お互いの「子どもの共通点」に愕然。平凡になったのは元彼と私、どっち?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

【新川崎の女・鈴木 真央41歳 #3】

 新川崎の大規模マンションに暮らす真央。「量産型主婦」を自覚しているが、かつての真央はバリバリの個性派女子だった。そこでかつての想い人に会ってしまう。同じ趣味やセンスを持っていた彼もまた、普通の中年パパに変貌していて…。【前回はこちら】【初回はこちら

 ◇  ◇  ◇

「あああああああ、もう!」

 キッチンの掃除をしながら、真央は突然大声で叫んだ。

 夕食を終え、リビングのソファでくつろいでいた凛と文敏は、何事かとビクッと肩を震わせる。

「…どうしたの?」

「あ、いや、コンロについたコゲがどうしても落ちなくて」

 言い訳したが、全くの嘘。夕方、キッズルームで銀二に投げかけられた言葉がふとよみがえり、突発的に爆発してしまったのだ。

『真央はずいぶん落ち着いたよね』

まるで二度目の失恋をした気分だ

 だけど、それはこちら側のセリフだった。銀二の方が容貌も、雰囲気も、会話の中身も、何もかも変貌していたのだから。

 強いて言えば礼音くんから、多少の彼らしさを感じるくらい。今どき珍しい五厘刈り。孤高の存在だった彼のマインドの片鱗を見た。凛も前髪ぱっつんおかっぱ頭だから、他人(ひと)のことは言えないが…。

 ――あの時、「あんたもね」と言い返せばよかった。

 くすぶる感情を解消すべく、コンロのこすり洗いに没頭する。ずっと汚れを放置し、こびりついたコゲはなかなか取れない。

 まるで、二度目の失恋をした気分だった。

 空虚な気持ちを押し殺そうと、心を無にし、真央は必死で手を動かす。その甲斐あって、しばらくすると輝きを帯びてきた。

 嬉しいのに、なぜか寂しさが吹き込む。

「…」

 真央は、思い知る。

 勝手に自分の中に『あの頃の銀二』を飼っていたのだということを。

 彼はずっとあの街で、退廃とカルチャーに溺れながら汚れたままでいてほしかった。

 ――銀二は、あの頃のわたしの拠り所だったんだ…。

趣味は真逆だけど、優しい夫に惹かれた

 喪失感は、自然とため息となって吐き出される。するとその異変に文敏が気づき、顔を覗きこんできた。

「ママ大丈夫? さっきから変だよ。疲れているんじゃない?」

 掃除を変わってくれるという。優しい夫に素直に甘えることにした。

 真央と夫・文敏は、就職して間もない頃、当時勤めていた会社の同僚が開いてくれたバーベキュー大会で知り合った。

 同い年で車が趣味の彼。嗜好は真逆だったけど、銀二と真逆の誠実な性格に惹かれた。そして、ドライブデートでじわじわと親交を深めた。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


お酒は好き! だけどね…飲み過ぎで記憶なくした次の日にすべきこと
 お酒が好きな人は、ついつい飲み過ぎてしまう人も多いでしょう。中には次の日、「記憶がない」なんて経験をしている人はいませ...
神々の前で人は何を想うのだろう 2023.6.23(金)
 この夕陽を浴び、神々の前で人は何を想うのだろう。  自分と家族が健康な毎日を送ること。世界が平和と共存に向かうこ...
人間は“ド忘れリピート”が前提かも? シゴデキ女子たちの仕事観3.0
 みなさんは仕事で一回したミス、もう一度したことありますか? 私は何回もあります。そして忘れてしまうこともよくあります。...
冷え性つらいし試してみる?カフェイン断ちメリット5つ&成功させる方法
 朝起きたらコーヒーを淹れることがルーティンになっていたり、仕事中にコーヒーブレイクするも多いでしょう。眠たい時や疲れた...
身体のSOS見逃さないで!「鉄分不足」で生じる不調サイン5つと改善策
 毎日忙しく過ごしていると、ついつい自分の身体のサインを見逃しがち。「これくらい大丈夫」と高を括っている人も多いでしょう...
モテ男協議に「異議あり!」白ソックス“たまたま”が立候補するの巻
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
キンプリ見分けムリ! 40女の老化あるある2023.6.22(木)
 45歳です。もうじき46歳になります。誰ですか「40にして迷わず」なんて言った人は。40代も後半になってもなお、迷走し...
ジムのあちこちで出没する迷惑おじさん! イラッと回避の対処法は?
 夏、目前! 健康維持やダイエットのために、スポーツジムに通う人が増えるシーズンですね。思い切り身体を動かすと、リフレッ...
マジで嬉しい観葉植物ブーム!「バイオフィリア」から学ぶ新しい生活
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべき花屋のわりとご近所に大型ショッピングモールが出現し、何かと相談にのってくれる花屋の男友...
自ら「幸せな状態」に寄せていける人は強い 2023.6.21(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
面倒くさい、お金もない!行きたくない結婚式の“カドが立たない”断り方
 愛し合っている二人の晴れ舞台、結婚式。仲の良い友人や同僚、親戚などの結婚式は出席して直接お祝いしたいと思う女性がほとん...
すいかばかのレシピ~'23年<2>月夜の畑ですいかの苗を愛でる
 すいかの生産量は全国ワーストの山梨県で、こだわりのすいかを作る男がいる。ひとは彼のことを「すいかばか」と呼ぶ――。
自宅で収穫したジューンベリーでジャム作り 2023.6.20(火)
 昨年の夏、新居に引っ越した際に家のシンボルツリーとして植えたジューンベリーの木が実をつけました。赤い小さな可愛い実はそ...
キャベツ枕に洗体しない育児…うっわぁー自然派ママのドン引きエピ5選
 健康志向が高まる中、世間では自然派のママが増えているようです。マクロビ、ヴィーガンにはじまり、病気になっても薬を一切使...
我が家のカレーが食べたくなった瞬間 2023.6.19(月)
 旅先で急に我が家のカレーが食べたくなった瞬間。  郷愁をそそる、紅白ののぼり旗。  そして、そそられる、ち...
いずれやって来る去勢手術、尊い“たまたま”を今のうちに激写
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...