29歳女が結婚相談所で悟る“普通”の定義 最後の最後に選ぶべき男は誰?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-05-11 06:00
投稿日:2024-05-11 06:00

「“普通の人”ってなんですか?」

「この際なので正直に言いますね。実は私、萌香さんの言う『普通の人』が、イマイチ分からないんです」

 萌香の希望の条件が、国崎の“普通”の認識とどこかギャップがあるのだという。

 だからこそ、データ上の平均で様々なタイプの反応を見て認識とすり合わせながら、いまは萌香の望む“普通”を探っている状態なのだそう。

 ちなみにあの福田は、地元では優良物件と申し込みが殺到しているのだとか。

「ええ…!? ま、田舎では人気かもしれないですけど」

 ポロリと本音を吐いてしまうと、国崎の柔らかな表情が一変した。

「萌香さん。日本の人口の約9割は田舎と呼ばれる地方在住なんですよ」

「…」

「萌香さんは東京での“普通”を生きているから、気づかないかもしれませんけど」

私の“普通”と世間の“普通”は同じじゃなかった

 東京での、普通。

 データ上での、普通。

 限定的にくくって強調されることで、国崎から世の中には多くの“普通”があるとたしなめられているようだった。

 萌香は、だんだんと考えが混乱していた。

 私が求めている普通とは何だろう。そもそも、普通に結婚することを望み、普通の結婚相手を求めている自分は普通なのだろうか、と。最近は国崎のように未婚を通す人も多いというのに…。

 ただ、その“多い”という認識も自分の周辺だけのことなのかもしれない。

「福田さんからは萌香さんの体調を心配するメッセージが届いています。お断りしても構いませんので、もう一度会ってみたらどうでしょう」

 次の言葉が出ない萌香を国崎はいつもの優しい笑顔で包んだ。

 その申し出を断る理由はなかった。

断るはずが…話してみると案外悪くない

 初回から「ドライブはハードルが高い」と国崎を通じて福田に伝えると、すぐに彼は反省してくれたようだ。

 それもあって次のお見合いは、萌香も行き慣れている東京駅近くのラグジュアリーホテルのラウンジで行うことになった。

「ごめんね。俺の地元は車じゃなきゃデートできないんだよね」

「私、両親も免許証を持っていないんです。タクシーと電車で十分だからと」

「え、俺、新幹線以外の電車に最後に乗ったのは2年前に一度だけなんだよ」

「嘘! 本当ですか? そんな人、私の周りに居ませんよ」

 実際、腰を据えてじっくり話してみると、福田はハードな見た目とは裏腹に、物腰も柔らかく素直な男性だった。

 ――あれ?

「やっぱり東京は違うね。ケーキもさすが、ホテルクオリティ」

 2000円のショートケーキをおいしそうに頬張るその男を見て、萌香は思わず微笑んだ。

 心も話も弾んでいる。

 我に返り、気持ちを切り替えるつもりで目を逸らし、窓の外を見た。

 東京駅を行き来する老若男女、国際色、地方色豊かな人々を眺めながら、彼との結婚生活のことをぼんやり考えた。

 萌香が考える“普通”ではない彼。ルックスも結構パンチが強い。好みとはかけ離れている。一度会ってお断りするつもりで来たはずだが…。

可愛く思えるのはなぜ?

「どうしました?」

 表情が変わった萌香を心配した福田が顔を覗きこんだ。

 その上目遣いを可愛いと思ってしまう自分がいるのだ。

「なんでもないです」

「萌香さんって変な人だね」

「それを言うなら――」

 萌香は、福田との今の時間を楽しむことを優先することにする。

 そのなかで、じっくりと、“普通”の意味を考えるのだった。

 ――Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


げっ困った! 超苦手なカラオケに誘われたら…場の空気を壊さずに切り抜ける方法
 冬が近づいてきて、そろそろ忘年会のシーズン。忘年会の二次会といえば、カラオケが定番ですよね。でも、「カラオケ、苦手だか...
秋の京阪神「穴場あり」グルメ旅。外国人観光客にバレていない!? 胃で溶けるカツレツ、会館飲み…
 何もかも揃っているような東京に住みながら、関西でいただく食事はなんであんなにうまいのか。そんな気持ちにかられて、先日、...
「う、うまい…」秋の京都で“当たりだけ”グルメ! コッペパン天国から地元民太鼓判の街中華・餃子まで
 先日、遅めの夏休みとして京都を中心に旅行へ出かけました。京都は「ここが私のアナザースカイ!」と両腕を広げたいほど、大好...
ツンデレorガチ避け? つれない“たまたま”太郎についてゆきます!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
年末年始に増えるご不幸と葬儀。花屋が心底思う「後悔しない直葬」とは?
 寒くなり、アノ不思議現象がボチボチ起こり始めております。それは、年末から年明けにかけて頻発する「お亡くなり現象」。...
「卓越下着術」「胸囲ない」セクハラかと思いきや…!職場&家族へのおもしろ誤変換LINE7連発
 日常の連絡ツールとして欠かせないLINE。気軽に送れるぶん、おもしろ誤変換が生まれます。特に職場LINEや家族への誤変...
「オレ忙しいアピール」って何様よ? 昭和オヤジの怠慢さに怒りの沸点越え
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
更年期、私はこれで対処しています②賛否両論のプラセンタ、筋肉注射で痛みもこの上ないが…
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
40歳、セルフプレジャーより睡眠が優先!?フルタイム正社員に転職で痛感
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方をテーマにブログやコラムを執筆している豆木メイです。  つい先日ま...
仕事ができないけど愛される人の特徴5つ。ポンコツなのになんで?
 あなたの職場にも仕事ができないポンコツなのになぜか周りに愛されている人、いませんか? 今回は、仕事ができないけど愛され...
気は優しくて力持ちってこんな感じかな
 そして、  思わずほっこりしてしまうのはなぜ?  
ダークヒーロー参上! 木の上から睨みを利かせるアウトロー“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
息抜きは絶対必要!忙しいワーママが自分時間を確保する4つのアイディア
 世の中のワーママは、仕事や家事、育児と朝から夜まで大忙し! 自分の時間なんてほとんどありませんよね。しかし、人には息抜...
「糟糠の妻」の意味は? 出世しても〇〇してはいけないんだゾ
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
ほっこり癒し漫画/第85回「食べる! 食べるでござるーッ!」
【連載第85回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
酔っ払い同士の胸熱&ちょっと恥ずいLINE3選。きのこたけのこ戦争の和解にもおすすめ?
 人はお酒を飲むと日頃心に秘めている本音が出てきますよね。酔っ払い同士のLINEをのぞいてみると、本音同士の面白い会話が...