「あんぱん」ウラの見所~初週からブチかまし!細部に神経が行き届いた作品だと印象付けた中園脚本

桧山珠美 TVコラムニスト
更新日:2025-04-05 06:00
投稿日:2025-04-05 06:00

第1週「人間なんてさみしいね」#5

 結太郎(加瀬亮)があの世に旅立ち、悲しみに暮れる朝田家。しかし、のぶ(永瀬ゆずな)は一粒の涙も流さなかった。そんなのぶを元気にしたいと悩む嵩(木村優来)に、柳井寛(竹野内豊)は「それが生きちゅうことや」と優しく語る。

 あくる日、表情なく居間に座り込んでいたのぶは、不意に立ち上がって駅まで全力で駆けていく。息を切らせながら必死に父を探すのぶに、駅に居合わせた嵩が歩み寄り、ある1枚の絵を差し出す。それを見たのぶは…。

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【本日のツボ】

「さあさあ皆さん集まって! 焼きたてのあんぱんをどうぞ!」

 ※※以下、ネタバレあります※※

 急死したのぶの父・結太郎の野辺送りから始まりました。その列を遠くから見守り、手を合わせる寛と嵩。前日(4回)放送で結太郎が寛に診察してもらっていましたが、あの短いシーンで、ふたりが幼なじみであることや結太郎の体調が思わしくないことがちゃんと伝わりました。細部に神経が行き届いた丁寧な作品であることがそういうところからもわかります。

「先生。結太郎はなんのために生まれてきたがやろ」。息子に先立たれ、悲しみに打ちひしがれるくら(浅田美代子)が寛に問いかけます。

「なんのために…。子どもの頃から自分の夢を必死に追いかけた。それが結太郎の喜びながや」と寛。幼なじみならばの言葉でした。ヤムおんちゃん(阿部サダヲ)と嵩の場面もよかったです。のぶの父が亡くなったことや自分の父もすでに亡くなっていることを話す嵩に、ヤムおんちゃんがこう言いました。

「たった一人で生まれてきて、たった一人で死んでいく。人間ってそういうもんだ。お前の父ちゃんも、あのチビの父ちゃんも、俺も、お前も、あのチビも。人間なんて、おかしいなあ」

 ヤムおんちゃんはこれからも哲学的な話をする役目を担っているのかもしれません。ジャムおじさんに、「ムーミン」のスナフキンを足したようなキャラクターでしょうか。

「どうしたらのぶちゃんに元気になって貰えるのかな。僕にできることはないのかな」嵩が寛に尋ねます。

「生きちゅうき、悲しいがや。生きちゅうき、苦しいがや。生きちゅうき、いつか元気になって、きっと笑える日が来るがや」と寛が答えます。ここにももうひとり哲学者がいました。

 そして、駅のシーン。

 嵩に、自分と父が別れた最後の瞬間を描いた絵を見せられ、「お父ちゃん」と号泣するのぶ。葬儀でも見せなかった涙を流します。嵩の描いた絵が、のぶの心を震わせ、封じ込めていた悲しみが解き放されたようにみえました。

桧山珠美
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TVコラムニスト
大阪府大阪市生まれ。出版社、編集プロダクションを経て、フリーライターに。現在はTVコラムニストとして、ラジオ・テレビを中心としたコラムを執筆。読売新聞「アンテナ」、放送批評誌「GALAC」、日刊ゲンダイ「あれもこれも言わせて」などで連載中。

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