月吹友香さん<前> 私がR-18文学賞で高齢者の性を描いた真意

コクハク編集部
更新日:2019-10-18 12:35
投稿日:2019-10-16 06:00

「老女の性」を描くのに最も気を使ったのは…

――物語の舞台は大阪の介護施設。キヌ子は住居者相手に透けたネグリジェ姿で“逆夜這い”を仕掛け、看護師たちに見つかっても悪びれた様子もなく「なんでアカンのん」と猫なで声を放ちます。登場人物の中には標準語を話す者もいる中で、キヌ子は大阪弁です。キーマンに関西色をまとわせた理由は何ですか。

月吹 「老女の性」という重いテーマを描くにあたっていちばん気を使ったのは、読後感が重くならないようにすることでした。老女の性に険を持たれる方もいるはず。そこをどうしたら薄めて書くことができるのかと考えました。読んでくださる方々が苦痛を覚えず、思考回路を遮断するようなことにもならないためには、キヌ子はチャーミングでユーモアのある人物である必要があった。そのキャラクターを際立たせるには大阪弁は有効で、小憎らしい発言をしても、コミカルに仕上げるスパイスになったと思っています。

~~一糸まとわぬ姿でナースコールを握りしめたキヌ子が「ごめん。興奮して押してもうたわ」と、首をしならせた。~~(「赤い星々は沈まない」本文より)

――確かに「ごめんなさい。興奮して押してしまったわ」とは印象が異なります。

月吹 標準語だと、どことなくポルノ感が出てしまいますよね。

介護施設に“極秘潜入取材”

――月吹さん自身は東京のご出身です。

月吹 ええ。15年ほど前に夫の仕事の都合で大阪へ越してきました。住んだ当初はそれはもうカルチャーショックでした。東京とは違うという覚悟みたいなものはあったのですが、想像以上で(苦笑)。スーパーに行ったら隣の知らないオバちゃんから「お姉ちゃん、ブロッコリー、今日、何に使うん?」なんて話しかけられるし、電車のホームやバス停で並んでいる時に軽く咳でもすれば、「飴ちゃんいる?」と微笑んでくる。ああ、本当にバッグの中に飴玉が入ってるんだなあって(笑)。その人懐っこさや人情味に助けられたことは数えきれません。ただ、当時は大阪のオバちゃんパワーに圧倒されっぱなしでしたね。

――大阪の空気を肌で感じたところから生まれた作品ということになるのでしょうか。リアルな描写にこだわり、実際の介護施設にも足を運び“極秘潜入取材”をしたそうですね。

月吹 そんな大それたことではないのですが、「祖母の入居を考えている」という嘘の名目で見学にうかがいました……。無名の作家志望の人間としてはこの方法しか思い当たらず、施設の方には大変申し訳ないことをしましたね。

――リスクを冒した取材の収穫は?

月吹 いろいろとあるのですが、施設の方が「おばあちゃんは夜も元気ですからね」と言われたのを聞いて、背中を押されたというか、納得する自分がいました。

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「出世したくない人」激増のナゼ 共通する特徴と4つの理由に妙に納得…
 令和の今、社会人の中でも「出世したくない」と考える人が非常に増えているようです。少し前まではどうにかして出世してやろう...
5年に1度の逸材にゃ!ノーブルすぎる“たまたま”に思わず合掌
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
26歳ギャラ飲み女子の貯金額は3000万円!昼はOL、非港区系の堅実生活
 経営者や著名人、人気のインフルエンサーも利用する「ギャラ飲み」なるサービスって知っていますか? 東京都内のみならず、全...
いくつになっても、誰かに褒められるのはやっぱりうれしい
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
ハロウィンの新顔!小粒な「ソラナムパンプキン」は枝にぶら~んぶら~ん
 まもなくハロウィン。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋さんに、今年も大きなパンプキンが店頭を占拠する季節がやってま...
出産を機に中途半端なキャリアに…今にマッチした働き方は?
 先日X(旧Twitter)で、米ハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏がノーベル経済学賞を受賞したニュースを...
シンデレラ城より“我が城”が好き!LINEが示すめんどくさがりやの実態
 めんどくさがりやの人は、できるだけ身動きしないで済むように、いろいろな方法を駆使し、少しでも楽な生活を追求していますよ...
水しぶきの向こうに見えた太陽 長く暑かった季節を偲んで
 次の季節に向かうとき、少し寂しくなるのはなぜだろう。  高3の夏の終わりに自分の手でプールのカギを閉めたときとは...
出産で疎遠に…結婚後に態度が変わる女友達の特徴&無理しない付き合い方
 学生時代に仲の良かった女友達も、結婚した途端に疎遠になってしまったというのはよくある話です。どうせなら、結婚しても長く...
発達障害グレーゾーンの長男が憎い…ある一言で私の何かがプツンと切れた
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
パーフェクト“たまたま”の精悍&クールな眼差しに痺れちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ゴールデンボンバーの「女々しくて」は言い得て妙だった!
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
LINEのない生活は無理!父の死、仕事の失敗、自分の病…心が救われた話
 仕事で大きなミスをして落ち込んだり、大事な人を失って悲しんだりと、気持ちが沈んでしまう瞬間がありますよね。そんなとき、...
他人の不幸は蜜の味でも不倫より「よろめき」のほうが風情があっていい
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
義母が若すぎるとこうなるのか!介護の心配もジョークで交わせるって素敵
 年下の男性と結婚した場合や、夫の母親が若くして出産している場合には、若すぎる義母が誕生するケースがあります。中には、義...
ほっこり読み切り漫画/第59回「ボクは君で、君はボク」
【連載第59回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「「しっ...