「731」「雪風 YUKIKAZE」…戦後80周年を映画と共に考える

更新日:2025-08-23 17:03
投稿日:2025-08-23 17:00

731部隊を描く中国映画「731」

 今月15日、80回目の終戦記念日を迎えた。この節目に中国では2本の関連映画を公開。ひとつは7月25日から公開中の、「南京照相館」。これは南京大虐殺が起こった1937年、南京の写真館に閉じ込められた中国人7人が、生き延びるために日本の軍人が撮った写真の現像を請け負うが、そこには中国人を虐殺した証拠が写っていて、彼らはそのネガフィルムを何とか残そうと協力するもの。

 この映画が反日感情を助長したためか、先月31日には江蘇省蘇州市の地下鉄構内で日本人の親子が中国人に石のようなもので襲われる事件が起きた。もう1本は、戦時中に中国東北部で細菌戦の研究を行い、外国人の捕虜に人体実験を行ったとされる731部隊の実態を描く「731」。先月公開予定が延期され、満州事変のきっかけ、柳条湖事件が発生した9月18日に公開すると発表された。昨年の同日には、深圳で日本人児童殺人事件が起き、公開が反日感情を高める危険性が懸念されている。

 中国作品は第2次世界大戦を侵略された被害者の立場から捉え“対日本軍”のドラマとして戦争を描いている。これに対し、日本映画は、主人公が戦時をどう生き抜いたか、あるいはどう亡くなったかを描く作品が多い。すでに公開されている堤真一と山田裕貴主演の「木の上の軍隊」は、戦争末期の沖縄戦を生き延びた兵士2人が、敗戦を知らないまま2年間ガジュマルの木の上に隠れて生き延びる話だし、菊池日菜子主演の「長崎-閃光の影で-」(公開中)は、原爆が投下された後の長崎で、負傷者の救護に奔走した看護学生たちの姿を、日本赤十字の看護師たちによる手記を基に映画化したものだ。

駆逐艦・雪風の役割を描いた邦画「雪風 YUKIKAZE」

 15日から公開されている「雪風 YUKIKAZE」は、「ゴジラ-1.0」(2023年)にも登場した、戦時中の激戦を生き抜いて必ず帰還した駆逐艦〈雪風〉を描いたもの。しかし描写のメインは戦闘シーンではなく、その機動性の高さを生かして仲間の人命救助のために活動した“雪風自体の役割”。一人でも多く生きて帰るために尽力する艦長を、竹野内豊が演じている。

 日本の戦争映画は「陸軍残虐物語」(1963年)に代表される軍隊内部の理不尽さを描いたものや、日本軍が敗戦へと転じるプロセスを大きな戦闘の流れによって見つめた「ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐」(60年)、結婚と出産という家族にとって忘れられない日を迎えた長崎の一家が、翌日の原爆投下によってすべてを奪われてしまうまでを描く「TOMORROW 明日」(88年)、戦後に発症した原爆症によって引き裂かれる若いカップルを吉永小百合と渡哲也が演じた「愛と死の記録」(66年)など、軍隊や庶民の立場からさまざまな視点で描いてきた。

 現在では作り手の高齢化が進み、戦地へ行った当事者がいなくなったこともあり、組織としての軍隊を描く作品は減って、もっと大きく戦争自体を、個人の立場から検証・否定する映画が目立ってきた。戦争は弱き者の命を容赦なく奪う。多くの人を巻き込む戦争は、理屈抜きの悪行だ。節目の終戦記念日は映画と共に、戦争とは何かを見つめなおすいい機会になるだろう。 

(映画ライター・金澤誠)

