40代は“知人の訃報”がくる年齢だ。憎んだ男の「死亡通知書」で20年ぶりに集う同級生、独身の私はどう映る?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-06-15 10:16
投稿日:2025-06-14 06:00

【赤羽の女・佐藤百恵48歳 #1】

 板チョコのような重い扉を百恵が開けると、真っ赤な口紅を施したママさんがいつものように明るく出迎えてくれた。

「いらっしゃーい、モモちゃん。いつものでいい?」

 ママさんのおちょぼ口は、深い紅をまとってハートみたい。それは薄暗い店内で灯台のような輝きを放っている。

 百恵はぽっかり空いていたカウンターの真ん中の席に身体をねじ込んだ。

今日も無意味な夜が更けていく

 すかさず、常連のヤスさんが話しかけてくる。

「モモちゃーん、最近ごぶさただったじゃない」

「仕事が忙しかったんです。ほら、うちの会社ちょっと問題起こして、クレームが殺到して連日処理に追われていたので」

「コールセンターだよね? どこの会社にいるんだっけ?」

「リクルート…スタッフィング」

「すげえーいい会社じゃん。リクルートって何か問題起こしていた?」

 厳密に言うと、問題を起こしたのは派遣先の会社で、百恵が在籍している派遣会社がリクルートスタッフィングというだけだ。しかし、ここは厳密に説明してもどうせ翌朝には忘れる場。面倒なので、できるだけ曖昧に濁す。

「まぁ、それは」

「そんなモモちゃんに、おじさんボトルおごっちゃおうかな」

「え、うれしー。ヤスさん、何があったの?」

「なにもねえよ。おごるのはいつものことだろう」

「(ダービー当てたのよ)」、とママの口から小声のつぶやきが漏れた。ヤスさんにはあからさまに聞こえているようだが、とても得意げだ。

「ボトルでもいれるか? 出すよ」

「やったぁー。大好き、ヤスさん」

 そして、今日も無意味な夜が更けていくのだった。

スナックでは48歳でも「最年少」になれる

 赤羽・スズラン通りのはずれにあるスナック『毎々』に集まる常連さん達は48歳の百恵よりもみな年上で、彼女が生活圏内で唯一年少者として扱われる場所である。

 皆そもそもの独りものや、連れ合いを亡くしたりで孤独な人が多いだけに、クセは強いがあたたかく、いつ行っても、間が空いても、妹のように受け入れてくれる。

 九州に住む両親とほぼ絶縁状態な百恵の実家のような場所だ。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


豊洲の人生勝ち組妻でも幸せじゃない?彼女が裕福と引き換えに諦めた事
 独身時代は都心に暮らしていたが、結婚を機に武蔵境に暮らし始めた千佳。しかし、郊外のこの地を愛せない。そんな時、中学の同...
占い好きな成功者と占い好きな非成功者の違い…占いライターで一攫千金も
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
大人は「さようなら」とハッキリ言わないけど…
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
号泣しながら「愛の讃歌」を熱唱 なぜ人はスナックでダサい姿を晒すのか
 私はこれまで多くの夜の世界を見てきましたが、スナックは本当に不思議な場所です。  完全無欠のモテ人間ほど、なぜか...
この勇姿もあとわずか…去勢手術予定“たまたま”を記念撮影!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
春の行楽、御朱印集めはスタンプラリーと何が違う? 作法やタブーとは
 山形県東部にある山寺(山形市)で自らの行いについて考える出来事がありました。我よ、御朱印集めがスタンプラリーと化してい...
人は「趣味が合わない相手」と恋に落ちることがある
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「クリスマスローズ」で究極のほっぽらかし園芸!怠け者でも花いっぱい♡
 猫店長「さぶ」率いる我が花屋のある神奈川は地球温暖化の影響もあり、ここ近年の特徴は卒業式に桜咲くでしたが、今年は入学式...
立ち止まっていても時間が進むのなら…
 立ち止まっていても時間が進むのなら、いっそのこと急がなくても良いのかも。  人は人、自分は自分。
かわいい“たまたま”が大集合!夕暮れの集会の議題はなあに?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
結婚、出産、身分の違い…仲良かった友達に会いたくないのはダメな感情?
 学生時代を毎日一緒に過ごした親友。でも、年齢を重ねるに連れて「あんなに仲が良かった友達なのに、今ではもう会いたくない」...
「委ねる」は読めるかも? 「委しい、委せる」はなんて読むのかな
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
仕事帰り、ぶつかりおじさんのちかん被害に遭遇!?  私はどう対処すれば…
 先日、電車の中で「ぶつかりおじさん」に遭遇し、周囲に分からないような形で身体を触られました。あの時、自分はどんな対応を...
選ばなかった人生を歩む「もう1人の自分」と話してみたい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
魅惑の“たまたま”の横から…モデル!? に立候補した茶トラ君
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
同僚A「昨夜、課長と歩いてました?」同僚B「私も見ました」って…。職場グループLINE公開処刑!!
 グループLINEは、仕事上でもとても便利な連絡ツールですが、時に意地の悪い人がいるのも現実…。  職場での公開処...