48歳、乳がん検診の「要精密検査」に衝撃。独居暮らし男の孤独死に重なる…誰にも看取られない恐怖

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-06-15 10:27
投稿日:2025-06-14 06:00

「赤羽に行きたい」という二人に抱いた思い

 赤羽は、私たちが通っていた大学からも近い繁華街で、もちろん当時は住んでいる友人も多かった。詩織も美鈴も百恵の近くの家に住んでいた。

「行きたい! 3人で行くなんてすごくエモい。最近テレビでよく見るし、みんなで行きたいと思っていたんだ」

 美鈴は弾んだ声で即答した。エモい。今風の言葉で反応する彼女には大学生の娘がいるらしい。その影響だろうかと、百恵はしても意味ない考察をする。

 二人とも、卒業してすぐ赤羽を出て行った。「来たい」と言ってくれたのは嬉しかったが、百恵の中にどこか腑に落ちない部分もあった。

 ――こんなときだけ都合いいんだよなぁ。

 長年、赤羽を離れて見向きもしなかったくせに、テーマパークに行くような感覚で「行きたい」「エモい」と気軽に言える彼女たちにカチンときた。

 しかも今日は日曜だ。百恵はこれから、夕方からシフトが入っている。24時間のコールセンター、こんなことはザラだ。ゆっくり酒を飲む暇なんてない。

「ごめん、これから会社に行かなきゃ」

 気にしないようにしていたが、王道の人生を歩く彼女たちを目の当たりにすると、やはり心が疲弊する。卑屈になってしまう。しなくてもいい見栄を張ってしまう。自然と突き放すような言葉が出てしまっていた。

 20年も会っていなかったんだ。これからもメールやSNS上だけの付き合いなのだろう。百恵は自分からバリアを張るように、その場を後にする。それでも彼女たちは笑顔で手を振っていた。

健康診断の結果は「……え、D?」

「佐藤さん、こちらどうぞ」

 その夜、業務中に派遣の営業さんから一通の封筒を手渡された。先日うけた健康診断の通知だった。

 毎年、見るだけ無駄なくらい、Aが並んでいる。今回もそのつもりで、すぐに見るつもりはなかった。

 しかし、問い合わせの電話も鳴らず、じっとしていれば昼間の不愉快な出来事を考えてしまいそうだった。百恵は手持無沙汰で義務的に封を切る。

「…え、D?」

 乳がん検診の欄に、要精密検査と書いてあった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


宝物の小さな記憶
 夏の思い出を振り返る。  季節の移ろいと共に、宝物も、思い出も、色合いが変わっていくんだね。
ほっこり癒し漫画/第84回「迷いインコ歌をうたう 後編」
【連載第84回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
衆院選で話題を呼んだ「鞍替え出馬」。そもそも「鞍替え」の語源は?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
介護に遺産…しんどい大人の悩み、相談に「ちょうどいい」相手の見つけ方
 大人こそ行きつけのスナックを見つけて欲しいと言いまくってきた私ですが、このあいだその気持ちに拍車をかける出来事がありま...
えっ、ダイソーで「優秀クッションファンデ」が買えちゃうの? 古いメイク→流行り顔へのアプデにベストかも
 IDATE(アイデイト)は、あの有名ファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」とダイソーがコラボして生...
オトナの余裕にキュン! どこまでもついて行きたいダンディ“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
花業界の革命児「雑草」に注目! 秋冬の散歩で見つけたい“おしゃれ雑草”テッパン6種
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋は神奈川の片田舎にありますが、夜はいよいよ暖房のシーズンに(我が家のニャンズは皆20歳近...
更年期は洗濯物が増える!「汗とともに去りたい」と心がチクチクしたら…
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
オカモト「まるでこたつ おやすみスイッチ」は40女の睡眠を守れるか
 早いもので10月ももう後半。金木犀の甘い香りが心地よい季節になりました。秋が深まるにつれ、筆者を苦しめるのが足の冷え。...
若手社員のスピード離職を防ぐ3つの対策。これ以上人が減ったら回らない
 近年、多くの会社で「スピード離職」が問題になっています。せっかく優秀な社員が入社しても、数週間から数カ月の間に退職して...
グループLINEで悪口が始まったときどうしてる? 対処におすすめな万能ワード3選
 グループLINEで悪口が始まったとき、あなたはどう対処していますか? 悪口は、人を傷つけるだけでなく、自分にとっても非...
突然の御開帳! ありがたーい縞三毛猫君の激レア“たまたま”に歓喜
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
呼び声が届く距離感
 どこを見ているの?  私は、こっちだよ。
「病院まで車で送ろうか?」ご近所さんの親切が沁みる…。疲れた心に響く助け合いLINE3選
 人と人が助け合う場面を見ると、心がじんわりと温かくなりますよね。情報に溢れ、毎日バタバタと過ぎていく現代では、人間関係...
「妍を競う」は女同士のマウントとは限らない
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「既読スルーは悲しい」と送ったら、LINEの返信を溜めてしまう人の意外な返事が…
 LINEを送っても未読のまま返信がないと「嫌われたのではないか?」と不安になりますが、LINEの返信を溜めてしまう人は...