物事の終わりの「残念です〜」に、どう答えればよかったか。そして心に残る本当の気持ち。

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2026-02-14 11:45
投稿日:2026-02-14 11:45
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

私はどう答えるのが正解なのか

「えっ、終わっちゃうんですか? 残念です~」と言われて、私は何と答えるのが正解なのだろう。「ですよね~」と他人事のように同調する。「申し訳ございません」と謝る。「えっ、そうですか?」と問い返す。

 どれもズレているような気がするが、とりあえず嘘にならない範囲で返すしかない。「え~は~」相手にとっては物足りないだろうが、そんなところで勘弁してほしい。正直、自分でもどう思っているのか、よくわからないのだ。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

69年続いた個人書店の閉店

 街の本屋というのは、たいてい入口にレジがあって、何も買わずに出て行くのが少し気まずいような作りになっている。新宿区とはいえ、ぽっかり守られたような中井の小さな商店街。そこで69年間、営業を続けた個人書店が閉店する。

 その知らせは、書店の公式サイトやSNSで発信され、話題をまあまあ呼んだはずだが、届いて欲しい地元の常連客にこそ、全く気付かれていなかった。レジ脇に置いたA4サイズのパネルで、だいぶ前から閉店をお知らせしている。

 しかし、何度となくスルーされ、え、今さら?というタイミングで「閉店!?うそでしょ?!」と驚かれるのだ。相手はまだ何か話したそうだが、そういう時に限って、会計を待つ人が並んでいる。やはり「え~は~」と濁して終わらせた。

 書店員を10年以上、やってきた。大手チェーンの大型店舗でアルバイトを始めた時はもう、出版業界は右肩下がり。電子書籍が浸透し始め、コロナがあり、本はネット書店で買う時代、気付けば教科書だって電子だ。

 その間、私は書店の正社員になり、いくつかの店舗を渡り歩き、別の会社に移籍もした。それでも自分がいる店舗の閉店を、たった一度しか経験していないのは、だいぶ運が良かったのだと思う。

 その一度だって、決して業績が悪かったせいではなく、本部のえらい人がどうこうして、白羽の矢が立っただけのことだった。あの店はとても愛されていたから、残念に思う人は多かったはずだ。

 けれど私はちょうど閉店間際の頃、ストリップの仕事が忙しく、ほとんど店頭に立たずに終わってしまった。だから「残念です~」に対する適切な答えがわからないまま、今に至る。

積み上げてきたことが「無」になる

 ただ、店長から閉店を知らされた時、ぽかんとしたことは覚えている。日々ひとつずつ積み上げてきたこと、バックヤードで話し合い、喧嘩したり歩み寄ったりしたこと、みんなで決めた品出しのルールや、ホッチキスをどこに置くとか、棚の傷を隠すために貼ったポスターとか、そういうことが全部無になるのだ。

 誰かが段ボールを切って作った引き出しの間仕切りも、エクセルを何度も書き換えて作ったフェアの記録も、全部ゴミ箱行きだ。一生続くなんて思ってはいなかったけれど、終わりを意識してやってきたことなんて、ひとつもなかった。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ボスママに嫌われる人の特徴5つ。子どもの入園・入学シーズン、ロックオンは回避したい!
 これから子どもの入園・入学を控える女性の中には「ボスママとうまくやっていけるかな…」と不安になっている人もいるのでは?...
天界からのパワーを受信中? 神聖な空気が漂う厳かな“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
伴侶、ペット…大事なパートナーの死の乗り越え方。花屋が痛感する「ほどほど」と「さっぱり」
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は、ギフトやデイリーユースの販売に加え、冠婚葬祭をはじめとした「ライフイベント」...
バツイチ女一匹、大学院での「ポンコツ商店会研究」が高評価! 学問と実践、どっちがムズイ?
 本コラムは、地元の“幽霊商店会”から「相談がある」と言われ、再始動の先導役を担う会長職を拝命することになったバツイチ女...
グレイヘアは腰が引けるよね…。それでも中年女性の白髪はチャンスだと思えた“素敵な一言”
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
既婚者マチアプが大盛況。更年期=女の終わりにあらず、恋も人生もアップデートしたい40代女性の決意
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方をテーマにブログやコラムを執筆している豆木メイです。  今回は「更年期」...
ママ友の裏表に震えた3つの話。子どもつながりとはいえ、皆と仲良くする必要はない?
 子どもを通して接点を持ったママ友。仲良くなるにつれて、良くも悪くも「こんな人だろう」とイメージが固まるものですが、果た...
遊び疲れた帰り道…夕日の中、友達の声に耳を澄ませる“たまたま”君
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
都電が走る風景もどんどん変わっているようだ
 歩行禅って知ってる?  歩きながら「ありがとう」や「ごめんなさい」を唱えると、ココロがすっきりするらしい。 ...
【異なる句読点探し】「!?」の中に隠れた異なる“一文字”は?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。毎日頑張るあなたがちょっぴり得した気分になれますよう...
まだ40代?もう40代? 老いを痛感した切ない瞬間6選。夜の生活で途中休憩したくなるトホホ
 年齢を重ねると、体の老いを実感する瞬間が増えてきますよね。今回は、40代を過ぎて老いを実感した人のエピソードをご紹介し...
他人への「うらやましい」をやめられない人の対処法3つ。嫉妬心を少しでも手放そう
「なんで私はこんな生活をしているのに、友人ばっかり幸せそうなの…」「みんな毎日充実してそうなのに、私は全然充実していない...
40代の倖田來未が《全盛期と変わってない》と話題に…20年前と同系ファッションでも、なぜ痛くない?
 歌手の倖田來未(42)が23日、自身のインスタグラムを更新。4月13日に開幕する『2025年大阪・関西万博』関連のイベ...
猫になりたい! 春の訪れを教えてくれる自由奔放な“たまたま”8連発
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年2月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかし...
「私もう〇〇じまいしました」解放感半端ない!40代女性がやめたこと6選
 あなたには「そろそろやめようかな」と思っている習慣はあるでしょうか? 今回は40代の女性たちに「やめたこと」を聞いてみ...
ゴミは減る、お金は減らない!100均の「使い捨てない」アイテム3つ。ティッシュ使いすぎ問題も解決かっ?
 ラップ、ウェットティッシュ、液晶クリーナーなど今までは使い捨てできるものを使っていましたが、何度も繰り返し使えるものに...