エンタメ 新着一覧


15分の朝ドラで高揚感を得られるんだ! のぶ&嵩の“子役最終回”が見せた未来の夫婦関係
 久しぶりに登美子(松嶋菜々子)の顔を見て胸がいっぱいになる嵩(木村優来)だったが、登美子は困惑した表情を浮かべる。のぶ...
桧山珠美 2025-04-12 06:00 エンタメ
旧ジャニ会見から1年半、STARTO社の再興成否…CD売上と人権意識から考察、ファンは一体何を望む?
 2023年9月および10月、旧ジャニーズ事務所は創業者問題で2度記者会見を開いた。その後、同社所属タレントのテレビ・C...
こじらぶ 2025-04-12 06:00 エンタメ
「あんぱん」阿部サダヲの配合絶妙な演技。高知つながりで“しょくぱんまん”登場!
 元気のない家族のために力を貸してほしいというのぶ(永瀬ゆずな)の頼みに、草吉(阿部サダヲ)は1回きりの約束であんぱんを...
桧山珠美 2025-04-09 17:20 エンタメ
『あんぱん』RADWIMPSの主題歌は本当に「合っていない」のか? 正統派・朝ドラOPの真逆を貫いた意味
 2025年3月31日より、NHK連続テレビ小説『あんぱん』の放送が開始された。国民的キャラクター「アンパンマン」生みの...
「R-1」さや香・新山や吉住らベテラン勢はなぜ負けた? 売れっ子は予選で有利、決勝で不利な理由
 最もおもしろいピン芸人を決める「R-1グランプリ2025」(フジテレビ系)が3月8日に開催された。決勝常連組やベテラン...
帽子田 2025-04-09 09:48 エンタメ
ヤムおんちゃん草吉はあんぱん代をきっちり集金。ジャムおじさんとは違う“先導”に期待膨らむ
 草吉(阿部サダヲ)のあんぱんを食べて、生きる力をもらった朝田家。羽多子(江口のりこ)は内職の仕事を始め、釜次(吉田鋼太...
桧山珠美 2025-04-07 17:20 エンタメ
「あんぱん」ウラの見所~初週からブチかまし!細部に神経が行き届いた作品だと印象付けた中園脚本
 結太郎(加瀬亮)があの世に旅立ち、悲しみに暮れる朝田家。しかし、のぶ(永瀬ゆずな)は一粒の涙も流さなかった。そんなのぶ...
桧山珠美 2025-04-05 06:00 エンタメ
“百戦錬磨”香川照之ゆえの提案「全6話、スイッチを仕込んでいます」【主演ドラマ『災』インタビュー】
「連続ドラマW 災」(WOWOW、6日22時スタート)は、湿り気を帯びた陰鬱な雰囲気とぞわりとする劇伴が感情を揺さぶる不...
朝ドラ「あんぱん」の描写に25年前の“名台詞”が…CA役だった松嶋菜々子の変わらぬ美貌はさすが過ぎる
 ある日、のぶ(永瀬ゆずな)は千尋(平山正剛)とシーソーに乗る嵩(木村優来)を見かけるが、千尋が軽くて動かない。そこでの...
桧山珠美 2025-04-02 17:20 エンタメ
「あんぱん」ヒロインの着物がオレンジ色の納得。ドキンちゃんのモデルゆえの演出
 昭和初期、家族の愛情をたっぷり受けて育った少女が高知の町中を勢いよく駆けていく。「ハチキンおのぶ」こと朝田のぶ(永瀬ゆ...
桧山珠美 2025-03-31 17:20 エンタメ
朝ドラ「あんぱん」男性俳優陣がめちゃ豪華! 赤楚衛二路線で大ブレーク必須な最注目の若手は?
 31日(月)から新しい朝ドラが始まります。その名も連続テレビ小説「あんぱん」。あの「アンパンマン」の作者やなせたかしと...
【おむすびにモヤっと】伏線をまき散らして放送終了、そしてモヤモヤが残った。結はとんでもなくヤベ~やつ?
 歩(仲里依紗)から詩(大島美優)を引き取ろうとするのは甘かったかもしれないと聞いた結(橋本環奈)は、仮定の話を気にして...
桧山珠美 2025-03-29 06:00 エンタメ
【写真特集】倖田來未の美し過ぎるバスト♡ギリギリショット5連発
【この写真の本文に戻る⇒】40代の倖田來未が《全盛期と変わってない》と話題に…20年前と同系ファッションでも、なぜ痛くな...
2025年「冬ドラマ」を調査! 独走状態の『ホットスポット』、疲れた大人世代に『御上先生』は難しかったか
 2025年1月よりスタートした冬ドラマ。惜しまれつつ最終回を迎えたドラマがあった一方で、期待されていたものの視聴率が振...