専業主婦が小説家を目指したきっかけは…
――結婚後は専業主婦として夫を支える日々を送っているそうですが、小説を書こうと思ったきっかけは? もともと作家を目指していたんですか。
月吹 作家なんて、それこそ選ばれた一部の方々が生業にされるものだと思っていたので、遠い世界の話でした。
――では、どうして?
月吹 仕事を辞めてからもどこか悶々としていたんです。そんな時、シナリオセンターのワークショップを体験した友人に感化され、自分でも行ってみたら面白くて面白くて。一文字ずつ一行ずつ自分の思いを形にしていくことに魅せられました。小さな頃から妄想好きだったこともあり、「こんなに楽しいことがあるんだ。めちゃめちゃ楽しいやん!」って。もう水を得た魚のようでした。そして、徐々に映像に必要な情景描写が求められるシナリオより、自由度の高い小説に魅了されるようになっていき、大阪文学学校(大阪市)に通うことにしたんです。
――モヒート好きを公言されているところからラテン系の情熱家だとお見受けしていたのですが、実際、なかなかの行動力ですね。
月吹 ラテン系というわけではないのですが、キヌ子のエピソードを書く時はAndra(ラテン系ミュージシャン)の曲を流していました。子供の頃は自分の思いを表現したいのだけれど、具体的に何をどうすればいいのかが分からない焦燥の中にいたように思います。小説を書く時は、何かこう、心につかえていた澱が吐き出される感覚があり、そこに惹かれたのだと思います。
「あの作品を書いてくれてありがとうね」
――いまから6年前に初めて書いた青春小説で群像新人文学賞の一次審査を通過するも、それ以降は他の文学賞に応募してもさっぱりという状況が続いたとか。
月吹 「本当は何が書きたいんだろう」と自答していた私に一筋の光、目指す方向性を導いてくださったのが、R-18文学賞への応募だったんです。自分の作品を振り返って読んでみたら、登場人物の年代や物語の内容問わず、女性の主人公ばかりを書いていた。それで「ああ、これだ、これしかないな」って。
大賞受賞後に痛感すること
――大賞受賞直後、執筆に愛用していたPCが壊れてしまう事態に。30万円の賞金の一部で新しいものを購入し、現在は短編を執筆中だそうですね。
月吹 書いては直す作業の繰り返し。賞をいただいてからの難しさを痛感しています。「赤い星々は沈まない」は疼きの感じられる作品だと評価していただいたのですが、大賞受賞はもしかしたら私の筆力ではなく、テーマの力だったのかもしれないと思ったりもします。
でも、こんなことがあったんです。文学学校でお世話になった講師から声をかけていただき、学校へうかがったのですが、80歳を超えた女性の生徒さんから「あの作品を書いてくれてありがとうね」と声をかけていただいた。それは私にとって何よりの賛辞。これからも女性の心の機微を大切にすくい取りながら、共感を持ってもらえる作品が書けたらと思っています。
◇ ◇ ◇
女心と秋の空。天候が変わりやすい秋の空模様に女性の移り気な心をたとえたことわざがあるけれど、それを私たち自身が楽しめるような心の余裕が持てたら、一体どんな景色が見えるのでしょうか。何はともあれ、まずはふうーっと深呼吸。オトナ女子の自分磨きは永遠だけに、焦らず、ゆっくり。そして、自分に甘くまいりませんか。
(聞き手・文=小川泰加/コクハク編集部)
▼つぶき・ともか 1978年生まれ、東京出身。銀行勤務を経て主婦へ。「赤い星々は沈まない」で第18回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞。好きなお酒は広島の地酒「雨後の月」とモヒート。
※「女による女のためのR-18文学賞」…新潮社が主催する女性限定の公募新人文学賞。年齢制限はなく、15歳の熟女でも80歳の少女でも応募OK。2002年の第1回から10年間は「女性が書く、性をテーマにした小説」を広く応募していたが、第12回(2012年度)以降は官能描写の濃淡に関わらず、「女性ならではの感性を生かした小説」を募集。現在は第19回(2020年度)の作品応募が始まっている。
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