期待どおり! 「108」は松尾スズキ節炸裂のR18禁コメディー

内埜さくら 恋愛コラムニスト
更新日:2019-10-29 06:00
投稿日:2019-10-29 06:00
 甘美な欲望に貪欲かつ忠実なオトナ女子にオススメの作品を紹介します。今回は絶賛公開中の松尾スズキ氏最新作です!

監督・脚本・主演“一人3役”に挑んだ初めての作品

 みなさんは「松尾スズキ」という名前を聞いて、何を思い出すでしょうか。劇団『大人計画』主宰者? 俳優? 筆者は個人的にずっと思っていました。「何かおもしろい仕掛けを仕込み、人をワクワクさせて楽しませてくれる人」だと。

 そして、期待どおり作ってくださったのです。長編監督映画4作目にして初めて監督・脚本・主演全てに挑んだ映画『108~海馬五郎の復讐と冒険~』で。本作は完成披露上映でひっきりなしに爆笑が起きている、抱腹絶倒のコメディーです。

 松尾スズキ氏が演じる海馬五郎は人気脚本家。世間でいうところの成功者です。本来であれば(たぶん)イヤな仕事は断れる立場にいるはずなのですが、気が進まない仕事も率先して引き受けます。その理由は3つ。

1. お金が好き
2. 妻が浪費家
3. 妻を愛しているから

 3つの理由のうち、2つに妻がランクイン。これだけで五郎が愛妻家だということが分かりますが、中山美穂さん演じる元女優の妻・綾子は年若のコンテンポラリーダンサーと浮気をします。

怒り方ひとつとっても松尾スズキ節

 綾子が匿名でFacebookに投稿していた内容を読んで五郎は浮気を知るのですが、自宅でのいさかいは修羅場のはずなのに、どこかコミカル。自身の投稿文の音読を強制されて綾子が泣き出した途端、五郎は原稿の催促をされます。すると、泣いている綾子に向かって五郎は言い放つのです。

「その感情、キープしとけよ! (原稿が)終わったら必ず蒸し返すから!」

 “松尾スズキ節”が炸裂。「そんな怒り方する人、いる!?」と、笑ってしまいました。

 そして、妻に不貞をはたらかれていると知った五郎の哀しみと怒りは、復讐心へと変貌します。不倫相手の男性に請求できる慰謝料の相場は200万円。五郎の資産は2000万円。離婚すると半分の1000万円を妻に持っていかれます。

「わりに合わない!」と悟った五郎は、資産の半分、1000万円を妻以外の女性を抱く費用にあてると決断するのです。

 R18+指定作だけあり、その後はセックスシーンのオンパレード。風俗嬢に「タマがなくなるでしょう~?」と言われたり(そんなこと、あるわけがないのですが)、3Pをするために呼んだ女性2人がレズビアンだったり。綾子を思い出して五郎が萎えると、高級風俗嬢に「ネットに(私が魅力的ではないと)書き込むつもりでしょ!」と激昂されたり。

 全員ほぼハダカでエロスなシーンのはずなのに、随所に“松尾スズキ節”が込められていて笑ってしまうのです。

ローションまみれ「女の海」は圧巻

 本作で話題になっているのが、「女の海」のシーン。何十人もの男女が、全裸でローションまみれになりまぐわう姿は圧巻です。

 松尾氏がいうには、「(糸井役の)岩井(秀人)さんの前貼りが、気づいたらなぜか僕の手の中にありました」とのこと。ローションの粘着力に負けて、外れてしまったのでしょう。想像しながら観ると、さらに楽しめるかもしれません。

 個人的に「松尾氏、すごいプランを考えたな!」と感じたのが、五郎の父親が病院で亡くなるシーン。五郎と砂山美津子役の秋山菜津子さんの想像を絶する姿と台詞に大笑いさせられ、坂井真紀さん演じる五郎の妹、海馬マリが大きなオチをつくります。松尾氏自身も、「このシーンで、この映画のポテンシャルが決まったも同然でした」と語っていました。

現代の社会問題にも言及

 エロスがピックアップされがちな本作ですが、実は現代の社会問題についても描かれています。結婚は“絶対”を意味する契約ではない事実。離婚にかかる金額。ホストにハマる女性。親の介護問題。この全てをコメディータッチに転換した松尾氏は天才です!

