「時代と寝た男」加納典明(18)俺が撮った山口百恵の写真こそが本当のエロス。篠山紀信も「やられた」と

更新日:2025-06-12 17:03
投稿日:2025-06-12 17:00

【増田俊也 口述クロニクル】

 写真家・加納典明氏(第18回)

 小説、ノンフィクションの両ジャンルで活躍する作家・増田俊也氏による新連載がスタートしました。各界レジェンドの一代記をディープなロングインタビューによって届ける口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。

  ◇  ◇  ◇

増田「やっぱり山口百恵は別格だったんですね」

加納「完全な別格です。で、戻ってすぐそういう機会があった。僕はまた雑誌やなんかの仕事をすぐにやりはじめて。そういう中で百恵を撮ることになった」

増田「実際に撮影してみて百恵さんはどうでしたか。沖縄で撮影された有名なあの写真かな」

加納「そうです。あの沖縄の写真です。本当に素晴らしい魅力がありました。ずぬけた魅力です。アイドルも僕はたくさん撮ってますけど、彼女はわからない部分を持ってるんですよ。理解不能なの。他の子たちはもう全部理解できます。写真上で理解してます。ところが彼女はなんか、見えないものがあるというか。それが僕を惹き付けるんです。とにかく別格の魅力でしたね」

増田「やはりそうでしたか」

加納「はい。もちろんあの時代のトップアイドルだからヌードにはできませんが、僕の撮った写真なんか、水着がぴったり張りついて乳首が完全にわかるやつがあって。あんなのよく撮らせたなと思うんですけども。その写真残ってますよ。ぜひ皆さんにも見てほしい。あれが本物のエロスです」

増田「百恵さんてすごい力ですね。その写真、掲載媒体は何だったんですか」

加納「月刊プレイボーイ*だったと思う。バックナンバー探せば見つかりますよ。水着自体が体が透けて見えるような水着でね」

※月刊プレイボーイ:アメリカの『プレイボーイ』を再編集して日本語版とし、1975年から2008年まで集英社から発行されていた月刊誌。当時のアメリカの空気をそのまま持ってきた先鋭的でカラフルな誌面デザインと、沢木耕太郎など多くの優秀な若い書き手の登用で一世を風靡した。

アラーキーとお篠の存在

増田「篠山紀信さんと1日ずつ撮影したんですよね、媒体は別だけど競作のような形で」


加納「そうそう、そのときですよ。そのとき“お篠”が言ったらしいですよ。『今回は加納にやられたよ』って」


増田「典明さんが篠山紀信さんを“お篠”と呼ぶらしいという噂は聞いていたんですが本当なんですね(笑)。紀信さんとかアラーキー(荒木経惟)*っていうのは典明さんにとってどういう存在なんですか」


※篠山紀信と荒木経惟(しのやまきしん/あらきよしのぶ=アラーキー):加納典明と同時代に活躍したトップ写真家。女性のグラビア写真を主戦場とし、3人はライバル関係だとされた。篠山紀信はふわりとした作風でアイドルや大女優のここぞというときのヌードを美しく仕上げ、逆にアラーキーは庶民を撮影するような作風でアイドルの裸を読者の眼線にまで持ってきて世間を騒がせた。


加納「いいやつらだと思っていますよ。世間はライバルというんだろうけど、ライバルはいた方がいい。写真の良し悪しは好き嫌いだし、どれが売れるかはそれぞれ次第だし。自分と違う技とか考えとか思想とかいろいろ持った写真家がいるってのは僕は好きでしたね。今の若い連中にライバルなんていないでしょ。どうしてんのかなと思いますよ」


増田「そもそも写真見ただけで『これは誰々の写真だ』っていうのがわかるものがなくなってきてますね。本物の写真家がいなくなってきてます」


加納「明快にこの写真はあいつのだ、この写真は彼の写真だとわからない」


増田「デジタルになって余計に」


加納「うん。だからこれからは立体にしていくべきだと思う。立体っていうのは写真家をね、立体的に見せていくっていう意味。写真家も立体的に、被写体である芸能人や女優さんも立体的に。プロダクションも芸能事務所もそういうふうにやってもらったらありがたがるだろうし。商品として、芸能人というか女優さんというかの新しい価値観を探せというか、新しいアプローチをして、男子も含めて。売れている男の子と売れている女の子との何かコラボの世界をつくったら面白いしね」


(第19回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が好評発売中。


(増田俊也/小説家)

