なぜ『鬼滅の刃』は心に響く?ボロボロだった女が“ある台詞”で救われた話「雷に打たれたような衝撃でした」

宮本デン ライター
更新日:2025-09-16 08:51
投稿日:2025-09-16 08:00

作中の「ある言葉」にハッと気づかされた

 そんな毎日を送る中、ある瞬間突然「ぷつん」という音が聞こえ、そのままPCを触ることができなくなってしまいました。

 それからというもの、ベッドから起き上がれず、ご飯も食べられない。そんな苦しい状態のときに出会ったのが『鬼滅の刃』です。

 休職期間中、友人から勧められて読み始めたのが『鬼滅の刃』。世間では既に大流行していたので、自分から手を出せずにいたとのこと。そしてある話に差し掛かった時、物凄い衝撃を受けることになります。

 それは『鬼滅の刃』第四巻収録の第33話「苦しみ、のたうちながら前へ」。雷の呼吸の使い手である我妻善逸が蜘蛛鬼一味の兄と戦い、師範である爺ちゃんとの思い出を回想する話です。

「爺ちゃんが善逸に向けて言った『一つのことしかできないならそれを極め抜け』というセリフを読んだ瞬間、まさに雷に打たれたような衝撃を受けました。

 ずっと仕事を辞めたくない気持ちと、仕事に戻りたくない気持ちで葛藤していたんですが、爺ちゃんの言葉を読んで「この会社には自分の極めたいことがない」と思えたんです。そこからはすんなりと次へ進めるようになりましたね」

『鬼滅の刃』は自分の精神の核のようなもの

 まずゆかりさんが起こした行動は、「ドッグトレーナーの専門学校に通うこと」でした。ゆかりさんにとっての「極めたい一つのこと」は犬関係の仕事であると気づき、これまでにはない思い切った行動を取ることができたんだそうです。

 もうひとつ、ゆかりさんが選んだのは「漫画の編集者」として再び出版業界に戻ること。これまで雑誌編集、漫画編集を経験してきたゆかりさんですが「もう一度漫画を創りたい。『鬼滅の刃』のような、人の心を動かす作品創りに携わりたい」と感じ、再び編集者として向き合っていく決心ができたといいます。

「『鬼滅の刃』が無ければ自分が今どうなっていたかわからない。人生をかけて極めたいことを見つめなおすきっかけをくれた『鬼滅の刃』は、自分の人生にとっての“精神の核”のようなものです」

 そう嬉しそうに話すゆかりさんは、過去の失敗から自分に合いそうな会社を見極め、業務委託として出版社へ。今は自分のペースで漫画の編集者とドッグトレーナーの二つの仕事をこなし、充実した生活を送っています。

「これからもやりたいことをやれるようにしたい。今仕事や人間関係で苦しんでいる人が、本当にやりたいことを見つめられるようなきっかけになれば」と続けるゆかりさんの声色には、かつての辛さや苦しさを乗り越えた強さと優しさが滲み出ていました。

『鬼滅の刃』によって、人生がポジティブに大きく変わったゆかりさん。多くの人の心を燃やした物語は、これからもたくさんの人の人生を救っていくことでしょう。

宮本デン
記事一覧
ライター
1993年神奈川生まれ岩手育ち。ネット文化を愛し、ネット文化と共に生きるサブカルライター。大衆が作り出すカオスがどこまでいくのか見届けたくて、ネット文化や、音楽などサブカルチャー全般に関する執筆をしています。愛するものを深掘りし拡大、視点を変えて照らし合わせて。世界の解像度を上げることをひたすら追求しています。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


出費額は100万円!? なぜ筋肉マッチョは「ミスターコンテスト」に挑むのか
 女性の外見や内面の美を競うミスコンテスト(以下、ミスコン)。ルッキズムの議論が広がる昨今、ミスコンの意義を問う議論が絶...
記憶鮮明な阪神・淡路大震災発生前夜の“異変”。冬眠モードのカメが突然大騒ぎして…
 8月8日16時42分ごろ、日向灘を震源とする最大震度6弱の地震が発生。その後、気象庁が初めて「南海トラフ地震臨時情報(...
“たまたま”チェックに余念のない茶トラ君♡ 写真集の表紙になれるかな?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「妊娠アウティング」経験者たちのエピソード 悲劇はどうすれば防げたのか
 皆さんは、「妊娠アウティング」という言葉を知っていますか? もしかしたら、実際に被害を受けたことがある人もいるかもしれ...
あの人気観葉植物が地震を予知!? 植物の異変から事前兆候を察知する話
 テレビ画面に映し出される南海トラフの「巨大地震注意」の文字…。不安で心が押しつぶされそうになりますな。ワタクシが生...
アプローチ中のおんにゃの子は塩対応? “たまたま”の恋の行方にドキドキ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
盆地を見下ろす丘で
 盆地を見下ろす丘で。  くるくると回る風に吹かれ、空に風の交差点を観た。
ほっこり癒し漫画/第79回「来るかな? ニャー」
【連載第79回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「女郎花と男郎花」読める? ヒント:ジョロウは間違い。初秋に愛でたい
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ミルクに難色、昭和育児の「母乳信仰」って何なん? 押しつけがましい上から目線LINEにイラッ
 初めての育児や、何人もの育児をしているお母さんは、とりわけ、毎日大変! そんなお母さんを追い詰める身内、どうにかならな...
セレブ妻が赤羽のサイゼリヤに落ちるまで 上流階級との「品格の差」に絶望
 悠々自適なセレブ生活を送っている医師の妻・大宮由香。ある日、お嬢様学校に通う娘のクラスメイト・愛舞(らぶ)とその母親・...
勝ち組ママ友が放った屈辱的な一言。私を「一般人」と一緒にしないで!
 四ツ谷・番町エリアに暮らす医師の妻である大宮由香は、娘・葵を名門お嬢様学校に通わせている。小学校に入った葵から友人がで...
嘘でしょ…娘の友達が「キラキラネーム」? 玉の輿セレブの大きな誤算
 都会の中心でありながらも、ハイグレードな住宅街として知られる四ツ谷・番町エリア。  大宮由香は、小学校に入ったば...
スメハラ? 90年代の出版社は“異臭”がプ~ン…男と香水と時代の変化
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
移住の思わぬ落とし穴。収入激減で大後悔!こんなはずじゃなかった…
 コロナ禍でリモートワークに対応する会社が多くなり、地方への移住を一つの選択肢として捉える人は増えました。でも、あまり調...