【平塚の女・足立亜理紗 29歳】
亜理紗は夫・慶士の不自然な泊り大阪出張の真相を探るべく、浮気相手である女のインスタを見て、大磯のプールリゾートへやってくる。そこで女を発見し、隣のパラソルを陣取るが……。夫はどうやら本当に大阪にいる模様で……。【前回はこちら】【初回はこちら】
◇ ◇ ◇
ひたすら子供たちとプールで遊んだ後、私はパラソルに戻った。カンタと莉奈はまだ波のプールで遊ぶという。
あの女は、にやけ顔でスマホをいじっていた。
――てか、プールにひとりで来て、何しているんだろう。
ナンパ待ち、でもしているのだろうか。しかし、ナンパなんて時代遅れだし、なにより彼女はそんな年齢でもないだろう。おそらく、私とは同世代なのだから。
「やっと静かになってくれましたよ。うるさくてごめんなさいね」
彼女がゴキゲンそうで、私もゴキゲンなのをいいことに、思わず話しかけてしまった。きょとんとした顔を返される。気にしない。もう私は無敵だ。
いつの間にか夫の愚痴を話していた
「い…いえ、気になりませんでしたよ。それにしても大変ですね」
意外と気にかけてくれていたようだ。ちょっとだけ見直した。
「――旦那様は?」
夫のことを知ってか知らずか、突然話題に出されてドキッとした。もちろん、知っていないテイで話を進める。
「平日ですからね。夫は仕事人間なんで。慣れたものです。だけど、その分稼いでくれるから。子供たちには優しいし、必ず出張の時はお土産を買ってきてくれるので十分満足して――」
と言ったところで、乳児が泣いた。了承を得て、ケープの中で授乳をすると、途端大人しくなった。
「大変ですね」
目の前の女は改めてつぶやいた。正直、当事者としてはさほど大変ではない。日常のことで、もう慣れてしまった。
だけど、子供の世話より、もっと大変なことがある――押し込めていたが、その静かで優しい口調に、思わず本音が漏れた。
「実は、そうなんです…いつもワンオペで。夫は帰って来てもすごく遅くて飲んでいるし…この前なんて」
ふと、日々の愚痴を話してしまっている自分がいた。
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