「着飾るのは何もないから」偽セレブがマウントを取る理由。“本物の令嬢”の前で見つけた本当の自分

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-15 17:48
投稿日:2025-09-13 11:45

人を見下ろして何者かになったような気がした

 着飾るのは、自分に何もないからだ。

 仕事を辞め、さらにその気持ちに拍車がかかった。見下ろす相手がいることで、心が支えられていた。何者かになったような気がした。だからこそ、見栄えよくすることで自らを保っていた。

 だけど、それ以外の部分を褒められると、途端怖気づくのはなぜ?

「…私、キラキラしてるの?」

「はい! ユリと同じくらい、センスもいいし」

「私と藤堂さんとは月とスッポンよ」

「いやいや、そのワードチョイスもカナりイケてます。薬剤師さんなんですよね? 綾乃さんはお薬や子育てや地域のいろいろなことを教えてくれるし相談できて助かるって、この前綾乃さんが先帰った後にみんな言っていましたよ」

 ママ友に色々なことを教えているのは、先輩ママとしてマウントをとりたいからだ。

 でも、彼女のように素直に受け取って感謝してくれる人もいる。その言葉に、心の中が軽くなっていることに気づく。

「もしよかったら、うちでお茶しない?」

彼女は大きく頷いた。綾乃は、同じ目線で真琴を見つめていた。

高層階か低層階か、もうどうでもいい。

 資産や収入、学歴が上か、下か。高層階か低層階かなど、もうどうでもいい。彼女の部屋と比べれば、小さめのリビングに友達を誘う。

 4人家族にはちょうどいいはずのそのリビング――光あふれるその部屋の真ん中で、真琴さんからもらった大師巻を一緒に食べる。見た目は地味だが、その美味しさに綾乃はうなった。

「本当に美味しいね。こんなお菓子、地元にあるなんてしらなかった」

「もしよければ、今度お教室に持ってきますよ。明日の朝、川崎のアトレで買ってきます!」

「本当に? 私も今度行ったら買おうかしら」

 綾乃は都会から少し離れたこのマンションの森の中で、自分のいるべき場所を見つけだしたような気がした。

 真琴と、同じ目線でほほ笑みあいながら。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ペラペラさが逆に良い!100円均一のトラベルグッズが海外旅行で重宝した
 コロナが落ち着いて旅行する機会が増えた方も多いのではないでしょうか。  トラベルグッズを買い揃えるために100...
私「あ、大丈夫よ?」勘違い女「なんとか調整する」いや誘ってないから!
 自意識過剰だったり、自分に自信があったりする女は“勘違い女”になりがち。そんな女性からのLINEには、思わず「いやいや...
ほっこり癒し漫画/第67回「おかえり銀ちゃん」
【連載第67回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
【45歳からの歯科矯正】医療費控除の手続き、確定申告で役に立つアレ
【これまでのお話し】 45歳で歯科矯正を始めようと思ったワケ(#1)/45歳女、5年越しにワイヤー矯正を決断!(#...
私は子供部屋おばさん?彼氏ナシ・非正規でもシフォンケーキで満ちる日常
 工場内に終業のチャイムが鳴った。  機械の停止音とともに「お疲れさまでした」が飛び交う。  同じロゴの入っ...
工場での単純作業は悪くないが…恋愛経験ゼロの女に起きた“タグ付け事件”
 西荻窪の実家で母親の信美と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。彼女は今の生活に特別な不満もなく、趣味のカフ...
“子供部屋”を出てチヤホヤされて 36歳女性が勘違いから気づいた現在地
 西荻窪の実家で母親と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。平坦な毎日だったが何気なくインスタに投稿していたシ...
酒豪の友達を持った宿命? 飲み会で「割り勘負け」を防ぐ6つの賢い方法
 友達との飲み会は楽しいけれど、気になってしまうのが大酒飲みとの割り勘。お酒を飲まない人なら、会計時に「ソフトドリンク1...
ミス日本は不要? 開催意義と椎野カロリーナ不倫発覚で“分不相応”の根拠
「ミス日本コンテスト2024」に選ばれたウクライナ出身のモデル・椎野カロリーナさん(26)が2月5日、グランプリを辞退し...
2024-02-10 06:00 ライフスタイル
ババア(婆)と言われ、架空の48歳妹になりすました73歳女に思うこと
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
蛙化現象わかったフリしてない?恋愛中でもどこか冷静な若者のリスク管理
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
台湾最高!くまのプーさん気分も味わえる「40女激オシ台湾産ビール」3種
 仕事の後のビールは、全てを忘れさせてくれる大切な存在。そんな1日の終わりに飲む1杯にはこだわりたいですよね。  そこ...
2024-03-07 18:25 ライフスタイル
うんざりするけども!目上の人の苦労話は“秒”で遮断するのはもったいない
「今の人は恵まれてる、昔はさ~」から始まる目上の人の苦労話、みなさんもうんざりするほど聞いてますよね。  その苦労話で...
戦うべき相手は過去の自分 時には昇ってきた階段を振り返る
 時には昇ってきた階段を振り返る。ずいぶんと上がった、と誇りに思うこともあるし、まだこんなところか…と凹むことも。 ...
コミュ力ゼロ、ママ友関係が苦痛でしかない…テッパン切り口&対処法
 子育てをはじめるともれなくついてくるのが、たくさんの人間関係。保育園や学校、ママ友との交流の機会が多いので、コミュ力の...
親を嫌いになってもええやん? 40女が手放せた“無理と我慢”
 早いものでもう2月。新年をきっかけに、今年こそは! と決意を新たにした方も多いのではないでしょうか。  筆者もそのう...