早稲田卒、商社OLの称号は「貧乏な夢追い人」とは違うの。誰よりも高い“現在地”は私だよね?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-03-08 06:00
投稿日:2025-03-08 06:00

就職に失敗し、夢を追うフリをしていた

 ぶっちゃけそれは、大手狙いがあだになって、就職浪人となった翌年に、その事実を認めたくなくて目の前にあった夢らしき藁を掴んだだけ。お笑い自体はその頃、現実逃避の術としてよく見ていたコンテンツだった。

 WYCは学費さえ用意できれば、誰でも入れると言われていた。だから、『あえて就職はしないスタンス』を装うことができる。

 と言っても、惰性で養成所に通っていたわけではなく、天性の真面目で、がむしゃらに目の前のものに向き合っていた。結局、就職と同じで努力の分だけ報われるような世界でないことを突きつけられ、心折れたわけだが。

あの子、まだ芸人なんてやってるの?

「そうなんだ。真面目に授業受けていたにもかかわらず、意外とすぐに辞めたからずっと不思議だったの」

「形だけ頑張っていただけですよ。すみれちゃんの純粋な頑張りとは違います」

「すみれ。当時から目立っていたもんね」

 SMILE☆すみれこと、山崎すみれは、同期で一番の天才と入学当時から騒がれていた高卒の女の子だ。尖ったシュールな芸風ながらも、明るい上にセンスもあり、みんなの愛されキャラだった。

「――あの子、今も芸人やっているみたい。全然名前は聞かないけど」

 すみれの現在を検索したらしく、麻梨乃さんは半笑いで教えてくれた。呆れ? いや、蔑みだろう。

 かくいう私もそれを聞いて「よく続けてられるよな」と正直に思ってしまった。検索しなければ存在がわからないくらいだ。案の定、売れていないのだろう。

 その一方で、彼女がいまだ相変わらずの状態であることが嬉しい。

 ステージが上がってしまった同期の戦友が出ているテレビは、実は薄眼でしか見ることができない。

 きっと、少なからず悔いのようなものがあるんだと思う。

「経済格差」を気遣ってあげなきゃね

「ねぇねえ、すみれが来る前にこの良さげな紹興酒、ボトルで頼まない? 彼女の前でボトル頼むのは申し訳ない気がするのよ」

「わかる。たぶん、金銭感覚違いそうだし」

 すみれのことを会話の中心にし始めたら、緊迫したお互いの心がほどけたような気がした。なぜだろうか。同じ方向の目線で見られるからだろうか。

 5000円のボトルと、この店で一番高い料理であるアワビの炒め物を注文した。

 彼女は専業主婦だし、万が一私に合わせようと無理をしていたら申し訳ないが、夫さんは大手企業勤めということを自ら言っていた。大丈夫だと思うべき、であろう。

「カンパイ」

 店主が上海で仕入れてきたという熟成ものの紹興貴酒。

 あの頃は薄いソーダ割しか飲んだことはなかった。その濃厚なコクと芳醇な香りに、ここにいる誰よりも高い現在地をかみしめた。

#3へつづく:主婦とバリキャリの「マウント合戦」は漫才よりも笑える。“負け顔”ができる女芸人の観察日記】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


GWってなあに? 2023.4.30(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
面倒くさい質問キター!「何歳に見える?」の絶妙かつうまい返し方5選
 プライベートでも仕事先でも、初対面の人と接するときによく聞くのが「私、何歳に見える?」というフレーズ。「面倒くさ〜!」...
逃げるが勝ちのケースも…性悪義母のモラハラから身を守る法
 義母との関係は、なかなか難しいものです。夫の母親だからこそ、「うまくやっていきたい」と思っているのに、相手にその気がな...
金継ぎは習うべきか、独学で突き進むべきか 2023.4.29(土)
「民藝運動の父」こと柳宗悦氏の著書に感銘を受け、陶器をちょこちょこ集めるように。大好きなセブンイレブンのお惣菜も、お気に...
エンドロールは「裏方さんの名前」に涙…ヲタクあるあるなLINE3選
 どんな分野にも、根強い「ヲタク」が存在します。少し前までは、ネガティブなイメージの強かったヲタクですが、最近では芸能人...
配属ガチャに外れても「ダメな上司」5つの対処法でむしろ効率UP!
 転職や人事異動など、新しい環境で仕事がはじまったはいいものの、めっちゃ仕事ができないハズレ上司を引いてしまったー! な...
若さに胡坐をかいた後でいい!トシ取るのが憂鬱になったら実践したいこと
 もしずっと今の年のままいられるなら、みなさんは嬉しいでしょうか? きっと「そりゃそうでしょ!」と答える方が多いと思いま...
桜のフレームからのぞく南アルプスの春 2023.4.28(金)
 桜のフレームから雪の残る山をのぞく。南アルプスに春がきた。  今ごろはこの薄ピンク色が濃い緑になってるのかな。 ...
生活習慣も断捨離!40女がやめた4つのこと 2023.4.27(木)
 4月も残すところあとわずか。新生活のスタートにあたり、今までの習慣を見直した方も多いのでは?  今回は、筆者がやめた...
茶トラ軍団が大渋滞中!どの“たまたま”にピントを合わせる?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
充実感たっぷり!ひとりでも寂しくない「連休の過ごし方」8選
 仕事から解放されて時間を好きなように使える連休ですが、「今は彼氏もいないし、友達は予定があるらしいし、ひとりで寂しいな...
なぜか友達と予定が合わなくなるタイミング 2023.4.26(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
植物版“虫コナーズ”!? センテッドゼラニウムは心のイライラ虫撃退にも◎
 ただでさえ更年期がエグ過ぎて些細なことでイラッとする毎日なのに、暖かいなぁと思った途端にどこからともなくわいて出てきて...
“お奉行サマ”は嫌われる? 知っておきたい鍋料理の迷惑あるある8選
 日中はぽかぽか陽気でも、夜になると冷えることもあるこの季節。晩御飯には、春の食材を楽しめる鍋であったまるのもいいですね...
値上げに負けるな! 5つのプチご褒美で節約ストレスの解消を
 電気代に小麦粉、冷凍食品など値上げラッシュが止まらない今、節約に励んでいる人は多いでしょう。節約は大切なことですが、出...
ゆで卵1個の超ずぼら調理法!電子ケトルの“モコモコ大惨事”から学ぶ
 日々の生活を楽にしてくれる「時短家事」。名もなき家事のパターン化、便利アイテムやサービスの利用など、その種類は多岐に渡...
2023-04-25 06:00 ライフスタイル