 果たして本当に五郎は108人の女性と合体したのか。綾子は本当に浮気をしていたのか。ぜひ大きなスクリーンで確認を。

「108~海馬五郎の復讐と冒険~」は、10月25日より公開。R18+指定。配給:ファントム・フィルム

内埜さくら
記事一覧
恋愛コラムニスト
これまでのインタビュー人数は3500人以上。無料の恋愛相談は年間200人以上の男女が利用、リピーターも多い(現在休止中。準備中のため近日中にブログにて開始を告知予定)。恋愛コメンテーターとして「ZIP!」(日本テレビ系)、「スッキリ」(同)、「バラいろダンディ」(MX-TV)、「5時に夢中!」(同)などのテレビやラジオ、雑誌に多数出演。

URL: https://ameblo.jp/sakura-ment

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


早くも“NHK御用達俳優”の片鱗が?「虎に翼」出演の岡部ひろきはそんじょそこらの2世俳優とは違う
 1日放送「ダウンタウンDX」(日本テレビ系・読売テレビ制作)に故・西城秀樹さんの息子・木本慎之介(20)が出ていました...
なぜ令和ロマンは賞レースに出続ける?3冠制しヘイトも無視する戦闘力
 芸歴10年以下のお笑い賞レース「ABCお笑いグランプリ」(テレビ朝日系/以下ABC)が7月7日に開催。M-1に続き、令...
帽子田 2024-08-03 06:00 エンタメ
航一の秘密、明かされる。久々の回想シーンでも発揮した直道の顔芸パワー
 判決後、涼子(桜井ユキ)の店で寅子(伊藤沙莉)らと杉田(高橋克実)たちは偶然顔を合わせる。  戦争で娘と孫を亡く...
桧山珠美 2024-08-02 16:00 エンタメ
【写真特集】ワンピース姿を披露する、珍しく清楚なあやまん監督
【この写真の本文に戻る⇒】 【独自レポ】あやまんJAPANは健在だった! Tバックにぽいぽいコール、コンプラ無視の危ない...
優未の言葉「困っている子を助けるのは普通」に教えられた真っ当なコト
 寅子(伊藤沙莉)と航一(岡田将生)は、涼子(桜井ユキ)の店がたびたび嫌がらせを受けていたことを知る。警察に相手にされず...
桧山珠美 2024-07-31 16:30 エンタメ
赤いミサンガの女・美佐江、来た~!“放置エピソード”の回収がお見事
 寅子(伊藤沙莉)と優未(竹澤咲子)の姿を見ていきなり号泣した杉田(高橋克実)。実は杉田は昭和20年の長岡空襲で娘と孫を...
桧山珠美 2024-07-29 16:45 エンタメ
目黒、ニノを“沼落ち”続出の松村北斗「西園寺さん」が猛追!視聴率やTVerではない意外なデータが急上昇
 7月も後半に入り、2024年夏期主要ドラマの初回がほぼ出揃った。その中でも特に、STARTO ENTERTAINMEN...
こじらぶ 2024-07-27 06:00 エンタメ
「ごめんなさい」を連呼する航一。“戦時中の何か”は来週判明する?
 玉(羽瀬川なぎ)の将来を奪ったのは自分だと、涼子(桜井ユキ)も悩んでいた。寅子(伊藤沙莉)は2人の決断を応援するため、...
桧山珠美 2024-07-29 15:49 エンタメ
涼子さまの消息も明らかに…「ヒロインじゃない面々」のその後を描く意味
 寅子(伊藤沙莉)は「学校に友達はいない」という優未(竹澤咲子)の発言が気にかかる。  出勤すると、杉田(高橋克実...
桧山珠美 2024-07-23 15:45 エンタメ
夏ドラマ何見てる?『新宿野戦病院』『ブラックペアン2』への本音を調査
 2024年7月スタートの夏ドラマが出揃ってきましたね。今期もたくさんのドラマが放送していて、どれを見ればいいのかわから...
“カウンセラー”星航一(岡田将生)、ちぐはぐぶりがチャーミングだった件
 父親の話が聞きたいと言う優未(竹澤咲子)に、寅子(伊藤沙莉)は優三(仲野太賀)の話をすることができない。寅子は航一(岡...
桧山珠美 2024-07-18 15:50 エンタメ
なぜ塚地武雅、藤井隆はドラマ出演が続く? 不人気芸人との決定的な違い
 7月に入り、2024年夏の新ドラマが次々にスタートしています。なかでも話題になっているのが、宮藤官九郎脚本の『新宿野戦...
高橋克実「ショムニ」超えの名演技に注目!歴代朝ドラで舌打ちといえば…
 山の境界線をめぐる現地調停で書記官の高瀬(望月歩)と申立人の森口(俵木藤汰)との間にトラブルが発生。寅子(伊藤沙莉)も...
桧山珠美 2024-07-17 15:30 エンタメ
木村拓哉は逆に演技がうまい! わざと「いつもキムタク」を貫く役者魂
 最新主演ドラマ『Believe-君にかける橋-』(テレビ朝日系)が高視聴率でフィニッシュし、かつての人気ドラマの映画版...
堺屋大地 2024-07-17 06:00 エンタメ
【写真で振り返る】『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン3の名場面
【この写真の本文に戻る⇒】我々は何を見せられていたのか…さよなら『バチェロレッテ・ジャパン』S3
我々は何を見せられていたのか…さよなら『バチェロレッテ・ジャパン』S3
 毎週木曜日のお楽しみ『バチェロレッテ・ジャパン』シーズン3がついに完結しましたよ!