6年生になった娘に訪れた変化
今日も机に向かい、ワークに励む美愛の小さな背中。愛子はずっと、じっと、眺めている。彼女のがんばる姿を見るのが、今の愛子の生き甲斐だ。
中学受験に挑むにあたって、教育虐待をしてしまうのではないかと不安もあったが、どうやら杞憂だったようだ。
こんなにがんばっているのなら、横浜雙葉には余裕で入ることができるだろう。山手の桜並木を古風なエプロンドレス風制服で歩く美愛を想像し、自分を重ねて落ち込む心を奮い立たせた。
モチベーションがそのまま続くことを切に願いながら。
だが…――そんな美愛が6年生になってほどなくした時、変化が現れた。
可愛い娘の反抗に戸惑う
「…あのさママ、あっち行ってくれない?」
いつものように勉強を見守っていると、信じられない言葉が愛子の耳に飛び込んできた。頭が真っ白になったのは言うまでもない。
「あ、ごめんね、ココアでも作ろうか」
「チョコ食べたし、糖分は十分足りてるよ。ほんとに気が散るの。出てって」
繋いでいた手が、突然離されたような感覚になった。
――今までは、ココアさえ飲ませれば機嫌が良くなっていたはずなのに…。
何があったのか、と尋ねるとさらに棘が増した。愛子は観念してしぶしぶ勉強部屋を後にする。
自然とベッドルームに足が向かい、既に寝ている下の子を自己満足で抱きしめた。しかし、脳裏に焼き付いているのは美愛の鋭い表情だった。
受験も近づき、勉強の量が多くなるにつれ、彼女はイライラのオーラをまとう日が多くなってきていた。気づかないようにしていたのだが…。
そしてふと湧き上がる漠然とした嫌な予感。
――あの子、本当に受験がしたいのかな…。
「受験、したくなければしなくていいのよ」
SAPIXで毎月頂く広報誌には、2月の勝者となった生徒の家族のインタビューが掲載されている。
そこで見る親御さんたちは揃って「子どもが自分から中学受験をしたいと言って来た」「子どもの意志を尊重して中学受験をした」となどと口を揃える。
強要したわけではない、というアピールなのかもしれないが、愛子にとってその言葉はとても重かった。
美愛は、愛子から積極的に誘導されて、中学受験をしている。それとは逆の、ほとんどの子が“じぶんの意志で”中学受験をしているという表向きのデータに戸惑う。
「美愛ちゃん、受験、したくなければしなくていいのよ」
ワークが一段落し、キッチンで夜食をとり始めた美愛に、愛子は思い切って聞いてみた。
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