ひとりきりの楽屋で、ドアに挟まれた不在連絡票に震える夜。私って自意識過剰?

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2026-01-27 11:45
投稿日:2026-01-27 11:45
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

伝票番号がない連絡票

 それは私が滞在するストリップ劇場の、楽屋口のドアに挟まれていた。見慣れたオレンジ色の紙は、某通販サイトの不在連絡票だ。しかし伝票番号の記載はなく、数字が並ぶはずのマス目には、配達員とは思えないふざけたニックネームが記入されていた。全く身に覚えのない名前だ。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

 宛名の欄には私のフルネームが、ご丁寧に「お姉様」と付け加えて手書きされていた。いつもSNSを見ていることや、応援しているといったメッセージが余白に書き込まれているから、ファンレターとして受け取るべきなのだろうか。しかしこの用紙は、配達員にしか手に入れられないはずだ。

 そして配達員ならば、ここがどういう場所で、誰がこの扉の向こうで寝起きしているのかを知っている。SNSを見ているならなおさらだ。年が明けたばかりの北陸で、外はうっすらと雪が積もっている。劇場は5日間の正月休み。

 年末から楽屋に居残りしていた私は、石油ファンヒーターでは温まりきらない底冷えに震えていた。

夜の楽屋には私ひとりきり

 ストリップ劇場にしては広大な、2階席まである客席は今、懐中電灯がないと歩けないほどの暗闇だ。そしてぽつんと明かりを灯した楽屋にいるのは、私ひとりきり。

 年末まで一緒にいた他の出演者2名は次の地へと旅立ち、衣装が詰まった段ボールが全て引き上げられると、同じ場所とは思えぬほど広さを感じた。出演者だけが使う楽屋口の「戸締り注意」の張り紙に目が引き寄せられる。過去にうっかりカギを閉め忘れ、招かれざる客が楽屋に侵入する事件があったらしい。

不穏な妄想が止まらない

 ひとまず伝票を写真に撮って、友人にLINEで送った。誰かに伝えておかねばと思ったのだ。ミステリー小説の読み過ぎかもしれないが、北陸の地、深夜に降り積もる雪、広くて古い館に女がひとり、という条件が揃っては、不穏な妄想が止まらない。

 劇場スタッフにも電話で報告すべきだろうか。しかしせっかくの正月休みに、私のくだらない妄想で叩き起こすのは忍びなかった。伝票には「SNSに上げないでね」と書かれている。やってはいけないことだという認識はあるらしい。

 しかし、その心配は無用だ。あなたに言われなくても、私の面倒な自意識がSNS投稿を許さない。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


白米信者の夫もご満悦!米が高いなら「もち麦」を食べればいいじゃない
 米価格の高騰が止まりません。農林水産省が3月24日に発表した米の平均小売価格は、5キログラム入りが4172円。とうとう...
ボスママに嫌われる人の特徴5つ。子どもの入園・入学シーズン、ロックオンは回避したい!
 これから子どもの入園・入学を控える女性の中には「ボスママとうまくやっていけるかな…」と不安になっている人もいるのでは?...
天界からのパワーを受信中? 神聖な空気が漂う厳かな“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
伴侶、ペット…大事なパートナーの死の乗り越え方。花屋が痛感する「ほどほど」と「さっぱり」
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は、ギフトやデイリーユースの販売に加え、冠婚葬祭をはじめとした「ライフイベント」...
バツイチ女一匹、大学院での「ポンコツ商店会研究」が高評価! 学問と実践、どっちがムズイ?
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
グレイヘアは腰が引けるよね…。それでも中年女性の白髪はチャンスだと思えた“素敵な一言”
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
既婚者マチアプが大盛況。更年期=女の終わりにあらず、恋も人生もアップデートしたい40代女性の決意
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方をテーマにブログやコラムを執筆している豆木メイです。  今回は「更年期」...
ママ友の裏表に震えた3つの話。子どもつながりとはいえ、皆と仲良くする必要はない?
 子どもを通して接点を持ったママ友。仲良くなるにつれて、良くも悪くも「こんな人だろう」とイメージが固まるものですが、果た...
遊び疲れた帰り道…夕日の中、友達の声に耳を澄ませる“たまたま”君
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
都電が走る風景もどんどん変わっているようだ
 歩行禅って知ってる?  歩きながら「ありがとう」や「ごめんなさい」を唱えると、ココロがすっきりするらしい。 ...
【異なる句読点探し】「!?」の中に隠れた異なる“一文字”は?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。毎日頑張るあなたがちょっぴり得した気分になれますよう...
まだ40代?もう40代? 老いを痛感した切ない瞬間6選。夜の生活で途中休憩したくなるトホホ
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。今回は、40代を過ぎて老いを実感した人のエピソードをご紹介し...
他人への「うらやましい」をやめられない人の対処法3つ。嫉妬心を少しでも手放そう
「なんで私はこんな生活をしているのに、友人ばっかり幸せそうなの…」「みんな毎日充実してそうなのに、私は全然充実していない...
40代の倖田來未が《全盛期と変わってない》と話題に…20年前と同系ファッションでも、なぜ痛くない?
 歌手の倖田來未(42)が23日、自身のインスタグラムを更新。4月13日に開幕する『2025年大阪・関西万博』関連のイベ...
猫になりたい! 春の訪れを教えてくれる自由奔放な“たまたま”8連発
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年2月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかし...
「私もう〇〇じまいしました」解放感半端ない!40代女性がやめたこと6選
 あなたには「そろそろやめようかな」と思っている習慣はあるでしょうか? 今回は40代の女性たちに「やめたこと」を聞いてみ...