たまに感じる居づらさ「それでいいの?」
ママ友たちの輪の中心で、真央はそれなりにうまくやっている。
自分の名前を呼ばれないことにも慣れた。小学校ママ、幼稚園ママ、ご近所ママ、様々なLINEグループを使い分け、愛想笑いも顔に染みついた。
当たり障りのない関係を常にキープしているからこそ、大きなトラブルもなく、傍から見たら充実しているように見えるだろう。実際、楽しいと聞かれれば迷いなく首を縦に振れる。
だけど、なぜか居心地の悪さがある――。
何不自由ない環境なのに、感じる後ろめたさ。「それでいいの?」と斜め上から誰かに問いかけられているような気がしている。
カラオケ後のランチ会を終え、娘の幼稚園のお迎えまで、真央は一旦自宅に帰り、夕食の準備と午前中にできなかった部屋の掃除をした。
キッチンで洗い物をしていると、リビングの窓の向こうに広がる小さな青空にふいに目がとまった。
「…」
引き寄せられるように、真央はバルコニーへ向かう。
広がる景色は、違う棟の建物と四角い空。管理人と業者によって手入れされた芝生と植栽が街に癒しと生命力を与えている。購入前にマンションギャラリーで見たジオラマそのものの光景だ。
真央はふと思い出す。理想の街の地図を作ることが好きだった少女時代を。
平成の「サブカル趣味」に興じてた独身時代
描いた地図の中には、住居はもちろん、大きな公園や小学校があって、素敵なカフェがあった。近くには大きなスーパー、家族の笑顔が溢れる街を画用紙いっぱいに表現していた。
眼下の街は、真央が幼い頃に夢見た理想の場所のはずなのだ。
だけど…。
遠くから湘南新宿ラインの通過音と赤ちゃんの泣き声が聞こえた。秋風が真央の肌を撫でる。寝室にあるウォークインクロゼットに反射的に向かう。そろそろセーターを出さねばならないと思った。
「…あ、懐かしい」
衣替えついでにクロゼットの整理をしていると、奥の方から十代の頃に着ていたTシャツの数々が出てきた。
透明な衣装ケースに畳んであったのは、バッファロー66、ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ、恋する惑星などのミニシアター系映画や、ロキノン系バンドのTシャツだ。真央の胸にときめきと懐かしさが押し寄せる。
――私、まさに平成のサブカル女子、だったんだよなぁ。
真央は高校生の時、向井秀徳率いるナンバーガールにハマり、当然のごとく解散後はZAZEN BOYSに流れた。くるりや中村一義、ズボンズなども好きでライブにも足しげく通った。その時の音楽はいまだに脳内有線でヘビーローテーションされているほど。
おもむろにZAZEN BOYSのライブTシャツを手に取ると、防虫剤の匂いが時間を巻き戻した。
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