「クソださ…」田舎を自分の力で変えてやる――理想の“カフェ”を開いた女の野望と誤算。おじさんのたまり場にしないで!

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-19 11:40
投稿日:2025-10-18 11:45

Googleで☆1つ…運営の難しさを実感

 あれから、松波さんは日替わりで色々なお客さんを連れてきてくれた。町内の方々、俳句サークルの面々、商工会の連中など。

 嬉しかったが…、残念なことに来てくれるお客さんはあまりお金を落としてくれないのが厄介だった。店で一番安いオレンジジュースを注文し、昼から夕方までお仲間たちに席を占領されたこともある。

「相変わらず、俺が連れて来た客以外は来てないねー」

 得意げな彼に、朱里はおかわりのライスを出しながら、皮肉まじりの笑顔で返答した。松波さんのせいで、朱里が求めている若い人が店の中を覗くだけで帰っていったこともあるのだ。

「まぁ、食うもんがねぇんだよな。ガッツリ系メニュー増やしたらどう? 市のキャラとコラボすんのもいいかもな。観光課に知り合いいるから話付けてやろうか??」

 いらぬアドバイスだ。応援する気持ちがあるのなら、その分注文が欲しかった。

「あーちゃんの門出を応援してあげたいんだよ~」

 ただ、この反発が自分のワガママなのもわかっている。彼が自身の求めているお客さんでないから、どんな意見も聞く気がないことも。

 今日は、Googleで☆1つをつけられてしまった。「港町なのに海鮮丼がなかった」「常連さんがうるさかった」などと。

 おそらく、インスタを見てきてくれた観光客だろう。地元特化系インフルエンサーに頼んで紹介してもらったのだが、それも逆効果だったようだ。

 朱里はカフェを運営することの難しさを身に染みていた。

俳優をしている同級生の男を思い出す

「はぁ…」

 地元のカルチャーを盛り上げて、この無機質な街を目覚めさせたい。純粋な想いは現実の刃で日に日に削がれてゆく。

『こんなはずじゃなかった』――だけど、そんなありがちな失望は絶対にしたくなかった。まだまだこれから、辛抱の時だと歯を食いしばる。

 閉店後。店内のモニターに流していたフランス映画を消して、CSの映画専門放送にチャンネルを合わせた。沈んでいる時は、心の養分を摂取し、現実逃避をするのが一番だ。

 なかでも、映画は一番の気分転換。このカフェの名前も、映画用語からとった。

「あ、大輝が出てる…」

 映し出されていたのは、10年ほど前のインディーズ映画だ。偶然にも、東京で俳優をしている小、中学校の同級生だった男が主役だった。

 朱里は先の展開に後ろ髪をひかれながらも、そっと電源を切ったのだった。

#2へつづく:「Google☆1つ」の屈辱。感度の高いカフェは“地元民”に理解されないの? Uターン女が頼った最終手段】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


アラフィフ独女、恋がしたくて何が悪い?「痛々しい」の声に振り回されないで
 アラフィフ独女ライターの私だって、恋をしたい。そんな思いがふと心に浮かんだのは、担当編集さんのおすすめで、Netfli...
これ言ってない? 自己肯定感が低い人、9つの口癖。「私なんか」「どうせ」はもう禁句にしよう
 あなたはありのままの自分を受け入れ、自分の存在を認めたり価値を感じたりできていますか? 自己肯定感が低いと、生きづらさ...
選ばれし“イケにゃん”2匹がご降臨!ゆくたまωくるたまω、2つの鐘にシャッターが止まらない♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ヒィッ! 職場で「敵にしてはいけない人」6つの特徴。シゴデキ人間に嫌われたら終わる…
 職場にはいろいろなタイプの人間が集まっているので、人間関係のトラブルはつきもの。そんななか「この人だけは絶対に敵に回し...
【女偏の難読地名クイズ】「姶良」って何て読む?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
実家で「1泊2食で1万円」はひどすぎん? 帰省して後悔した6つの切ない体験談
「盆休みに実家に帰省して楽しい時間を過ごそう」と考えていても、現実は“ガッカリ”が待っているかもしれません。今回は、実家...
「大阪芸大にピアノ科はない」ことが話題だが…“音楽はお金にならない”は本当か? 芸大卒の意外な稼ぎ口
 参議院選挙で注目を集める参政党の「さや」候補が、街頭演説で「大阪芸大でピアノ科の募集をしたら受験生ゼロ」と発言し物議を...
ま、眩しすぎる…“実家が太い人”6つの特徴「ミラコスタで結婚式なの」って言ってみたい!
「実家が太い」とは、親の経済的に余裕があり、金銭的にも精神的にもサポートを受けられることを意味する言葉。あなたの周りにも...
大変さをわかってよ~! 子持ち女性がモヤッとしたLINE集。無神経な発言しちゃってない?
 女性の交友関係は、結婚や出産を機に大きく変わっていくものです。特に大きな変化となるのが、出産。お互いに話題や興味関心の...
27歳女優が“猫”ブームに思うこと。保護猫活動を通して感じた「命」に対する決意
 配信ドラマ『全裸監督』やロングランヒットを記録した主演映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わ...
気まず…円満退職する6つのコツ。「転職先を言っちゃダメ」ってなんで?
「転職先が決まったけど、今の職場に報告するのは気まずいな。なんとか円満に退職したい…」と悩んでいる人、集合! ...
ポケモンカードは“億越え”も!? 最新「トレカ事情」に驚愕。発掘したドンキーコングは一体いくらになる?
 トレーディングカードを集め出したきっかけは「CNPトレカ」という最新技術を組み込んだ斬新なトレカがきっかけ。  ...
猫さまについて行くと… 草むらの先には“にゃんたまの里”があるのかも
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「丸顔でかわいい」はOK?NG? 相手を不快にさせる“外見いじり”7つの要注意ワード
 何気なく発したそのひと言、もしかすると「外見いじり」だと捉えられるNGワードかもしれません。昔は軽い冗談や褒め言葉とし...
2025-07-17 08:00 ライフスタイル
夏の納会、どうする? 幹事の “苦労あるある”と負担を軽くするコツ
 会社の飲み会、友人同士の集まり、歓迎会に送別会。イベントの数だけ“幹事”は存在します。「幹事を任されるのは、信用されて...
黄色いドライフラワーで「金運」アップを! 置いちゃいけないNGゾーン。埃まみれは問題外です【専門家解説】
 お花を飾りたい気持ちはある。それなのに…気づけば水は干上がり、葉っぱもカリカリ。そんな経験ございませんか?  ワ...