね…」なぜあのコが?田舎の同級生“玉の輿婚”に心ざわつく

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-04-13 06:00
投稿日:2024-04-13 06:00

格下女子の玉の輿に、千佳の心はざわついて…

 この気持ちを嫉妬だと表現したくなかった。

 彼女の言葉や表情には、苛立つ方に問題があると思ってしまうほどの純粋さがあったから。心から生活に満足しているあらわれなのだろう。

「ねえ、千佳さん。良かったら、お休みの日にまたゆっくりランチしたいな。ご自宅はどこ?」

「吉祥寺だけど」

「吉祥寺! あのあたり素敵よね。のんびりしていて」

「…芙美さんは豊洲よね」

 千佳は深く突っ込まれないように、質問を繋げた。すると芙美は声を潜めながらもサラリと言うのだった。

「うん。でももうすぐ引っ越すよ。晴海の新しくできたマンションに」

「――え! もしかして、ハルミフラッグ?」

 ハルミフラッグ。東京五輪の選手村として使用された晴海のマンション群だ。湾岸エリアの中でも比較的割安だが、部屋によっては倍率が何百倍もするという。

自虐を装った自慢じゃないの?

 実は、千佳の今住む家とさほど値段は変わらない。今の家の購入時に一度検討したが、固定資産税やその他諸経費が家計に見合わないと正信からの反対があり、申し込みさえできなかった憧れの城だ。

 千佳の驚きに、芙美は恥ずかしそうに頷いた。

「当たるとは思っていなかったのよ。投資用に買う人が多いって聞いたし、どうなんだろう。まぁ、今のマンションも満足しているわけじゃないんだけどね。たとえばね…」

 それから芙美は突然エンジンがかかったように、つのる愚痴をどんどん吐き始めた。

 周りは小学校受験や中学校受験が当然で、インターの自分は肩身が狭い、ボスママ主催のお茶会が憂鬱なこと、仕事をしたいけどブランクがあって復帰ができないこと、毎日暇を持て余していること…などなど。

 困ったような顔であるが、口元は笑っている。そのせいか、喋る内容すべてが千佳にとって自虐を装った自慢に聞こえた。

 1時間近く、機械のように首を上下させ続ける。千佳はなんとか耐えぬいた。

こぼれた自分の本音に呆然

「ありがとう、今日は楽しかった」

 スッキリしたのか、東京駅のタクシー乗り場の芙美は満面の笑みで颯爽と車に乗り込んだ。

「うん…」

「またランチ行こうね♪ 吉祥寺にも行くよ!」

 同じ表情を作りながらも、心は無、だった。苦行が終了した開放感で、空っぽになっていたから。

「ランチ…。忙しいから無理かな」

 思わず心の声が漏れ出てしまう。同じタイミングで自動ドアがバタンと閉じる。

 窓越しに芙美の悲しそうな笑顔が千佳の目に入った。タクシーはそのまま街の中に消えていく。

 千佳は呆然と見送りながら、最後の最後で本音の表面張力が決壊してしまったことに気づいたのだった。

#3へつづく:自分の憧れを全て手に入れた同級生。嫉妬心に狂う千佳は…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「浮気してるんでしょ?」デマだよ、デマ…戦慄!ママ友いじめLINE3選
 子育て中のママが避けて通れないのが、ママ友同士の付き合い。適度な距離感を保ちつつ、上手に付き合えるママがいる一方、マウ...
値上げにウンザリ!2023母の日のトレンド「お得な商品」が丸わかり
 春うららから初夏の予感の日々でございます。  3年ぶりの“マスクオフ”が許された今年のGWはいずれの観光地も大賑...
貯金ゼロ女、将来が不安すぎる! 無駄遣いをやめる8つの方法
 コレといった大金を使った覚えがないのに、「もう、お金がないのだけど!?」なんて毎月思っていませんか。自覚のない無駄遣い...
ヤンバルクイナ? 所変われば標識も変わるね 2023.5.1(月)
「とび出し注意」の標識に描かれているのは……もしかしてヤンバルクイナ?  所変われば標識も変わるね。道路で希少動物...
白ボディ×オレンジ“たまたま”にキュン♡クールな表情もGood
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
GW明けにブチ当たる第2の壁! 幼稚園“行き渋り”地獄の乗り切り方
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
GWってなあに? 2023.4.30(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
面倒くさい質問キター!「何歳に見える?」の絶妙かつうまい返し方5選
 プライベートでも仕事先でも、初対面の人と接するときによく聞くのが「私、何歳に見える?」というフレーズ。「面倒くさ〜!」...
逃げるが勝ちのケースも…性悪義母のモラハラから身を守る法
 義母との関係は、なかなか難しいものです。夫の母親だからこそ、「うまくやっていきたい」と思っているのに、相手にその気がな...
金継ぎは習うべきか、独学で突き進むべきか 2023.4.29(土)
「民藝運動の父」こと柳宗悦氏の著書に感銘を受け、陶器をちょこちょこ集めるように。大好きなセブンイレブンのお惣菜も、お気に...
エンドロールは「裏方さんの名前」に涙…ヲタクあるあるなLINE3選
 どんな分野にも、根強い「ヲタク」が存在します。少し前までは、ネガティブなイメージの強かったヲタクですが、最近では芸能人...
配属ガチャに外れても「ダメな上司」5つの対処法でむしろ効率UP!
 転職や人事異動など、新しい環境で仕事がはじまったはいいものの、めっちゃ仕事ができないハズレ上司を引いてしまったー! な...
若さに胡坐をかいた後でいい!トシ取るのが憂鬱になったら実践したいこと
 もしずっと今の年のままいられるなら、みなさんは嬉しいでしょうか? きっと「そりゃそうでしょ!」と答える方が多いと思いま...
桜のフレームからのぞく南アルプスの春 2023.4.28(金)
 桜のフレームから雪の残る山をのぞく。南アルプスに春がきた。  今ごろはこの薄ピンク色が濃い緑になってるのかな。 ...
生活習慣も断捨離!40女がやめた4つのこと 2023.4.27(木)
 4月も残すところあとわずか。新生活のスタートにあたり、今までの習慣を見直した方も多いのでは?  今回は、筆者がやめた...
茶トラ軍団が大渋滞中!どの“たまたま”にピントを合わせる?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...