お互いの「子どもの共通点」に愕然。平凡になったのは元彼と私、どっち?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

浜崎あゆみの歌詞を噛みしめる

「掃除、終わったよ。武を呼んで風呂入ってくるね」

「うん、ありがとう」

 武と入れ替わりに文敏が24時間保温のシステムバスへ向かう。

 人造大理石のキッチン天板、夫のおかげでピカピカになったビルトインコンロを見つめる。何もかもが恵まれた暮らしやすい環境、住居。ありふれた幸せがここにあることを実感する。

 絵本を読みながらいつのまにか眠ってしまった凛に毛布をかけ、テレビ画面に目をやると、平成の懐メロ特集がやっていた。

 浜崎あゆみのSEASONSが流れている。口ずさみながら歌詞を噛みしめる。

 真央は、いい歌だと素直に実感した。何回もカラオケで歌っていたはずなのに、はじめて気づいたことだった。

『真央はずいぶん落ち着いたよね』

 銀二の言葉を反芻する。口調に落胆が込められていた。彼もまた、あの時のままの真央を心の中でずっと飼っていたのかもしれない。

 ――別にいいよね、平凡になるのも。

バンドTシャツに彼も気づいているはず

 数日後。天気のいい秋の昼下がり。棟に囲まれた円形広場のベンチ。

 幼稚園バスのお迎えの時間まで、色づきはじめた並木道に時の移ろいを感じながら真央はその美しさにふける。落ち葉に染まる鮮やかな街路、枯葉を脱いだ木々の趣、その先の季節の変化に想像を膨らませる。

「おう、どうも」

 誰かの挨拶の声が聞こえてきた。声の主の方を向くと銀二がいた。隣には、妻とみられる女性と、礼音くんがいる。

「こんにちは」

 笑顔で頭を下げ、真央はご近所さん以上の対応をすることなく、すぐ立ち去った。気まずかったわけではない。むしろ微かに胸が波打ったことが隣の女性に対して申し訳なかった。

 彼がユニクロのフリースの下から覗かせていたのは、ZAZEN BOYSのTシャツだった。今自分がカーディガンの下に着ているものと色違いだ。

 メルカリにでも出そうかとクロゼットから出して放置していたが、なんとなく最後に着たくなって外に出てしまった。やっぱり売りに出さないことを決意する。

 普通を自覚しながらも、それでも僅かな自意識のかけらがある自分もほほえましい。

 この場所の心地よさを素直に受け入れながら、真央は箱庭の空を見上げた。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


屋外の鉢植え植物をレスキュー!灼熱地獄から守る「正しい置き場所」は?
 観測史上最高気温の更新上げ幅がエゲツなく「地球沸騰化時代到来」なんて言葉、聞けば聞くほど恐ろしいとしか言いようがござい...
そろそろ散髪の時期かな? 2023.8.9(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
無意識ポロリしてない? 今すぐ直したい「人に嫌われる相づち」4選
 話していて相づちが鼻につく人っていますよね。相づちの仕方は癖や習慣になっているケースが往々にしてあり、もしかしたらあな...
新幹線で帰省中、ヤバい親子に遭遇!「お互い様」の解釈について考える
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
安らかに眠れる日は来るのだろうか 2023.8.7(月)
 多くの犠牲と哀しい歴史があった。その事実と人々を決して忘れないと誓った。  いまの僕らは、次の時代に平和を託した...
兄貴に挨拶しなきゃ…ビビりなシンメトリー“たまたま”を激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
薄毛ネタは反則ですよね…めんどくさっ!返信に困った「自虐LINE」3選
 自虐ネタはその場を和ませるトークテクの1つ。ですが、相手を困らせてしまうケースもあります。今回は、皆の“対応に困った自...
生きてるだけで偉い! ゆるい人生に胸を張る 2023.8.6(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
改めてリスキリングって何? 話題の理由&40代女性におすすめ分野
 AIの発達でどんどん人間の仕事が減っていく中、40代女性の間で「リスキリング」が話題になっています。とはいえ、まだリス...
新居の洗面台が1年でボロボロに…見積もり金額が!2023.8.5(土)
 昨年の夏に新居が完成した我が家、たった1年で洗面台の「ある部分」がボロボロになってしまいました。そして、その部分を交換...
人生が入り混じる乱反射の中の生活 2023.8.4(金)
 何のつながりもない人々が一瞬だけ交錯した瞬間。  エスカレーターは無情にも君を連れ去っていく。  追いかけ...
「女同士のイベント参加」は要注意 事前に確認すべき“相手の目的”
 夏も盛りになってきましたが、みなさん何か夏らしいイベントはやりましたか? いいですよね、浴衣を着たり、プールに行ったり...
親の常識を疑う「気になる子連れマナー」はどう対処するのがいい?
 日本人は、集団でのマナーやルールを重要視する文化がありますよね。だからこそ気になるのが「子連れマナー」です。子どもの行...
圧倒的な不公平感!「共働きでも家事は妻ばかり問題」解消メソッド5つ
 共働き夫婦の揉めゴトといえば、家事の分担。「夫が全然家事しない!」とストレスをためている奥さんも大勢います。  ...
人間界では廃止だけど…元気な“たまたま”たちの夏の登校日
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
今年の日焼けはヤケドレベル? “常備薬”アロエの美肌効能でクールダウン
 ワタクシが幼少期に大きく影響を受けたのは、同居していた父方の祖母でございます。お花屋さんになったワタクシですが、実家は...