「着飾るのは何もないから」偽セレブがマウントを取る理由。“本物の令嬢”の前で見つけた本当の自分

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-15 17:48
投稿日:2025-09-13 11:45

「ただ、幸せに見られたいだけなのよ」

 お開きになった後、三人はエレベーターホールで別れた。

 彼女と藤堂さんは高層階用、綾乃は中継フロアで低層階用に向かう。

 綾乃は藤堂さんをエントランスまで送るつもりだったが、その役目は真琴さんが引き受けてくれた。ふたりきりで話したいこともあるのだろうと、女子高生のように弾んでいる彼女たちの背中を見送った。

 息苦しい。

 明日から、真琴さん…いや、たっくんママと、どのような顔をすればいいのだろうか。目の前が真っ暗になった。

 もう、背筋を伸ばして会うことはできない。真っ暗になった世界で、自分を見失っている。

 ――わたし、結局、何がしたいんだろう。

 帰宅し、ゲストルームよりも一回り小さな自宅で現実の景色を眺めた。

 ガラスの向こうの空に手を添えると、お気に入りのカルティエのタンクが目に入る。毎日腕につけているせいか、どこかビンテージの風味をまとっている。

 ――ただ、幸せに見られたいだけなのよ。

 自分は、見上げられることで、心が落ち着くのだ。以前の場所は、それができないことに気づいたから、逃げて来た。

 だけど…。

 呆然と窓の外を眺めていると、インターホンのメロディが玄関から聞こえてきた。

 迷った末に応答したその相手は、真琴さんだった。

私がセレブみたいにキラキラしてる…?

「先ほどは、ありがとうございました。お邪魔してごめんなさい」

 彼女はお詫びの品を持ってきてくれた。「家族でよく食べる常備菓子」と、大師巻。煎餅を海苔で巻いた地元の銘菓だという。

「ユリとの再会も嬉しかったけど、個人的に奏太くんママ……いや、私、ずっと綾乃さんとお話ししたくて。でも、」

 ゲストルームで、ずっと浮かない顔をしていた綾乃のことを気にかけていたという。大師巻を差し出しながら、丁重に彼女は頭を下げていた。

「気にしないでください。私そんな表情、暗かったですか?」

 ただ、言葉を繕っただけだが、真琴さんは目を輝かせて顔をあげた。

「気にしちゃうって! 私、綾乃さんに嫌われたくないんです。憧れの存在なんで。いつもキラキラして、余裕があって……」

「……」

 きっと、ゴマすりだろう――そう感じてしまう自分が悲しい。なぜなら、憧れられる自覚がないから。

 そしてふと、綾乃は自分自身の中の矛盾に気づく。

 ――あれ、私、周りから見上げられたいんじゃなかった?

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


義母ガチャ成功、失敗? 嫁&姑界隈の事件簿8つ。「孫は?」にイラッ、金だけ出すのは“神”確定!
 結婚とは切っても切れない「義母」という存在。「何でこんなこと言われなくちゃいけないの?」とイライラさせる義母がいる一方...
【12万いいね】ぺこ、息子からの“誕生日サプライズ”が素敵すぎる…! りゅうちぇるからの影響も明かす「涙目になった」「母として共感」
 海外ガール風の原宿系ファッションスタイルを確立し青文字系雑誌で大活躍。さらに公私ともにパートナーであったryuchel...
【漢字部首クイズ】「勉(ベン)」と同じ部首を持つ漢字はどれだ? (難易度★★★★☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
保護者が喫煙→校庭にポイッ! 非常識なトンデモ親に“ドン引き”した5つの場面。クレームで地獄の空気に
 子をもつ親でも非常識な人は一定数いるもの。そんな保護者に周りが迷惑を被ることも少なくありません。今回は“運動会”をテー...
陰謀論にハマった母のトンデモ主張。娘の離婚は“闇の組織”のせい!?
「あの震災は人工地震だった」「戦争はフェイクで本当は起こっていない」「芸能人や政治家はゴムマスクを被っていて、本物はすで...
夏休みも物価が高いよ!「お金をかけずに楽しむ」方法8つ。インドア派もアウトドア派もこれでOK♡
「夏休み、できるだけ出費を抑えたい…」「お金をかけずに遊びたい!」こんな風に考えている人も多いのでは?  今回は...
ここで既読スルーする!? 驚いた「未返信LINE」3選。いい大人が“仲間外れ”って!
 相手に“既読スルー”されて戸惑った経験は多くの人がしているはず。内容によっては「え? なんかまずいこと言ったかな…」と...
もっと早く買っておけば…! ダイソーの「夏グッズ」大当たりを発見。灼熱の季節はコスパ良く乗り切るぞ
 蒸し暑い夏が始まりました。今年の夏も無事乗り越えられるようにと、ダイソーで「夏に使えるアイテム」を購入してきました! ...
『あんぱん』の方言、実際どう? 高知県民からの評価を聞いた。「あの俳優の声質と土佐弁が相性抜群」
 現在NHKにて絶賛放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。今田美桜が演じる主人公・のぶと北村拓海演じる嵩の二人が、どのよう...
ジメジメ湿度が憎たらしい! 梅雨の「嫌~な思い出」エピソード集。白いスカートが一瞬でビシャッ
 毎年ゆううつな、ジメジメとした梅雨の季節。髪はうねるし、メイクは崩れるし、傘があっても結局びしょ濡れ…なんてこと、あり...
休日がない(涙)私のストレス発散法。祝日ゼロな“魔の6月”はこう乗り越えた!
 祝日がない6月を乗り切った同士の皆さま、お疲れ様です! ただ、残念なことに7月と8月の祝日もたった1日だけ(涙)。休み...
お兄ニャン、そんな無防備スタイルで大丈夫? “たまたま”を心配する妹猫の優しさにキュン♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ゲフッ…炭酸でむせるのは“老い”のせいか。ついに来た「更年期の地雷」はそこかしこに。麺のむせはどうする?
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
世話めんどくせっ!ズボラでも枯らさない「タフネス植物」たち。NASAが認めたスタイリッシュなツワモノも
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋さんに今年も恐怖の季節がやってまいりました。  いやはや最近の日本の夏は、...
「社会人としての責任ですよー」休日に勘弁して! 私が“退職”を決意したLINE3つ
 仕事を辞めるのにはさまざまな理由がありますが、中には「あるLINEがきっかけで退職を決めた」なんて人もいるようです。い...
夫がイクメン=家庭円満とは限らない。妻でも母でもない“私”を取り戻すのは悪いこと?
「おしゃれは自分のため」と言いつつも、パートナーから「きれいだね」なんて一言があれば、それだけで1日中気分がよくなるもの...