聞かれたことしか言っていなかっただけだ
3人の子供。しかも、彼女の胸には小さい赤ちゃんが抱かれていた。私と彼が沖縄旅行に行っていた、その辺りに産声をあげたらしいその子。計算することは苦手だけど、こういったことに頭はよく回る。
彼は、嘘はついていないだろう。隠してもいないはず。
ただ、聞かれたことしか、事実を、言っていなかっただけなのだ。
立ち回り的に、当然のことなのに。
――別に…想定内だし。私たちは、単なる遊び友達なんだから。
わかっていたことだから、傷つきは、しない。彼の人生から、生活から、別枠の存在であることを、改めて実感しているだけ。
「あれ? 帰るの? 超ダッシュできたのに」
ホテルの部屋をそのままに、自分の生活に戻ろうと駅に着いた時、ちょうど彼も駅についたところだった。
少し前なら、運命だと思うシチュエーション。だけど、なぜか何の感情もわかなかった。
「ごめんね。ちょっと疲れちゃってね」
「大阪みやげのタコ焼きあるのに」
「タコ焼き? 大阪行っていたんだね」
「そうそう。部屋で一緒に食べようと思って」
私は「都内近郊の観光地」なんだ
開封の跡がある、冷めたそれ。新幹線の中で食べ残したものだろうか。私はあの親子が「夕飯はタコ焼きにしよう」と言っていたことを思い出した。
「タコ焼きはいらないけど、ホテルのレストランでディナーならいいよ」
「オッケー。飛び込みで行けるかな」
あっさりと受け入れられたことに自信の立ち位置を改めて知る。所詮、自分はこの場所のような、都内近郊の観光地なんだって。
右手にある特別言及もない551の保冷バッグに、いちいち消耗する感情が嫌だった。
――ディナーをおごってもらったら、タクシー代もらって帰ろうっと。
今晩、寝る前にインスタをアップしようと思った。
この後、近所の居酒屋に行って、仲のいいマスターと一緒にはしゃいでいるストーリーをあげるつもりだ。タイムスタンプをわざわざ押して、今日の日焼けの跡を見せつける。
“彼女”には、ゆっくり寝てもらいたいと思った。
私も、今日は家のふとんでひとり、ぐっすり眠りたい気分なのだ。
Fin
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