子供時代のつらい記憶
子供時代、私が寝静まった時、何度も母が頬をぶたれる音で目覚めたことがあります。その上、真冬の深夜、
――千鶴…ドアのカギ、開けてくれない? 父さんに、また締め出されちゃって…。
雪の中、締め出されて助けを求める母の声を何度も聞きました。私が気づくまで母は何時間も雪の中で凍えていたのです。
――母さん、大丈夫? すぐに開けるから。
私は泣きながら玄関のカギを開け、冷え切った母の体を抱きしめました。酔った父はリビングで大いびき。そのくせ朝起きると酒で記憶がないのか、夫婦ゲンカをして母を深夜の雪中に締め出したことなどなかったように、相変わらずの仏頂面で『おはよう』と言い、朝食をとって仕事に行くのです。
母も諦めているのか、父には何も言いません。父の支配は、私にも向けられました。私が通っていた中学校は制服は無く、私服がOKなのですが、毎朝『服装チェック』をされるんです。
――スカートが短すぎるぞ。脚を見せすぎるんじゃない!
――色が派手だな。もっと地味な色を着なさい。
――とにかく目立つな。市役所で恥をかくのは父さんなんだぞ。
色付きリップを塗ろうものなら、
――子供がなに色気づいてるんだ。
と、リップを取り上げられ、ロングヘアの色を明るめにカラーリングした際は、
――バカ者! お前は品というものがないのか!
そう罵られて、美容院で無理やりベリーショートにさせられたんです。そして、決まって母に言うのです。
――お前の育て方が悪い!
傍若無人な父から逃れられたのは大学に入ってからです。本来は東北にある国立大を目指せと言われていましたが、万が一、実家から通う羽目になったらかごの鳥同然です。
父から逃げるための提案
なので私はある提案をしたんです。
――同じクラスのYちゃんが、東京のS女子大目指しているの。私も行きたいな。
S女子大とはお嬢さま学校として有名な女子大です。私立で偏差値も高かったのですが、誰もが一目置く大学。そして、Yちゃんのお父さんはうちの父と同じ職場で、出世競争をしていることも知っていました。
Yちゃんの名を出したことで、父のライバル心を大いに掻き立てたようです。
――合格したら、上京を許してやる。その代わり女子寮に入りなさい。
こうして私は猛勉強し、無事合格。そしてS女子大に通うことになりました。Yちゃんは不合格で地元の大学に進学し、その後、信用金庫に就職。そこで知り合った男性と結婚したようです」
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