エンタメ 新着一覧


恋はつらいものよ…愛助への想いが募るスズ子に麻里(市川実和子)の名言
 スズ子(趣里)と愛助(水上恒司)の仲はすぐに広まり、羽鳥善一(草彅剛)や麻里(市川実和子)にもうわさについて追求される...
桧山珠美 2023-12-22 14:23 エンタメ
スズ子と愛助の恋路を妨害! メッセンジャー黒田のメッセンジャーぶり
 愛助(水上恒司)と坂口(黒田有)の話を聞いたスズ子(趣里)は、耐えきれずに部屋に押し入る。  ここで話をつけよう...
桧山珠美 2023-12-18 14:45 エンタメ
渡辺翔太が国宝級イケメンランキング初V!Snow Manはめめだけじゃない
 恒例の「ViVi国宝級イケメンランキング 2023年下半期」が発表されました。  NOW部門1位は、八木勇征(2...
スズ子と愛助「年の差恋愛」に障害…おでん屋台店主・伝蔵の台詞に注目
 愛助(水上恒司)から「恋人になってください」と言われ、スズ子(趣里)は「ちょっと考えさせてほしい」と答える。それ以来、...
桧山珠美 2023-12-16 06:00 エンタメ
手越祐也ポジティブのカラクリ、新曲は微妙も「アイドル」カバーはバズる
 ジャニーズ時代はNEWSに所属し、バラエティー番組でも活躍した手越祐也。退所後は“辞めジャニ”として主戦場をYouTu...
堺屋大地 2023-12-15 06:00 エンタメ
押しかけ暴走気味の愛助(水上恒司)とスズ子の恋もいよいよ
 神戸への巡業の帰り、スズ子(趣里)は久しぶりにはな湯を訪ねる。懐かしい常連客の面々に迎えられ、昔のように庭で話をする。...
桧山珠美 2023-12-13 14:25 エンタメ
水上恒司君臨!デビュー作「中学聖日記」から5年経っても年上好き♡
 昭和18年、アメリカとの戦争に終わりが見えない中、「福来スズ子とその楽団」は地方巡業を重ねていた。  スズ子(趣...
桧山珠美 2023-12-11 15:50 エンタメ
松下洸平は“最弱の目力”が魅力!ネトラレ役が似合う、時代が生んだスター
 松下洸平(36)の主成分は優しさです。現在、出演しているドラマ「いちばんすきな花」(フジテレビ系)を見ていてしみじみそ...
茨田りつ子がまさかの前座!? 「大空の弟」を歌いこなす趣里の表現力
 羽鳥善一(草彅剛)が企画した合同コンサートは、ブルースの女王・茨田りつ子(菊地凛子)とスウィングの女王・福来スズ子(趣...
桧山珠美 2023-12-07 14:30 エンタメ
「大空の弟」は聞き物、りつ子“むっつり顔”のチラシにNHKの芸の細かさ
 弟が戦死してスズ子(趣里)が落ち込んでいるのではないかと心配した羽鳥善一(草彅剛)は、食事でもしようとスズ子を自宅に誘...
桧山珠美 2023-12-06 15:20 エンタメ
「一、二、三、四、五」揃った楽団員名、余計に六郎の不在が際立つ
 役場の職員が梅吉(柳葉敏郎)の元を訪れて届けた報せには、六郎(黒崎煌代)が戦死したと記載されていた。  しばらく...
桧山珠美 2023-12-05 14:00 エンタメ
松嶋菜々子の誇らしげな語りに納得…イケオジ反町隆史を保持するお手柄感
「男の美しさは、肌に出る。」――資生堂「SHISEIDO MEN」のCMに出演する松嶋菜々子&反町隆史夫妻が話題です。 ...
櫻坂46異例の韓国人気賞1位!紅白復活&史上最多動員、大逆転なぜ起きた
 櫻坂46が11月25日および26日、千葉・ZOZOマリンスタジアムで「3rd YEAR ANNIVERSARY LIV...
こじらぶ 2023-12-02 06:00 エンタメ
歌わない福来スズ子はただの人…からの脱却!らしさ炸裂のパクった楽団名
 楽団が解散して数週間、スズ子(趣里)は何をするでもなく日がな一日を過ごしていた。そんな時、スズ子は大阪に戻ってこないか...
桧山珠美 2023-12-01 14:00 エンタメ
茨田りつ子の覚悟、ラスト3分の急展開!弟子入り志願者の名に一抹の不安
 警察から解放されたスズ子(趣里)は、三尺四方の中だけで自分の歌を表現するのは難しいと悩んでいた。  警察署で自身...
桧山珠美 2023-11-28 15:27 エンタメ
日中戦争の影響じわり、スズ子が「カカシみたいなワテ」になった
 スズ子(趣里)と梅吉(柳葉敏郎)が東京で一緒に暮らし始めて1年、梅吉は何をするわけでもなく酒を飲むだけの毎日を過ごして...
桧山珠美 2023-11-27 15:10 エンタメ