見た目は熟女、心は小学生。アドレナリン全開踊り子の夏休み初日。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-07-31 15:27
投稿日:2025-07-31 11:45

ステージが始まる時間、地酒やあら煮をつまむ

 立ちっぱなしで3時間近く粘った後、ビール片手に釣果を腹に収め、それから炎天下の上り道をさらにてくてく歩き、広大なブルーベリー園で気が済むまでブルーベリー狩りをした。次々と口に放り込むものだから、抱えた籠には1粒も貯まらない。

 友人とはぐれるほど夢中で木々の奥へ奥へと進み、気付けば閉園時間を過ぎていた。帰りは途中下車して路地を歩き、目星をつけた酒場に入る。劇場では、そろそろ4回目のステージが始まる頃だろうか。終演後のビールが待ち遠しかった時間に、夏休みの私は地酒を飲み、地魚の刺身やあら煮をつまんでいる。

 ふと友人が私の顔を見て「日焼けしたね」と言った。酔って顔が赤くなっただけだろうと居酒屋のトイレで鏡を見たら、すっかりあら煮の煮汁みたいな色に焼けていた。

身体は衰えても、心は小学生のまま

 いつの頃からか、スタジオでダンスレッスンをすると、筋肉痛が翌日ではなく翌々日にやってくるようになった。時には3日後にようやく痛みを感じて、寝ている間にベッドから落ちたのかと勘違いするほどだ。その著しい遅れは必ずしも老化現象とは言えないのかもしれないが、以前よりも身体能力が衰え、何もかもに遅れが生じている。

 日に焼けるのは早くなったが、代謝が落ちたせいか、白く戻る頃にはもう次の夏だ。友人との会話で思い出せなかった人の名や本のタイトルも、思い出せなかったことを忘れた頃に思い出す。そしてついに、疲労までもが、遅れてやってきた。

 夏休み2日目の朝、猫が10匹乗っかっているように体が重い。なにがパーッと遊んで復活だ。おまけにブルーベリーの過剰摂取でトイレが近く、まるで熟睡できない。ただひたすら横になり、ベッドから出たらもう、半日が終わっていた。

 今年も夏休みは楽しみな予定がいっぱいだ。海で泳いでダイビングをして、SUPも漕いで、できれば船で沖へ出て過去最高にデカい魚を釣り上げたい。45歳になっても夏にはしゃぐ心は小学生のままだ。

 私には子供がいないし、今のところ目立った白髪もなく老眼の気配もないから、大人になった自覚もない。だが夏休みのあとに憂鬱な新学期が訪れるように、もう小学生ではないという現実が、どどっと遅れて押し寄せるような気がしてならない。

 先日海に潜って一緒に泳いだ海亀から、遅れたお中元として玉手箱が届く気さえしている。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「大阪万博」開幕から2カ月、どうなった? 変化した5つの常識。インパク、わんぱく…ファン専門用語も解説
 4月13日に大阪・夢洲で開幕し、連日にぎわいを見せている大阪・関西万博。累計入場者数も900万人を突破し(6月23日現...
美猫が勢ぞろい! 天才モデルに令和の王者まで♡ 癒しの“にゃんたま”の9連発
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年6月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかし...
記憶から消えていく…加工アプリを使わずに撮った、本当の顔
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きな...
にゃんたま族はヒモが好き。誘惑に吸い寄せられて…この通り!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【動物&飼い主ほっこり漫画】第99回「気分転換も必要ニャン」
【連載第99回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「スメハラ」ですよ! 香水に“マナー”があるの知ってる? ビジネス、プライベート別の付け方をおさらい
 上手く使えば人の心を鷲掴みにできるアイテム、香水。香りは人の記憶に強く残るので、相手に自分の印象を残したいときに役立ち...
イタタ…妻が困る「非常識」夫のトンデモLINE3選。「挨拶するわけないやろw」ってどの口が?
 恋は盲目。“彼氏”のときは見えなかったけど、“夫”になったら気になりまくる非常識なパートナーに頭を抱えている女性もいる...
【女偏の漢字クイズ】「妻、委、要、妾、姿」の中の仲間外れはどれだ?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
ドラマ『ひとりでしにたい』未婚・子なしは悪なのか? 独女が“人生の選択肢”を考えた結果、決めたこと
 アラフィフ独女ライターのmirae.です。50代になり、「老後」や「終活」といった言葉が、少しずつ現実味を帯びてきまし...
そこまでやる!? 節約ガチ勢の爆笑テクニック「焼肉の匂いはご馳走です」夫の節約はどう操縦する?
 少しでも生活を楽にしようと節約に挑戦している人はたくさんいるはず。独特な節約方法を編み出した強者もいるようです。 ...
夜職の沼…ホステスが“出戻る”ふたつの理由。まずはお金、もうひとつは?
 スナックというものに関わりはじめて十数年。働く側としてもお客さん側としても、いろんなことを知り、経験してきて、やっぱり...
も~鬱陶しいなあ! なぜか“鼻につく”人の8つの特徴。否定から入られると不快なんです
 あなたが「鬱陶しいわ」「なんかイライラする」と鼻につくのはどんな人ですか? きっとさまざまな意見が飛び交うでしょう。 ...
優しさのつもりが…「ホワイトハラスメント」に要注意! 部下のやる気と成長機会を奪っているかも
 セクハラ、モラハラ、カスハラ、マタハラ…。ハラスメントに厳しい昨今、次々と「これはハラスメントだ」といわれることが増え...
令和の王者・にゃん太郎の“たまたま”、この雄姿を見れるのは今だけ! 去勢避妊手術が始まる
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
本当のルッキズムってなんだ? Z世代が支持するグループ「HANA」が社会に“No”を突き付けた影響
 社会に深く根付き、日々私たちを苦しめる「ルッキズム」。そんなルッキズムが支配する社会に対し、Noを突きつけるアイコニッ...
借りパクは許さん! 催促LINEの“波風立たない”お手本集。日傘や漫画にお金…どうする?
 人に貸したものを返してくれなかった時、催促するのは気まずいと感じる人が多いですよね。今回は、LINEで相手に嫌な思いを...